イラストレーターの大塚いちおさんが、職住一体の「窓の家」に会いに行きました。
家に会いに | 2023.2.8
プロローグ
仕事と家
僕が初めて一人暮らしを始めた部屋は、4畳半のアパートだった。食事も睡眠も、本を読んだり、絵を描くのもそこだった。部屋には、本やレコード、画材や生活用品が、同じように並んでいた。絵を描く事を仕事にしたいと思っていた僕にとって、そこは好きな事が好きな時に出来る天国のような空間だった。
少しコンスタントに仕事が出来るようになって僕は、自宅とは別に仕事部屋を借りた。それまで生活と仕事がすべてが同じ空間だったから、それを切り離す事はきっと難しいと思っていたのに、不思議と仕事の集中力は上がった。それ以来、僕は自宅と仕事場を別にした生活を続けている。たまたま僕には、それが合っていたのだろう。けど、仕事でもある好きな絵を描くことと、生活がうまく重なりあっていたらどうだったのか、今でも時々考える。生活と仕事が融合した空間。
あの時、僕が選ばなかったほうだ。家はどうしたって、その人の生き方が表れる。
今日は、僕が選ばなかったほうの人生を見に来た。
ダイアログ1
だから、ここに建てました
大塚いちおさんが会いにいった家
以前、Hさん夫妻は横浜の集合住宅で暮らしていて、そこで二人はウェブデザインとイラストの仕事をしていました。
暮らすこと=仕事することだった多忙な時間が数年続き、やがて、結婚して長男が誕生。規則正しい生活になった頃、震災後、子育ての環境を考え、ご主人の実家の奈良県へ転居。
部屋を借りて家族で暮らし始めると、インターネットがあれば奥様のデザインの仕事は継続できることがわかりました。
ソフビ人形のコレクターだったご主人は、仕事部屋の一角にソフビ人形制作の作業場を設け、製作者に。
この街を二人の仕事の拠点とする家づくりがスタートします。
敷地はHさんの亡祖父が手間暇かけた畑があった場所。
今も庭と畑をつくり、仕事の合間に二人で手入れしています。
「おじゃまします」
「どうぞおあがりください」
- 大塚さん
- 僕もかつては家で絵を描いていましたが、途中から住まいと仕事場を分けて、今に至っています。でも、この家はあらかじめ夫婦二人の仕事場を組み入れて計画されている。 自分にも、こういう選択肢もあったのかなと思うと興味深いですよ。
真っ白なキャンバスの家
- 大塚さん
- これは僕の勝手な印象なんですが、無印良品の家で暮らす人は「デザイン好き」というイメージがあるんですよね。
- 夫
- 「窓の家」は真っ白な家なので、暮らしながら家族の色に染めることができる。 家具が好きなら家具中心の暮らしができるし、好きな絵画を中心とした生活をつくることもできる。 暮らしの個性を出しやすいんだと思います。 だから住まい手に「デザイン好き」のイメージも感じられるのかもしれないですね。
- 大塚さん
- まっさらのキャンバスを買った感じなんでしょうね。 もしかしたら10年後は、その時の、今とは違う想いや趣味が白い壁に投影される可能性もあるわけですよね。
- 妻
- そう。 そんな感じですね。大手ハウスメーカーの住宅は、既にキャンバスに絵がびっしり描かれていて、それを丸ごと買う感じでした。もっとシンプルでいいのにと……。
- 大塚さん
- お仕着せでも、与えられたほうがラクチンな人もいますからね。
- 夫
- 僕は、ハウスメーカーのモデルハウスは、どれもあまりに立派すぎて。 「家!」っていう威容に違和感を感じたんです。
- 妻
- ここも「家」ですけどね(笑)。 ただ、義父のアトリエのシンプルな建物が向かいにあって、その並びを想像すると、確かに、いわゆる「家!」的な家はないかな、と私も思いましたね。
- 夫
- あのアトリエは英国のマナーハウスのデザインを踏まえて建てたもので、「窓の家」も英国コッツウォルズの家がコンセプトと聞き、お互いの建物にも庭にもマッチすると思ったんですよ。
仕事の気分転換は庭仕事で解決!
