建築家の末光弘和さんが、4世代7人が暮らす「木の家」に会いに行きました。
家に会いに | 2023.2.8
プロローグ
陽だまりの中で共に暮らす
寒さも深まりはじめた師走の中頃。小高い場所に建つ家には、南側に向けて開かれた大きな窓から燦々と陽が降り注いでいる。玄関の扉を開けると、暖かい空気が出迎えてくれる。特に暖房を入れているわけでもないのに、太陽のエネルギーを受けた室内は、ぽかぽかと心地よい。緑を扱うことを生業にされているからだろうか、自然の恵みを受けることに対しての感受性の良さが暮らしにも滲み出している。ほとんどワンルームのような空間では、人も猫も緑も陽だまりの中で活き活きと暮らしている。多世代同居でありながら、かつての大家族のような息苦しさはなく、各々が思い思いに自分の時間で過ごす。強い縛りはなく、緩くつながった家族の姿は、どこかシェアハウスのような自由な空気感が漂っている。
取材を終え、気づくと手のひらにじんわりと汗がにじんでいるではないか。
もうすぐ、冬至である。
ダイアログ1
だから、ここに建てました
末光弘和さんが会いにいった家
賃貸住宅に暮らすWさん家族は、フィナンシャルプランナーの試算で、戸建住宅の新築が十分可能であることを知り、その資金計画をもとに、土地探しと家づくりが始まりました。二人が理想の敷地探しに苦心する中、お母さまから、古くなった実家の土地に新築しては、という提案があり祖母、両親、Wさん家族の多世代住宅の計画が始まります。
南面が開けた高台の敷地は、Wさん夫婦の馴染みの土地。
奥様とご両親には、卒寿を過ぎた祖母に、老後を温かい家で快適に暮らしてほしいという想いもありました。
お花が好きな祖母のために、ウェルカムガーデンが設えられ4世代7人が集合した家では、3世帯5匹のネコの同居もスタート。
時間と場所を使いこなし、限られた空間を豊かに暮らしています。
「こんにちは」
「どうぞお上がりください」
- 末光さん
- 二世帯住宅はお互いいろいろ大変、という話を聞くことが多いのですが、この家では4世代7人が普通に暮らしているんですよね。興味深いです。
暮らしが調和する一室空間
- 末光さん
- 外は寒いけれどリビングは快適ですね。
- 妻
- 昼間は暖房使っていないんですよ。早朝でも気温18度以下には下がらないので、朝、1階の小さなオイルヒーターを点けるだけで家全体が温かくなります。
- 末光さん
- 高台なので前後に建物がなくて、南側の日当たりも確保されてますし、視線の抜けもいいですよね。
- 妻
- ここは、お隣に一軒あるだけなので、南側の大開口は道路に面しても、人目をほとんど気にすることがなくて。
- 末光さん
- 1階の仕切りは引き戸なので、開放すればぱっと空間が明るく広がる感じは、ご家族の雰囲気にも合っていますよね。
- 妻
- 以前の実家は、両親と祖母の部屋が廊下で二分されたレイアウトでした。今はゆるやかにつながって、みんなの気配も感じられます。同じ空気を共有すると、自然に同じリズムで暮らすようになるので、それぞれの生活音も気にならなくなるんですよ。
- 末光さん
- わかります。お互いが気遣わなくて済む状況をつくると、逆に無神経になって、他の家族に対して鈍感になりがちですから。
家族だけどシェアハウス
- 末光さん
- 中学生の長男は、学校から帰宅するとどこにいるんですか。
- 夫
- 私が家にいる時間は、妻は自分のギャザリング(グリーン寄植え)のお店や講師の仕事で外出していることが多くて、必ずどこかは空いてますから、そこにいることが多いみたいです。家のどこかに必ず誰かがいる感じですよ。
- 末光さん
- なるほど、時間帯で場をうまくシェアできているんだ。
- 夫
- ええ、私は物流の仕事で、勤務時間が夕方から2時頃までで、その関係で平日は1時間ほどずれて食事することが多く、例えば、ダイニングの椅子は、時間差で全員分なくても十分なんですよ。
