vol.25 五感の家
「無印良品の家」で暮らしている方を訪ねて福岡県糸島市へ。
東洋文化研究者のアレックス・カーさんが、せせらぎと虫の音を聴く「木の家」に会いに行きました。

施工例 | 2018.9.25

ダイアログ2

暮らしのバランスを考える

2階の吹き抜けを見ながら

アレックスさん
家自体も良いけど、本当に上手に空間を使ってますね。最近はどういう生活すれば楽しく暮らせるのか、わからない人が多いですよ。立派なクルマを手に入れたけど、キーがなくてスタートできない。
暮らしに関しては妻がプロなので、何をどう使えば心地よいのか、アドバイスをもらいながら生活しています。娘もちゃんと片付けるようになりましたし。
アレックスさん
そういう生活思想が暮らしの中に自然にあると、子供も美しい生活を求めるようになりますよ。
長女から怒られるもんね。「歯ブラシ出しっぱなしです!」って。

アレックスさん
あはははは。4歳でここまでしっかりしてると、大きくなったらお父さんは大変だよ、もう。
そ、そうなんですよね。

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アレックスさん
ここ、吹き抜けに面したこのスペースは不思議な空間ですね。子供部屋でもなく、書斎でもない。
用途を決めていないフリースペースです。子供と遊んだり、お絵描きしたり。将来、子供用の個室に3畳の部屋を2つ準備していますが、個室は寝る部屋として使って、勉強はリビングや、このフリースペースですることになるのかな、と思っています。
アレックスさん
贅沢ですよね。普通は少しでも部屋を増やしたいと思いますからね。
おそらく15年後は、また夫婦二人の暮らしになって、そのころはどういう生活をしているのか。それを考えると、用途を限定した部屋より自由な空間がいいなと思ったんですよ。部屋数をどうするかより、掃除のしやすさとか、快適に暮らすには何が必要かを考えましたね。
アレックスさん
なるほどね。
土地に余裕がありますから、それを生かした広い家にしようと考えたこともありましたが、これで十分だなと。
アレックスさん
十分でしょうね。実は古民家も広々としたお屋敷より、小ぢんまりとした温かみのある建物のほうが人気があるんですよ。よく考えると、人の暮らしの価値観の中で「広さ」はそんなに重要じゃないんですよね。
確かに近年の家づくりは、往々にして、子供部屋がほしいとか、書斎がほしいとか、客間がいくつ必要だとか、部屋数をどんどん増やしていく傾向にありましたよね。
アレックスさん
それを一つの家でやろうとすると、家は大きくても結局は狭い部屋で暮らすことになる。実際は客間なんてほとんど使わないからね。その点、この家はオープンで開放的な空間で、のびのび暮らしている。この吹き抜けも、ある意味、日本の昔の民家のつくりですよ。残念ながら新しい日本の家は、天井に圧迫感があるんですよ。でも、この高さは本当に気持ちいい。

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アレックスさんの暮らし

アレックスさん
この家も新しい建材や技術で建てているとは思いますが、プラスチックぽさはなくて、自然な質感を生かしているのは良いと思います。質感は大事ですよ。上質な質感の家で育った子供は、大人になってから差が出ると思いますね。「木の家」のような、木の柱にオフホワイトの塗り壁は日本の基本ですしね。
確かに昔の家は柱に身長を刻んだりしていました。
アレックスさん
サッシのつくりもいい。樹脂製でこれくらいキレイなら悪くないね。壁のオフホワイトとの相性もいいですし。僕は基本的にアルミサッシ反対派だから、古民家再生では木製を使いますが、必ずガラスは複層を選んでいます。
ところでアレックスさんは、どんなお家で育ったんですか。
アレックスさん
僕の親は軍人でしたから、世界中を転々としながら暮らしてきたんですよ。親も家にはこだわりがあったようで、木造住宅や暖炉がある家や、面白い家に暮らしてきましたね。この子たちと同じ年齢のころはナポリの高台で暮らしていました。そのあとはハワイですね。海の近くの古い木造住宅でした。そこは印象深いですね。
素敵ですね。
アレックスさん
おそらく、そんな影響もあって、古い家が好きになったのでしょう。いま暮らしている家は、約250年前に京都・亀岡に移築されたもので、建物自体はもっと古いんですよ。暮らし始めたばかりのころは大変でしたけどね。
えー、250年以上! そこを少しずつリノベーションしながら、ですか。
アレックスさん
そうです。私が仕事として取り組む古民家再生はとにかく徹底的に修繕しますが、亀岡の家は何十年単位で少しずつ手を入れて、いまに至っています。何が快適なのか。人はどんな場所なら落ち着くのか、そういうことはいつも考えてきましたね。
例えば……。
アレックスさん
例えば、寝室はコンパクトで生活スペースには開放感が必要とか。この家と一緒ですね。いろいろな経験を通して気がついたことですが。
なるほど。確かにバランスは大事ですよね。自分たちの生き方や暮らし方でも「バランス」って大切にしてきましたから。都会と田舎、街並みと自然、いろいろなバランスを考えていまの暮らしがあるのだと思います。

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