- 大塚さん
- 家族が過ごす時間が多いのはダイニングテーブルなのかな。 大きな窓が印象的ですね。
- 妻
- 窓からの見える景色は一年半かけてつくりましたね。 ウッドフェンスを立てて、トネリコの木の隣には蔓バラがあったらいいよねーとか、二人で話し合いながら少しずつつくり込みました。
- 大塚さん
- 家全体もキャンバスのようだと思ったけど、窓もキャンバスなんだね。 ここが仕事場への扉かな。中を見せていただけますか。
- 夫
- どうぞ。 扉を開けて正面は妻の仕事場で、右奥の土間は僕の仕事場です。ここでソフビ人形の原型をつくる粘土をこねてます。
- 大塚さん
- おおおお、これは!! ソフビ人形のすごいコレクションが。 あー、この扉の敷居をまたぐ瞬間が二人の通勤時間なんですね。
- 夫
- 確かにここを越えると気持ちは切り替わります。
- 妻
- そうですね。子どももここには入らないですしね。 二人の仕事場は間に壁はあるけど、扉は設けていないんですよ。 扉はなくても土間と床の高低差があるので、視界が少しずれていて、お互いが気にならず集中できます。 でも会話はできる。
- 大塚さん
- 家で仕事していて気分転換したいときはどうしているんですか。
- 妻
- だいたい庭か畑ですね。
- 夫
- 僕はイライラしたときは雑草抜きで発散できるんですよ。
- 大塚さん
- 全部家で解決できちゃう。 うまくできたシステムだなぁ(笑)。
- 夫
- 作付け面積はもっと増やせるけど、今くらいが仕事の合間に手入れするのにちょうどいい規模なんですよね。
- 大塚さん
- バランスがいいですよね。 空間的にも、仕事のスペースを広くすると暮らしづらいし、かと言って、キッチンの片隅が仕事場ですというのは嫌ですよね。ここは、普通ならお風呂やバックヤードに使われそうな空間が、個々の確立されたワークプレイスにぴったりハマってる。
- 妻
- お風呂が2階になったことも結果的に良かったですね。 夜9時頃には1階の照明を消して、2階だけで入浴から就寝までの時間を過ごせますから。
- 大塚さん
- 1階を消灯すると、ここにシャッターはないけど、シャッターをガラガラー、本日閉店!って感じなのかな。
- 夫・妻
- そう、そんな感じ(笑)。
ダイアログ2
暮らし方と働き方
ご主人のソフビ人形の工房にて
- 大塚さん
- しかし、すごいコレクションですよね。僕、そもそもソフビ人形のつくり方がよくわかっていないんですが……。
- 夫
- まずは原型を粘土でつくり、それをシリコン型で複製してロウ型に置き換えます。そのあと、手足などの接合部分の間着をつくります。それから金型を製作してくれるところに送って、完成した金型にソフビの原料を流し込んで焼いてもらい、それを抜いた状態で納品されるんですよ。そこからバリを一個ずつカッターで切って、穴を開けて、組み立てた状態が今のコレです。これから塗装です。
- 大塚さん
- 塗装は見本をつくって外注するんですか。
- 夫
- 50体あれば50体、自分で同じように塗装しますね。厳密にいうとワンオフが50個並んでいる感じです。
- 大塚さん
- ええええ、自分で全部塗装? 思い入れは伝えやすいけど大変ですよね。
- 夫
- 1ヶ月暮らせるくらい稼げればいいな~、くらいのペースでつくっています。
- 大塚さん
- で、ご主人の夢の空間がなぜこの土間なの?
- 夫
- 粘土もこねますからね。土間のほうが便利なんですよ。
- 妻
- 仕事場を土間にしたのは良かったよね。
- 夫
- 正直、土間って傍目には「追い出された感」があると思うんですが……。
- 大塚さん
- まあ、そう思われがちですよねー(笑)。でも、プランの中でこの場所を見つけたときは、ご主人に「これはイケル!」って実感があったんじゃないかと勝手に思ってるんですよ。ただ、冬は寒くなかったですか?