- 末光さん
- 面白いですねー。家族だけどシェアハウスの感覚に近いですね。
- 夫
- 最初から禁止事項ばかり決めるとダメだったと思うんですよ。個々のプライオリティは伝え、それを理解し合うことで、自然にルールができたのだと思います。例えば、私は深夜帰宅でもお風呂は入りたいので、そのへんは大目に見てもらったりとか。
- 末光さん
- 二世帯住宅は世帯を完全に分けると、些細な音が気に障ることもあるようですが、同じ空間を共有すると、お互いの気遣いも分かり合えるので、意外にうまくいくのかもしれませんね。
- 妻
- 両親は、傷みが酷い実家を建て替えたくても、年齢を考えると難しかった。祖母は娘(ひ孫)が来ると嬉しそうで、できればその時間を増やしてあげたい。私たちは夫婦それぞれ仕事があり、子どもをどうケアするかが課題でした。そうしたそれぞれの状況が集まって、ひとつの「家」でうまく解決された感じですね。無印良品の家はあこがれでしたが、まさか今そこに暮らしてるとは。10年前の自分に「今はムジの家に住んでるよー」って教えてあげたいです(笑)
収納より居住空間を大切に
- 末光さん
- 持ち物は引っ越しのときに整理したんですか。
- 妻
- 私たちはもともとあまりモノを持たないタイプでしたね。仕事をしているとモノの多さもストレスになりますからね。多少散らかっても、片付けが気にならないくらいの量が基本でした。この家ならその暮らしを続けられると思いました。
- 末光さん
- うまく住まう人は収納量の大きさにこだわらないんですよね。洋服も上質でお気に入りのものを必要なだけ持っている。それが暮らし方の上手さにもつながってるように思います。
- 妻
- 家を建てるときは普通は収納を重視しますが、私たちはそれに場所を割くより、居住空間を豊かにしたいと思ったんです。収納スペースは2階に集約し、全員の必要十分な量を決め、そこから溢れた時は、何が不要かを考えることは最初に話し合いました。
- 末光さん
- 高い家賃をモノのために払ってるような方もいますからね。モノ=人生みたいになって、執着しちゃう方も多いんですよ。
- 妻
- 子どもの思い出の品は増えがちなので、箱を決めて、そこに収まるように厳選してますね。捨てなければならないモノは撮影して画像で保存したり。いろんな方法があると思いますよ。
- 末光さん
- なるほど。やっぱり暮らし方上手なんですね。
ダイアログ2
庭とネコの話
2階から庭を眺めながら
- 末光さん
- ここが長男の勉強スペースなんですよね。
- 妻
- はい。隣が私の仕事スペースです。
- 末光さん
- 珍しいですよね。お母さんの机と息子の机って、普通はあまり並ばないじゃないですか。
- 妻
- ここも、長男が一人暮らしをするころには、娘の机になるのかなーって思います。一応、将来は個室にもできるよう準備はしていて、コンセントやスイッチ、エアコンの位置もそれを考えて設計してもらいました。私たちは個室にはしないと思いますが、将来、子供たちが家族をつくり、ここで暮らすことになったらわかりませんからね。準備だけは。
- 末光さん
- 1階と2階が対照的なのも面白いですよね。1階は真ん中に中心があってみんながそこに集まるのに対して、2階は真ん中が吹き抜けで、そこをぐるっとまわるように使う。
- 夫・妻
- 確かにそうですねー。
- 末光さん
- 子供が男の子と女の子だと、将来は個室問題が出てきますが、これくらい年齢差があれば心配しなくてよさそうですね。
- 妻
- そうですね。今は長男が長女の面倒をよくみてくれています。私がこの家でイメージしたのは図書館だったんですよ。図書館は同じフロアに、勉強している人もいれば読書をしている人もいる。静かな空間でくつろいでいる人もいます。そんなふうに一つの空間をいろんな人が、緩やかなルールで自分の場としてうまく使える家にしたかったんです。
