「無印良品の家」に寄せて | 歌人 穂村 弘さん

仲良しの家

最初に写真を拝見した時は、びっくりした。一面の緑の中に、モダンな黒い家がぽつんと一軒だけ建っている。周囲に家がぜんぜんないように見える。とても日本の風景とは思えなかった。

でも、実際に訪問してみたら、ちゃんと近隣とのつきあいもあることがわかった。とはいっても、隣近所というものの距離感覚が都会の家とは全く異なっている。どんなに大きな音で音楽をきいても大丈夫。人目を遮るためのカーテンもいらない。覗くものは鳥しかいない。そんな暮らしである。

一方で、自然との一体感がすごい。キッチンで料理をしていて野菜が足りなくなったら、ちょっと裏の畑から持ってくるとか、羨ましいなあ。

ご夫妻のお話をうかがって、いちばん印象に残ったのは、お二人の仲の良さだ。高校時代の先輩後輩が恋に落ちて、そのまま結婚した、という夢のパターンである。そういうカップルも日本のどこかにはいるだろうと思っていたけど、実際に出会ったのは初めてだ。私の周囲はバツイチバツニだらけなのだ。

お二人は今も、一緒にアンティークのお店や蚤の市を回ったり(家の中には選び抜かれた家具や小物が置かれていた)、社交ダンスを習ったりしているらしい。こちらの質問に対して、同時におんなじ答えが返ってくることもたびたびである。

暮らしや趣味に関して、新しい関心やアイデアが次々に生まれて(壁面緑化なんて始めて知りました)、それに対して二人でどんどん調べたり、試したり、習ったりしてゆく。いかにも楽しそうだ。

仲が良いから、こういう暮らしができるのか、それとも、こういう暮らしだから仲良くいられるのだろうか。たぶん相乗効果なんだろう。もともと仲の良いご夫婦が、二人で話し合って建てた家のおかげで、いっそう楽しくなっている感じである。

「明るい」とか、「風通しがいい」とか、「仕切がない」とか、そういう言葉がこの家には当てはまる。と同時に、それがお二人のキャラクターや関係性にも、ぴったり当てはまっているのだ。

「まだ先は長いから、時間をかけてゆっくり作り上げていきたい」という言葉も印象的だった。直接的には家のことなんだけど、それはすなわち暮らしのことでもあり、つまりは二人の関係性のことでもあるだろう。家は単なるモノじゃないから、買ったらそれで終わりじゃない、ってことを教えられた。[2014.7]