- 夫
- それが寒くないんですよねー。建てる前に「寒くないですか」って聞いたんですが、ちゃんと床下も断熱されているので大丈夫ですって言われて。実際、寒くないし快適でしたよ。念のためにエアコン用のダクトもあるんですが、結局付けないまま一年が過ぎ、そこも棚になってソフビ人形が……。
- 大塚さん
- ところで、このコレクションに対して奥様は……(小声)。
- 夫
- あー、もうどれがどう増えてるのかわからないと思うんですよね。新しい人形もすっと並べて置くとわからないし(小声)。
- 大塚さん
- 僕なんかはこういうの見ると「おお」って思うし、収集する気持ちはわかるけど……。
- 夫
- 「いくつ同じの買うの?」って言われますが、一体一体表情違いますからねえ。なかなか理解してもらえないですけど。
- 妻
- ……。
- 大塚さん
- 奥様は何かコレクションはないんですか。
- 妻
- コレクションというほどではないですが、写真が趣味で一時、レンズを集めてました。あと、食器は好きですね。好きなカップでコーヒーを飲みたいなーって。
- 大塚さん
- 用途があるモノは楽しみ方もいろいろでいいですよね。ところで、奥様の仕事場にもご主人とギリギリ接点がありそうな人形やオブジェが何体かありますが。
- 妻
- あー、これはホントは主人のコレクションで、こっちに置いても「ギリギリ」許せるものだけです。
- 夫
- カワイイ系なら許してもらえるからなーって。少しずつ他の空間に侵食を……。
- 妻
- 「太陽の塔」のミニチュアも主人のもので、最初置かれたときは「そ、そんなー」って思ったんですが。
- 夫
- でも棚から外してみると……。
- 妻
- ちょっと寂しいんですよねー。それでいまはこちらに置いてます。たま~にソフビが3体くらいダイニングテーブルに出てることがありますが。すぐに戻しちゃうけどね。
- 夫
- ソフビって、天気や光で顔の表情が変わるので、いろんなところで見たいんですよね。で、ついつい日当たりが良い場所に持ち出しちゃって。
- 妻・大塚さん
- なるほどねー。
一つの家のワークライフバランス
- 大塚さん
- 子どもが小学校一年生くらいだと、何をして遊ぶことが多いんですか。
- 夫
- 天気が良い日は二人で自転車でよく出かけたりしました。子どもには僕ができなかったことを、やってもらってる感じがありますね。ただ、夫婦二人ともインドア派で、その血が濃いためか家の中が好きなんで、困ったなーと(笑)。
- 大塚さん
- あはははは。遊び相手はご主人なんですね。
- 夫
- そうですね。家事全般は彼女が担当していて。もともと二人ともひとり暮らしでしたから、僕もそれなりに家事はしていたんですが。何がきっかけで作業分担みたいになったのかな。
- 妻
- 子どもが生まれてからかなー。食事の栄養バランスも気にするようになりましたし。
- 夫
- 確かに長男が生まれてから、僕は子どもと遊ぶ相手になり、料理は彼女に任せっきりになってますね。いつもありがとう。
- 妻
- いえいえ、こちらこそ。
- 大塚さん
- でも家でライフスタイルを完結するためには、家族の食事は大事な要素ですよね。キッチンも見せていただいていいですか。
- 妻
- どうぞ。ここは好きにさせてもらいました。
- 大塚さん
- キレイに使ってますねー。コックピットみたいな感じで基地感ありますよね。
- 妻
- 対面のペニンシュラ型キッチンはやめて、シンクやコンロ、ワークトップは壁側に設けてもらったんですよ。リビングから見たときに換気扇のフードも目立たないし、シンクや水栓も見えないですよね。ダイニングテーブルで仕事の打ち合わせをすることもありますから、収納やフードが目の前に見えるのは避けたかったんですよ。3人分なら食器もそんなに多くないので、吊り戸棚もやめました。おかげでスッキリ。