- 末光さん
- 違うことをやってる人がいても、なんとなく許容してくれるような。
- 妻
- そんな感じです。
- 末光さん
- 窓から3本立ちのモミジが見えますが、庭木を選んだのは奥様なんですか。
- 妻
- そうです! 今はオープンな庭ですが、以前の家は塀を隔てた普通のクローズドガーデンだったんです。モミジを植えたのは、夏は葉が茂り気持ち良い木漏れ日になって、冬は落葉して窓から温かな陽が差し込みますからね。それに娘の名前がモミジなんですよ。私の会社名もハナモミジで(奥様はハウステンボスの世界フラワーガーデンショ-2016でコンテナガーデン部門の金賞を受賞されました)。
- 末光さん
- それはもうモミジ以外は考えられないですね。四季も感じられるし、葉のつき方もキレイですし、いい庭木ですよね。
- 妻
- 祖母がお花や庭仕事が好きで、建て替えのときも祖母がつくったお庭を崩すのが残念でしたが、新居では昔のように庭全部を手入れするのは大変だと思ったんですよ。それで、祖母の部屋の前に小さな庭を設けて、窓を開けると自分が手入れしている庭が見えるような外構デザインを考えました。これからも少しずつ手直ししていこうと思っています。
- 末光さん
- 塀をなくしたのは良かったですよね。ここからの視界が広がっているので、前面道路を越えた、その先の草原まで自分の庭みたいに見えますもんね。
- 妻・夫
- そうですねー。
- 末光さん
- その先に山が見えるのもいいなー。外の天気がわかりますしね。
- 妻
- でも家にいると外の寒さはわからないんですよ。だからついつい薄着で外に出たり。
- ネコ
- くー、くー、(昼寝中)
- 末光さん
- けっこう大きいネコですね!
- 妻
- まだ2歳くらいなんですけどねー。ぐうたら生活で育ちましたからねー
- 末光さん
- ネコがくつろぐのは良い空間ですよ。室温だけじゃなくて床や壁の表面温度も快適なんでしょうね。それにしても大きいなー。ネコは5匹いるってうかがってますが、みんな仲良しですか?
- 妻
- 前の家では、ネコは家の見回り中に他のネコに出くわしてピリピリすることもありましたけどね、引っ越してからはケンカがなくなりました。ここでは出くわさないようにネコがうまく動けてるんですよね。
- 夫
- 2階は吹き抜けを囲んで回遊できるのが大きいと思いますよ。ぐるぐるまわれるので衝突しないんだと思います。
- 末光さん
- 家はデッドエンドをつくると狭く感じるので、僕が設計するときはできるだけオープンエンドにするように心がけてますね。ネコも人も一緒ですね。みんな柔らかく共存しているというか、それなりに自分勝手なことしてるけど、それを許容できる空間なんですね。
- ネコ
- くー、くー、
- 夫
- しかし、これだけ多くの人に注目されてるのに、なんでこんなに無防備に寝てられるんだろうなー
- 末光さん
- そうですよねー(笑)。すやすや寝てますねー。気ままでいいなー。ネコ見てると家の温熱環境がよくわかりますよ。お、もう一匹キタ。
- 妻
- この子は甘噛みするクセがあるんで気をつけてください。
- 末光さん
- なんかもう、「家に会いに。」っていうより「ネコに会いに。」になってますね。
- 末光さん
- 収納スペースは2階にまとめたんですよね。
- 妻
- こちらです。どうぞ、ご覧ください。私たちだけじゃなくて、両親や祖母の持ち物もすべてここに収まっています。造作家具じゃなくて無印良品の収納家具を使ってるのは、家族のカタチに合わせて収納量を組み替えられるメリットを生かすためですね。
- 末光さん
- うーん、コンパクトですよね。
- 妻
- 収納家具もピッタリ収まってますしね。
- 末光さん
- そうですよねー。無印良品の収納家具がキレイに収まるのも、無印良品の家の狙いですもんね。
- 夫・妻
- そうです!
