vol.25 五感の家
「無印良品の家」で暮らしている方を訪ねて福岡県糸島市へ。
東洋文化研究者のアレックス・カーさんが、せせらぎと虫の音を聴く「木の家」に会いに行きました。

施工例 | 2018.10.2

ダイアログ3

古いけれど新しい暮らし

知恵が暮らしを楽しくする

アレックスさん
大きな窓から見える眺めは素晴らしいですね。「木の家」と「窓の家」で迷ったって聞きましたが、「木の家」だけど、こここそ、まさに「窓」の家じゃないかと思いますよ。
私は「窓の家」の真っ白な外観も好きだったんですが……。
アレックスさん
そう、迷ったのは外観ね。でもここ、外壁は黒じゃない(笑)。
まあ、「木の家」ならこっちのほうが合うかなと(笑)。
アレックスさん
それはともかく(笑)、キッチンを拝見してもいいですか。
どうぞ、どうぞ。
アレックスさん
この、アイランド形のキッチンは使いやすそうですね。子供たちも楽しいんじゃないですか。
対面で会話もできるし、一緒にお手伝いもしてくれますよ。四角いシンクも気に入ってます。気持ちがいいくらい四角で。
アレックスさん
うん、確かにきれいです。シンプルで広くて。やっぱり深いシンクはいいね。
そうですね。

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アレックスさん
ああ、なかなかいい蕎麦猪口が並んでますね。僕も蕎麦猪口が好きで集めてるんですよ。
え、そうなんですか! 私もどうやら好きみたいで(笑)。
アレックスさん
ふふふ。ちょっといいですか。これ、すごくいいね。どこの器なの?
天草です。
天草に二人が好きな器屋さんがあるんですよ。なぜか惹かれてしまって。
私は佐賀出身なので、有田焼のような磁器に馴染みがあり、昔はつるっとしたものが好きだったんです。最近は土っぽいものにも惹かれるようになって。
アレックスさん
新居の影響もあるのかな。でも、リビングのテーブルに有田焼の明るい器を置いてもきっとキレイでしょうね。いろいろな好みを受け入れてくれそうな、ピュアで懐の深い空間だと思います。

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アレックスさん
ところで、この扉は……。
一畳分のパントリー兼掃除用具入れです。ここでパソコンを使った作業もできます。
アレックスさん
ちょっとしたスペースが大事なんですよね。この先はお風呂やトイレなのかな。
どうぞ。玄関からつながっているので、外から戻ったらここで手を洗ってリビングへ。それから、クローゼットは玄関と浴室の間に設けました。子供のころに暮らしていた実家では、自分の部屋もクローゼットも2階でしたが、朝起きてパジャマでリビングに降りてきて、また着替えに2階に上がるのが面倒だった記憶があって。それで、着替えは全部ここで済ませたいという想いをプランに詰め込みました。
お互いの実家暮らし時代の想いが反映されているんですよね。

アレックスさん
家はかっこよくても、生活の知恵がないと生活がつまらなくなりますからね。それに、着替えスペースはある程度の広さがあるほうが快適ですよね。ここも天井が高くて良い空間じゃないですか。

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日本の暮らしの原点

アレックスさん
ぱっと見回すと僕の家にあるのと同じものがありますね。ああ、これも(笑)。
ひょっとして、アレックスさんも無印良品をよく使ってるんですか。
アレックスさん
使ってますよ。そのイメージがあったので、「無印良品の家」は、きっとシンプルで、グッドデザインなんだろうとは思っていましたが、快適で落ち着く雰囲気は期待以上でした。グッドデザインだけでは快適じゃないんだよね。
僕の無印良品のイメージは機能美です。
アレックスさん
そうそう。それは日本の暮らしの基本ですよ。茶の湯も無駄のない動きが美しい。日本人の暮らしが今日のように複雑化して混乱状態になったのは最近のことですよね。昔はそうではなかったと思う。無印良品は新しいけど古い。日本の暮らしの原点ですよ。
控えめに格好いいですよね。

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アレックスさん
華道家の川瀬敏郎さんに、こんな話を聞いたことがあります。中国の工芸品は素晴らしくて、人の感受性が1から10まであれば、10の美しさで迫ってくる。でも日本の品は8か9。だから、もう少し「何か」が欲しいと思う。日本の工芸は、迫りくるようなすごさではないけれど、その「もう少し欲しい」気持ちがあるから人は惹かれていく。足りないからこそ、すっと気持ちが入る。無理なもの、無駄な力んだもの、重く野暮なものから脱けだして、自然で控えめなところが日本の暮らしの良さなのだと思います。
なるほど。実は「余白」が家づくりのテーマだったんですよ。
アレックスさん
余白はあるけど無駄はないですよね。こういう設計は本来は日本が得意とするものです。片付けコンサルタントの近藤麻理恵さんの著書『The Life-Changing Magic of Tidying Up』は、アメリカでベストセラーですが、この家のように整理整頓ができていて、自分が愛情を持てない無駄なものは所有しないライフスタイルは、アメリカでも注目されているんですよ。
そうなんですか。そういえば仕事も突き詰めると情報の整理整頓ですしね。
アレックスさん
こんな家に暮らすと、仕事にも良い影響があるんじゃないですか。
そうですね。それは実感しています。福岡に転勤になって、仕事のことだけ考えると都心の生活という選択肢もあったけれど、子供たちとどんな暮らしをするかを考えて、この暮らしを選んだんですよ。子供が大人になるころは、いまよりテクノロジーも進化してると思いますが、コミュニケーションや人とのつながりって絶対なくならないですよね。そこに求められる「人間性って何か」を五感で学んでほしい。そう考えたんです。
アレックスさん
でも、昔に戻った生活をするわけじゃなく、高性能な家で先端的な生活を送っている。素敵じゃないですか。

やっぱりバランスでしょうか。例えば、都心で暮らせば通勤時間は短いけれど、いまはその通勤の時間が、ひとりになれる時間として貴重なんですよ。本を読んだり、音楽を聴いたり。
アレックスさん
僕はチェンマイの郊外に家を建てる予定があって、その敷地はここと似た環境なんですよ。これまでは古い家を直してきたけれど、ゼロからつくるのは初めてで、そこは現代的な空間にしたいなと考えています。今日はいろいろ勉強になりましたよ。どうもありがとう。
夫・妻
こちらこそ、ありがとうございました。

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