- 大塚さん
- なるほど。
- 妻
- それに、ダイニングとの間に作業台が欲しかったので、ここにやや高めのカウンターをつくり定食屋の配膳台みたいになってます(笑)。椅子に座るとキッチンの目隠しにもなる高さ、コーヒーや食事はすぐに出したいけど、キッチン感はできるだけ見えないように。
- 大塚さん
- そのカウンター下が収納になってるんですね。
- 妻
- 収納家具がほとんどないので、リビングにバラバラ出てきそうな日用品はここにまとめてしまっています。
- 大塚さん
- 二人は一緒に仕事するようになってどれくらいなんですか。
- 妻
- 同じ空間で仕事を始めて10年ですね。結婚して8年。24時間一緒にいて嫌にならないの?、ってよく聞かれます。
- 夫
- あ、それ、すごく聞かれる(笑)。
- 大塚さん
- で、どう答えるんですか。
- 夫
- ううーん。
- 妻
- ううーん……って感じですかね。
- 夫
- なんでしょうかね。これが当たり前になってるんで。ケンカもするほうが珍しいくらい。
- 妻
- どちらかが機嫌が悪いときはそれを察して、おさまるまでお互いそっとしてますし。
- 大塚さん
- どうしょうもないときは草むしり(笑)。
でも、そうじゃないと、この空間ですべてを、ってなかなか難しいですよね。 - 妻
- そうですね。不思議な関係ですよね。
- 夫
- 改めて考えるとなんでだろうね。
- 妻
- 働き方としては珍しいと思うんですよ。自営業二人が同じ家で仕事してるって。でも、私は合間に家に手間もかけられるし、子どもも見ていられるし、こういう働き方じゃなければ、いまの庭もできなかったと思います。
ダイアログ3
横浜から奈良へ。そして家づくりへ
二人が家を建てるまで
- 大塚さん
- 横浜出身の奥様が関西に引っ越して、地元に溶け込むのに時間はかかりましたか?
- 妻
- 私は保育園のママさんのおかげで自然に溶け込めましたね。
- 夫
- 僕の地元なのに、僕より地元に溶け込んでる感じです。
- 大塚さん
- おお、素晴らしい。
- 妻
- 2ヶ月くらい夫の実家にお世話になって、暮らしてみると自然も豊かだし、住み心地は良いし、子育てにはいいなーと感じました。
- 大塚さん
- 先ほど震災がきっかけで引っ越したとうかがったんですが。
- 妻
- 長男が生まれて半年で地震があったんですよ。私は育児中で仕事はお休みしていたし、それで、まあなんとかなるかなあという感じで。
- 夫
- もともと二人とも「なんとかなるかなあ」で生きてきたから、これからも「なんとかなるでしょう」という謎の確信があったかもしれない(笑)。
- 大塚さん
- 引っ越してきてから、ここに「家」を建てるきっかけって何だったんですか。
- 夫
- 私たちの年齢的なものもあったんですが、それ以前に、私の祖父がここで畑をやっていて、体調に不安があったので僕が畑を手伝えればいいかなと思い、それを祖父に相談したら。
- 妻
- 畑の一部を宅地に替えてくださって。
- 夫
- でも上棟をお祝いした後、亡くなったので、僕たちがここで暮らして畑を一緒に手入れする夢はかなわなかったんですよ。
- 妻
- 祖父が長年大事にしてきた土なので、だから私たちも畑を続けていこうと。
- 大塚さん
- そうだったんですね。
- 夫
- きっかけ、というよりも、いろいろな物事や偶然が噛み合って建った感じですよね。賃貸マンションが更新時期だったり、低金利だったり。お互い自営業なので住宅ローンは難しいだろうと思っていたら、意外になんとかなりましたし。動いてみるもんだなあと思います。近年、生駒市は他県からの転居者が多くて、地域も開放的な雰囲気になってました。
- 大塚さん
- 生駒市という立地も大きかったかもしれないですね。大阪や京都なら「横浜でいいや」って思うかもしれない。
- 妻
