ダイアログ3

建築の仕事と小道具の仕事

私たちが共働きで忙しいので、家族全員が各々のことをやってもらえるように、とにかく家事関係は1階に集約してもらいました。洗濯物も2階のテラスではなく、1階で干せるように考えてもらったり、取り込んだ洗濯物も各々で片付けられるように工夫したり。あと1階で家事をしてても、吹き抜け越しに叫べば、みんな聞こえて下りてくるし(笑)
禿さん
どこにいても家族の雰囲気が感じられそうですね。

どこにいてもわりと声が聞こえるもんで、2階にいる高校一年の長男と友だちの恋バナもマル聞こえ(笑)
鈴野さん・禿さん
あははははははは。
鈴野さん
2階を拝見してもいいですか?
2階は恥ずかしいものばかりで……。
(トントントントン)
鈴野さん
こんにちは~。
長男
こんにちは~(長男ゲーム中)。
禿さん
南向きの大きな開口部に吹き抜け。気持ちの良いスペースですね。
ホントは息子と娘に一部屋ずつと思ってたんですが、娘はまだ部屋より1階で遊ぶことが多いですから、娘の部屋は机があるだけです。
鈴野さん
洗濯物干すのは1階だと、2階のテラスは何に使ってます?
布団干すくらいですね。家事で上がったり下がったりしない動線考えたので、2階に上がるのは寝るときだけです。朝、子ども起こすのも1階から声掛けると聞こえますからね。
禿さん
吹き抜けで上下が見通せると1、2階でも近く感じるものですよね。
そうなんですよ。
禿さん
ここは?
ここはいろんな片付けモノを。マンガとかフィギュアとか。
禿さん
あ~、もともと納戸なんですね。
鈴野さん
いいですね。部屋にもなっちゃいそうですね。
そうなんですよ。けっこう広いんです。
鈴野さん
うわスゴい、フィギュアのコレクション。立派なガラスケースに……。
ここはぼくの趣味の場所なんですが、ここだけにしとこうと……。ホントは家中、いろんなところに置きたいのを、グッとガマンしてこんなかにしまい込んで……。
鈴野さん
撮影所のお仕事では、どんなモノをつくることが多いんですか?
最近は時代劇が多いですね。この前はドラマの鎧を担当したんですが、それはデザイン画を描いて造形に製作を頼んで、それを役者さんや監督にプレゼンして……。基本は、持ち道具と言って、時代劇なら刀、傘とか履物、現代劇なら靴や鞄や時計を用意しています。そこに一工夫するのがぼくらの仕事です。
動物も小道具やな。
鈴野さん・禿さん
え?
そうそう。本番でうまいこと動かすように仕込まないといけないんですよ。ヘビは変温動物なんで冷やしておくと動きが遅くなるけど、逆に温めたほうが動かないのもある。そういうふうにいろいろ考えて用意しますね。
禿さん
へ~、そんなところまで小道具の仕事なんですか?
鈴野さん
ぼくらも仕事で、東映の大泉撮影所に行ったことがありますよ。
そういえば、お父さん、明日は東映の撮影所やな。
撮影所は行かないけど、今やってる映画の準備で、衣装合わせがありまして、それで東京に行くんですよ。幕末が舞台の映画なので、その時代の風俗や時代背景を勉強して、当時の道具を用意して、骨董品屋で探したり、ないものはつくって……。
禿さん
いろいろな知識が必要な仕事ですね。映像では一瞬しか使われないこともあると思うんですが……。
ぼくらはその1秒の「寄り」に賭けるわけです。その寄りをリアルにするために、削って、磨き込んで、何時間もかける。必殺シリーズのカラクリ人形も手掛けましたが、製作に1カ月かけて映像だと2秒です。「利休」の映画で使う茶杓も、なかなかOKが出なくて大変でした。でも、面白い仕事だと思いますよ。もう20年やってますからベテランですかね。そういえばトラフさんでは、舞台美術も手がけてるんですよね。建築家に舞台美術の仕事を依頼するってなかなか面白い劇団ですね。
鈴野さん
仕事は同じようでぜんぜん違いますからね。でも面白かったです。あえて建築家に舞台美術を依頼する劇団ですからね、自分たちの言う通りにつくるのではなくて、こちらからの提案も期待してるわけですよ。「台本読んできたでしょ」「はい」。で、黙っちゃう。こちらの出方を待ってる。台本は難解で、こちらは何か言ってくれれれば、それがヒントになるから、それに対して応えようと思うのに、お互い黙り合っちゃって(笑)
そりゃ大変(笑)。正解がない世界ですから、それが面白いところでもあるんですけどね。
禿さん
本番の舞台観ててもドキドキですよ。予算は舞台美術の書き割りと同じでも、建築家ならちゃんと考えてるだろうって、建築の強度を期待されてますからね(笑)
鈴野さん
予想外の使われ方されると、もー、舞台の中味はぜんぜんアタマに入ってこないですよ。ホントにドキドキ。
ぼくらも、最後に作品になって試写を観るときは、仕事のこといろいろ思い出してストーリーはぜんぜん入ってこないです。「あ、このシーン……あ~大丈夫だった、ふー」とか(笑)
鈴野さん
でも、テレビのセットや舞台美術は、自分たちの予想を裏切るような使い方されるのも面白いんですよね。こちらの設計意図通りに動かないのが面白い。住宅を設計しても、自分たちが考えもしない使われ方してると、面白いなぁって思います。
脚本と監督は別がいいって言いますよね。同じだと作品にブレはないかもしれないけど、逆に新しいものは生まれづらいですよ。
鈴野さん
予定調和になりがちですからね。