- 末光さん
- ここがあるから、居住空間がシンプルに保てているんですね。
- 妻
- 人が過ごす空間はモノに邪魔されずに、快適に暮らせるように考えましたから。モノを増やさないように「なんとなく買い」もしません。
- 末光さん
- 暮らし上手の人って買い物上手なんですよ。散財もしないし、良いモノを大切に使ってる方が多いですよ。
- 妻
- 押入れにしたり、扉付けたり、収納を隠す方法もありますが、そうすると中の整理が雑になりがちですから、あえてオープンにしています。
- 末光さん
- ご主人も、もともと整理上手だったんですか。
- 夫
- 片付けるのは下手でしたが、掃除くらいは自分でちゃんとするほうでした。
- 妻
- 二人が付き合っているころに、彼の部屋を見たら、無印良品の家具が揃っていて……。
それだけで「彼はちゃんとした人だ」というイメージが! - 夫
- うんうん。えっ?
- 末光さん
- 面白いなー。お互いが無印良品の家具で暮らしていたら、その暮らしが二つ合わさっても違和感ないですもんね。
- 妻
- 結婚してみたら無印良品のサーキュレーターやパネルヒーターなど、同じモノが2台ずつ集まっちゃって、結構整理しましたね(笑)
- 夫
- 僕が持っていた収納家具は20年くらい前のシリーズですが、それも後で継ぎ足しした収納家具と違和感なく並んでますよ。
ダイアログ3
室内環境に注目してみる
室温と体感温度
- 末光さん
- エアコンは2階に1台だけですか?
- 妻
- 1階は各個室に一台ずつ設置しました。2階のエアコンも10畳用なんですけどね。
- 夫
- 冬は暖気が自然に上がってくるので、シーリングファンの効用はそんなに感じられないのですが、夏は2階のエアコンの冷風をしっかり1階に下ろしてくれますね。
- 妻
- 就寝時には部屋を閉め切るので熱気がこもるかなと思い、各部屋にエアコンを設置したのですが、夏の猛暑時、寝る前に2時間くらい使う程度です。その後は快適な室温がキープされるみたいな……。
- 末光さん
- 以前に比べて光熱費もかなり下がったんじゃないですか。
- 妻
- そうですね。ここはオール電化ですが、以前の家の半分以下です。しかもこの人数が暮らしてですからね。安くなりましたよー。
- 末光さん
- 冬も期待できそうですね。
- 妻
- 冬のほうが空調を使う機会は少なくて、先日も夜は0度近くまで下がったのですが、部屋の中では寝汗をかくくらい。トイレもお風呂の脱衣所も寒くないですよ。
- 夫
- 温かいからエバーフレッシュ(マメ科の観葉植物)は冬でも元気ですよ。
- 末光さん
- そうなんですよねー。植物が健康に育ってる家って、だいたい家族も健康なんですよ。
- 妻
- たしかにここで暮らしてから、植物は枯れないですね。
- 夫
- オレ、水遣りがんばってるから! めっちゃがんばってるし。
- 妻
- 私は仕事柄、お花や観葉植物の相談を受けることが多いのですが、家によってはどんな植物を持ち込んでも枯れちゃうことがありますから。
- 夫
- あ、スルーされた……(笑)。
- 妻
- はいはい。でも、ここではぐったりする植物はないですよ。
- 夫
- 室内での空気の流れもいいんでしょうね。
- 末光さん
- 日当たりもいいしね。実はさっきからずっと、わずかに汗が滲んでる感じなんですよね。
- 夫
- 緊張してるんですか?(笑)
- 末光さん
- いや、そうではなくて(笑)、床暖房だと足元でじわーっと汗ばむことがあるんですが、それと同じような感覚ですね。建物自体の輻射熱で温かい部屋の感覚です。
- 妻
- 暖房は入れてませんが、気温は20度くらいですね。外は5度以下ですが。
- 末光さん
- モノから出る温度は遠赤外線なので、血流も良くなると言われてます。高齢の方にも良いと思いますよ。体感温度って部屋の中なら気温と床や壁の表面温度の平均なんですよ。今日もサーモカメラ持ってくれば良かったなー。
- 妻
- それって、冷たいと青くて温かいと赤く映るやつですよね。
- 末光さん
- そうですよ。
- 妻
- スゴい、それは趣味で買ったんですか?