- そうですね。ここは大阪にもすぐ行けるし、京都に出れば新幹線で横浜まで一本ですから、アクセスの良さも安心材料でした。東京や横浜に比べるとデザインの予算は少ないけど、だからこそ自分たちで何とかしたいという方々のために、チラシづくりのセミナーをやったり初心者向けの本を書いたり、そういうかたちでも自分の経験やノウハウが役に立つことがわかって、仕事のやり方はかなり変わりました。
- 大塚さん
- 家を建ててから、いろいろ変化があったんじゃないですか。
- 妻
- 賃貸マンションの頃は観葉植物はパキラひとつしかなくて、これはそんなに手間をかけなくても枯れないんですよ。でもそれが枯れそうになるくらいのレベルだったんです。
- 大塚さん
- 今は植栽がたくさんで、畑もあるわ、お庭もあるわ。
- 妻
- 暇さえあれば園芸店に行って、今では鉢植えだらけ。前なら考えられないですよ。まさか、バラの苗木を買うことになるとは(笑)
- 大塚さん
- その時は「うわー、私たち今バラなんて買ってるよー」なんて思ったりしたんですか。
- 夫
- 帰り道のクルマの中はずっとその話でしたよ。「今、オレたちバラ運んでるわ」とか(笑)。
- 大塚さん
- お話を聞くと、更新時期がとか金利がとか、理由はいろいろあるけど、どちらかが乗り気じゃないことが一つでもあれば、この家は実現できなかったと思うんですよ。
- 妻
- そうかも。
- 夫
- 意外に僕よりも彼女のほうが乗り気で。
- 妻
- ここに建てるなら絶対に「窓の家」って思い、すぐにカタログを取り寄せて、いつか見てもらおうと思って。
- 夫
- もうね、すでにいろいろ計画ができあがっていて。僕はそれをひたすらプレゼンされる側になってしまい、しかもそのプレゼンがうまくてねー(笑)
- 大塚さん
- あははははは。そこはデザイナーの仕事のノウハウが生きたんですね。そこまで惚れ込んだ理由でなんですか。
- 妻
- 一目惚れですね。無印良品も大好きでしたし。ただ、製品のデザインは洗練されているけど、機能で不満を感じた経験もあったので、厳しい目で見学会にも参加したのですが、性能もかなり優秀であることがわかって。デザインが良くて機能も良ければいうことないですよね。
- 夫
- 家といえば〇〇ハウスとか〇〇ホームみたいな専門会社のほうが歴史も定評もあるし、と思ったこともあったんですが。
- 妻
- 両親に相談したときも「無印良品の家」って大丈夫なの? というのが第一声でしたから。
- 夫
- じゃあ一度、実際に建てられた家を見に行こうと両親と見学に行ったんですよ。そこで不安はすべて払拭されましたね。
- 妻
- 最初に見学した「窓の家」は、ご主人が建築関係のお仕事をされている方で、プロが選んでいるならという安心感もありました。
一応、視野を広く持とうと思い、他のメーカーのモデルハウスも見学したんですが、見れば見るほど「窓の家」の良さが際立つ感じで。 - 大塚さん
- でも、大きな買い物だから慎重になるところもありますよね。不安はなかったんですか。
- 妻
- 冬の寒さくらいでしょうか。見学会では部屋の温かさについて、実際に暮らしている方にしっかりと話を聞きました。それで不安解消。実際、寝る前に暖房を消しても、どんな寒い日でも翌朝20℃以下になることはなかったです。暖房はエアコン一台だけです。
プランをどう考えるか
- 大塚さん
- さっきも話しましたが、快適な暮らしはしたいけれど、自分のつくるものがそれで制限されるなら、つくり手として後悔が残るじゃないですか。もっと広ければできたとか、こういうふうにできたんだよー! とかありがちだと思うんですが、この家からはそういうことがまったく感じられないですよね。片方が忙しくて、片方がこちらで読書してても、お互いのストレスにならない感じがします。その空間や場の割り振りが見事なんですよね。しかもイライラする時は庭で草むしり、ですからねー。