空気の器

鈴野さん
コレ、ぼくらがつくった「空気の器」。プレゼントに持ってきました。
あ、それ知ってます。東京のデザインショップで見ましたよ。
鈴野さん
こんなふうに(パラパラパラ~)
夫・妻
うわ~!!!!!!!
鈴野さん
こんなふうにも……(パラパラパラ~)
は~! そんなんもできるんや!! スゴいスゴい。
ちょ、ちょっとー!! いや、鳥肌たったわぁ。
禿さん
反対から見ると……(くるん)
うわわわわわわ。こんな~うそや。
これ素材、何ですか?
鈴野さん・禿さん
紙です。
こういうの、どうやってひらめくものなんですか?
鈴野さん
東京の紙の加工会社からぼくらにデザイン依頼があって、最初は紙の裏表を黄色と青にして、色を反射させて緑をつくろうと思い、いろいろ試行錯誤を重ね……。幅1センチくらいから初めて、自分で50個くらい切りました。
一つ一つ手で?
鈴野さん
ハイ。試作は手切りです。いろんな紙を試して、幅もどんどん小さくなって、最後は1ミリと0.9ミリの差も比較して。
紙質と幅が絶妙なんですね。「紙の器」は知っていたので、これをデザインされた方に会えるとは嬉しいです。ぼくらは仕事で必要に迫られ、OKをもらうためにつくることが多いので、こんな自由な創作ってなかなかね~。
鈴野さん
モビールにしても良いと思います。ふわふわしてて邪魔にもならないですから。いろいろ重ねて置いても面白いですよ。こんなふうに……。
おおおお、ええな。
オシャレすぎる~。これは幸せやね~。
長男
おおおおおお、スゲー!!!(親子で同じリアクション)
鈴野さん・禿さん
ありがとうございます。プチ幸せに参加できれば……(笑)。
プチ幸せです!!
これもまた建築とはぜんぜん違う世界ですよね。
鈴野さん
建築を発想の素にするといろいろと……。最近は結婚指輪もデザインしました。偽物が登場するくらい人気なんですよ。世の中、こんなに結婚する人っているんだな~って思うくらい(笑)
夫・妻
け、結婚指輪……。
鈴野さん
ぼくらがデザインしたのは、リングを18金でつくって銀メッキを施すと、時間が経つと下から金が出てくる指輪。夫婦で時を重ねると金になってくる指輪です。天然木フローリングは長く使ったほうが深みが出るし、キズも味わいになる。結婚指輪も経年変化やキズをポジティブに捉えてデザインしたものです。指輪をつくってる方は金にメッキするなんて考えないですからね。これもある意味、建築的な発想から生まれたプロダクツです。
ステキ。お父さん、私たちもう一回、結婚指輪買わなアカン。
建築から指輪まで。広いですね~。
鈴野さん
最初のころは、建築以外の予期せぬ仕事が舞い込むと驚いていたけど、最近ではフツーになっちゃって、多少のことでは驚かないですね(笑)
禿さん
ぼくらの仕事の領域も広いと思ってましたが、映像制作の世界では動物まで小道具さんの担当だとは。仕事の広さに驚きましたよ。
鈴野さん
これから、この家がどんなふうに変っていくのか楽しみですね。
禿さん
この家の3年後、10年後とか、楽しみです。今日はありがとうございました。