- 末光さん
- 仕事ですっ!!(笑)
- 夫
- そりゃそうだ。趣味では買わない(笑)。
住居者見学会は参考になりました
- 末光さん
- 妥協やガマンもあるとは思いますが、一緒に暮らす利点はシェアして享受しながら、上手に暮らしていますよね。
- 妻
- 建てる前はいろいろ話し合いましたよ。前の家は台風が来ると倒壊を心配するくらい、古くて不安な家だったので、安全・安心は絶対条件でした。だから「無印良品の家」は丈夫さや安全性は両親にはしっかり伝えました。
- 末光さん
- ワンルームだから建物の骨格にしっかり投資できて、あとは家具や建具で工夫して快適に暮らせる感じなのかな。
- 妻
- どこにいても家族の声が聞こえるのはいいですよ。キッチンからも祖母の様子はわかるし、子どもが楽しそうに遊んでる雰囲気も伝わってきます。
- 夫
- ところで、末光さんが住宅設計するときはどんなところからスタートするんですか。
- 末光さん
- いろいろですね。敷地はもちろん調査しますし、実際の暮らしぶりを拝見することが第一歩だったりします。そこでヒヤリングして、それを全部聞き入れてもうまくいかないことが多いので、さらに掘り下げて、本当に求めているものは何かをキャッチしてカタチにすることが多いです。この家は今年の6月に完成したんですよね。
- 妻
- はい。最初に家づくりを考えたのは一昨年の9月ころでしょうか。
- 末光さん
- え、おそろしく早いですね。
- 夫・妻
- それって早いほうなんですか?
- 末光さん
- いや、めちゃくちゃ早いですよ!
- 妻
- 私たちは住宅の雑誌や本も読まなかったし、他のメーカーの二世帯住宅のカタログも一応取り寄せましたが、条件が合わずあまり参考になりませんでした。住宅展示場には、どう考えても私たちが求めるものはないと思っていたので行かなかったです。
デザインを意識したビルダーのモデルハウスは見学しましたが、中に入ると、一つひとつのパーツが安っぽく感じたんですよね。おしゃれっぽく見せてるだけなのかなーと。 - 夫
- だから「無印良品の家」の入居者見学会や完成見学会にうかがうほうが、圧倒的に多かったです。8回くらい行きました。
- 末光さん
- そういうのがあるんですね。オーナーのネットワークもできそうですね。
- 妻
- そうですね。もう完成してるのに、夫は今でも見学会に行ってますから(笑)
- 夫
- そこで別の見学会で会った方と再会したり。ここでも完成見学会を開きましたから、顔見知りの方は多いんですよ。
- 妻
- 同じ家を建てて住んでいる方の意見は本当に参考になりますからねー。
- 夫
- 僕は最初見学会では、どこを見たらいいのかわからなかったけど、住んでいる方の話を聞くうちに、オススメとか注意したこととか、いろんなポイントを学ぶことができました。僕たちも次に建てる方のお役に立てると嬉しいですね。
- 末光さん
- 同じ「無印良品の家」を建てようと思う方ですから、価値観も近いでしょうし、会話も弾みそうですね。
- 夫・妻
- そうですね!