- 夫
- 間取りが自由に決められたのは大きかったですね。最初提案していただいたプランはかなりオシャレな間取りで、でも仕事を含めた1日の動きや流れをシミュレーションすると、無駄な動きが多いことがわかって。
- 妻
- 私たちはすぐに玄関、すぐ仕事場って簡潔な感じのほうがいいんじゃないかと。
- 夫
- それでシンプルなプランに変更していただきました。デザイン的には単調になったかなと思うこともありますが。
- 大塚さん
- 僕はそんなに感じないですね。シンプルだからこそ、一枚、絵を増やしたり、好きなモノを置くことで、それを中心に違う色が広がるイメージがありますよ。
- 夫
- 確かに家具ひとつでずいぶん変わると思うんですよ。将来、子どもの家族が暮らす頃は土間の仕事場はただの倉庫になっているかもしれないし。自由に変えていく楽しさもあると思いますね。
- 大塚さん
- うんうん。
- 妻
- 子ども部屋をつくるとしても「THE 子ども部屋」にはしたくなくて、空間はどこもフレキシブルにしておきたかったです。
- 大塚さん
- 別に壁を設けなくても、家具や鉢植えで空間をふんわり仕切ることはできますからね。
- 夫
- 実際に暮らしている「無印良品の家」を見学すると、独立した子ども部屋がまだないお宅が多くて、子ども部屋の参考になる例が少なかったんですね。「子どもはいつもはこのへんにいます」くらいで。でも一つの大きな空間を、家族がその時その時でシェアしながら暮らすほうがいいですよね。
- 大塚さん
- 白い家は緑や土との相性もいいし、フォトジェニックだなーと思いますね。カラフルなソフビ人形までマッチするのはすごい(笑)。整然と佇んでましたよね。
- 夫
- たしかにそうですね。なんでも合います。
- 大塚さん
- この先、何か家に置きたいものってありますか。
- 妻
- 食器棚ですかねー。
- 夫
- そういえば建てる前から「食器棚がほしい」って言ってたね。
- 妻
- 今は食器はキッチン収納に収まってますが、ガラスケースに並べて絵になる食器も一緒にしまい込んでいるので、そういうのを愛でる棚がほしいです。よろしくお願いします。
- 夫
- は、はい。
- 大塚さん
- ガラスケースの中でソフビ人形と食器のせめぎ合いとか、大丈夫?(笑)
- 妻
- ま、それはそれで(笑)。何か家に置きたいものありますか?
- 夫
- 家の中というより、外観が素敵な家なので、外に木陰ができるくらいの大きな木がほしいかな。
- 大塚さん
- いいですねー。それがどんどん育っていくのを見るのも楽しいですよね。
- 夫・妻
- そうですね。
- 大塚さん
- 本日はどうもありがとうございました。
エピローグ(編集後記)
働き方と住まい
『職住一体の「窓の家」が奈良にあるよ。』とスタッフからの情報を聞き、今回もまた新たな暮らしのかたちが発見できそうとワクワクしながらロケハンに向かったのは5月のこと。
『「無印良品の家」はさまざまな暮らしのかたちを受け入れる懐の深さがある。』
このことは私がこの取材を通じて毎回強く感じることなのですが、今回会いに行ったH様の「窓の家」もまたこれまでと違うスタイルの暮らしのかたちを受け止めていたのでした。
H様はご夫婦ともにフリーランスでお仕事をされており、ご自宅に仕事スペースを設けた正に職住一体の暮らし。
これは私の先入観かもしれませんが、訪問前まではワークスペースは明確に切り離された間取りになっていると考えていました。仕事に集中できなかったら困るのでは・・・とか、どうしても思ってしまっていたのですが・・・
しかし、一歩室内に入ればそこはいつもと同じ「窓の家」の風景が広がっていました。ご夫婦は違ったジャンルのお仕事をされているはずなのに、お互いのエリアは隣り合わせで空間としては緩やかにつながっている。そこにはTHE仕事場という特別な雰囲気はなく、それはいつもの「窓の家」。ひとつながりの空間によって仕事のスペースも「窓の家」の世界観の中にうまく溶け込んでいたのです。
住まいをどのように考えるかに当たって、仕事との関係は切り離せないもの。
先日当サイトでも「小さな暮らしで考える、住む場所と働く場所」という興味深いコラムが公開されています。その中で同時に実施したアンケートの結果で、在宅での仕事を望んでいる方は全体の54%を占めており、予想以上に高い割合だったのは私も驚きでした。
これからテレワーク制度などが社会の中でも浸透していけば、働き方にも大きな変化が起きるでしょう。その時に住まいに仕事ができるスペースがあったらと考える方も増えてくるかもしれません。
今回のHさんの「窓の家」のように自然にワークスペースを日常生活にフィットさせることのできる、とても感じのよい住まいだったら、自宅で働くというライフスタイルも気負いなく始めることができるかもしれませんね。
さてさて、次はどんな新しい暮らしのかたちが見つかるのでしょうか。私たちの旅はまだまだ続きます。(E.K)
「無印良品の家」に寄せて | イラストレーター 大塚いちおさん
僕にとって家とは、父がつくったモノだった
僕の父は大工だった。だから、僕が生まれた家も父が建てたものだった。その後、小学4年の終わりに同じ町の中で引っ越すことになり、新しい家も父が建てた。その現場を時々見に行っては、自分たちがこれから暮らす家が目の前で出来ていく様子に、子供ながらワクワクした。父はたくさんの家を建ててきたから、きっと自分の家はこうしたいと思うところがあったのだろう。そんな職人ならではのイメージやこだわりが詰まった家で僕は育った。
大工という仕事に憧れもあったが、僕は絵を描くことを仕事に選んだ。大工は継げなかったが、モノをつくるという部分だけ継いだつもりだ。依頼があってつくるというところ、最初は何もなかった土地に家が建っていくように、ゼロからモノをつくり始めるところは似ていた。
真っ白の紙やキャンバスから何かを描き始めるのは大変なことでもあるが、僕らのような仕事の楽しいところでもある。
無印良品の家は、まさに白いキャンバスだった。白い外観もそうだが、住む人のライフスタイルによって、さまざまな色がつけられ、思い思いの絵が描けるというところにそれを感じる。
人の家に遊びに行くと、その人らしい家づくりだと感心することがある。それと同時に、自分ならどうするだろうかと、考えることもよくある。ここには何を置くとか、こんな風に使うとか、人の家なのに自分だったらと勝手に想像する。絵を描くのは本人で、人のキャンバスに絵を描き加えることはできないのに。
そもそも、家はその人の生活と絡み合って描き出されるから面白い。
今回のお宅も、仕事と生活が共存しながら、その建物の中に活き活きと、その人たちにしかない暮らし方で、鮮やかに描かれていた。
それはまさに、世界に一枚の絵だ。
大工の父を継がなかったことで、職人の経験からくるアイデアや発想は僕にはない。だから家づくりに関してはゼロからモノをつくる楽しみは僕にはできない。しかし、この白いキャンバスのような無印良品の家を前にすると、そこに何をどんなふうに描こうかと考えると、急に熱が込み上げてくる。暮らし方によって描き加えられていく姿は、キャンバスに色が重ねられていくように、いずれはかけがえのない作品になっていくだろう。そんな家づくりは楽しいはずだ。
僕は、仕事への向き合い方や生活の仕方で、今までいくつかの選択をしてきた。自分がその時々で選んできたことにもちろん後悔はしていないが、今回拝見した家をとても羨ましく思った。父にはできて僕にはできないと思っていた「家」という、かけがえのない作品が自らの手で、そこに生まれていたのだから。[2017.12]