- 末光さん
- 今日はどうもありがとうございました。
エピローグ(編集後記)
大きな家族の器
これまで「家に会いに。」でご紹介してきたご家族のほとんどはご夫婦とお子様で構成されていることが多かったのですが、今回訪問した「木の家」は過去最大の4世代7人と猫5匹が一緒に暮らす大家族! 木の家の特徴である一室空間の中で、いったいどんな暮らしをされているのか興味津々です。また「木の家」での新しい暮らしのかたちを発見することができるのではないかという大きな期待を持ちながら取材に向かいました。
実は、無印良品の家でも二世帯住宅での実例は少なくありません。ただ、そのプランは親世帯と子世帯の生活のリズムの違いやプライバシーの確保といった理由から、世帯ごとに生活のエリアを明確に分けるケースがほとんどです。
今回の訪問先であるW様のお宅はご覧のとおり寝室は個別に確保されているものの、LDKや水まわりなどは一室空間で共有するという考え方になっています。とくに吹き抜けを中心とした一番気持ちの良いエリアを緩やかなパブリックゾーンとしていることがこの家の大きな特徴であり、家族をつなぐ大きな要素となっていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
オーナーのW様は「図書館」、同行していただいた建築家の末光さんは「シェアハウス」とこの家を表現されていましたが、まさにそんなイメージがぴったりなのです。
二階の吹き抜けまわりを三輪車でのびのび遊ぶ妹さん。その横の机で静かに本を読むお兄ちゃん。吹き抜けの下ではお父さん・お母さんがのんびりテレビを見てくつろいでいる。そして猫たちは日向で昼寝中(猫ちゃんたちには今回ビジュアル的にもかなり頑張ってもらいました)。
家族の皆さん一人ひとりがお気に入りのスペースを見つけて、思い思いのスタイルでくつろいだり楽しんだり。それも一つの大きなつながりを持った空間の中で、それぞれが程よい距離感を持ちながら実現できているのです。もちろんその下敷きにはご家族の仲の良さがあってのことですが、それがご紹介した素敵な暮らしのかたちに表れていたのではないでしょうか。
大家族で住むことが少なくなってしまった現代ですが、どのような家族構成であっても家が家族をつなぐという大きな役割を果たしていることに変わりはありません。その中で「木の家」は、W様のような7人+5匹の大家族を自然に包み込んでいました。取材を続けるたびに感じることではありますが、さまざまな家族のかたちに寄り添い、こうやって住み手の個性が見えてくるのは「木の家」の懐の深さにあるのではないかと強く感じるのです。
さてさて、次はどんな新しい暮らしのかたちが見つかるのでしょうか。私たちの旅はまだまだ続きます。(E.K)
「無印良品の家」に寄せて | 建築家 末光弘和さん
陽だまりをつくる工夫
日頃から、住まいを建てる時、そこの敷地の立地環境を良く読み解きながら、自然の恵みを最大限生かして建てるのが大切だと思っています。まずは、立地です。ここは、大変立地条件に恵まれていました。高台にあるため通常の住宅地に比べて隣の建物などの影響を受けにくく、日当たり・通風環境が良いので、お日様の光や夏の涼風などを取り入れるには適しています。良かったのは、南側前面に空地(墓地)があることでした。墓地というとネガティブなイメージもありますが、考えようによっては、ずっと空地で前にマンションなどが建つこともなく、日照が半永久的に約束されている場所でもあるわけです。前面道路も路地のような細い道なので、あまりプライバシーを気にすることなく、開口部を開けることができるという好条件でした。この地形を読み解いて、ここに建てる決断をしたのは、住まい手が目利きだったのかもしれません。
建物を見ると、この住まいは、南側に大きな開口が取られているのが特徴的です。古来より南側の窓は大事だと言われていますが、実際に窓をどの方位に開けるかによって、室内の環境は全く異なります。日本のように四季がある国では、いかに夏の日射を遮り、冬の日射を取得するのかが大変重要です。南側の窓というのは、大変優れていて、夏は東西面よりも日射が少なく、冬はどの面よりも日射量が多いため、自然を取り入れる方位としては最適なのです。冬の晴れた日の日中は、最高の陽だまりが生まれます。更には、トリプルガラスという3層になった断熱ガラスが採用されているので、太陽が出ていない夜や朝方などでも熱が逃げることがなく快適です。窓の前に大きな落葉樹(紅葉)を植えているのも熱環境を良くしていました。夏は、大きな窓は熱負荷が大きくなることがありますが、この落葉樹が、自然のブラインドとして、夏の日差しを遮り、冬の日射を入れてくれる大事な役割をしてくれていました。高断熱された住まいは、魔法瓶のように熱を逃がしません。この住まいでは、その器そのものの断熱性と自然が出入りする口の設計がきちんとされているので、まさしく「陽」が「たまる」空間が生まれていました。
一つ小さな工夫を発見しました。北面の勝手口です。通風はなるべく風の入口と出口を対角線上に取ってあげることが大切ですが、勝手口の向きも高台ならではの風の抜けが上手に考えられていて、夏の涼風を想像できるようでした。
自然を良く読み解き、自然の恵みを感じながら暮らす、その大切さを改めて感じた訪問でした。[2017.3]