トラフ建築設計事務所の二人が、プチ幸せを楽しむ「木の家」に会いに行きました。
家に会いに | 2022.12.21
プロローグ
つくり続ける家
ものづくりに携わるというご主人の職業に期待を抱き、京都にある「木の家」を初めて訪問しました。その期待を裏切らず、というよりその期待と予想を超えて、今も改造が行われているライブ感あふれる住まい方と、それを受け入れる懐の深い「無印良品の家」の相性の良さがとても印象的でした。
ここは何の部屋、と決まった場所はなく、ご夫婦の言う「プチ幸せ」を求めて朝のコーヒーを飲むテラスなど、住まい手が何となくゾーンを決めている、という印象を持ちました。それは限りなく「箱」に近いことによる、使い勝手の自由さと、住まい方を考えるための適度なきっかけを与えているバランスの良さなんだと分かりました。聞くと、家具屋さんやホームセンター、日曜大工、と休日の過ごし方がまるっきり変わったそうです。そもそも専門でもなかった人が家づくりにここまで介入して、そしてそれが今も続いていて、つまり家に関わる時間と家にいる時間が増える、すっかり家づくりが趣味として定着した家族を見ていると、とても微笑ましい気持ちになりました。
ダイアログ1
だから、ここに建てました
トラフ建築設計事務所の二人が会いにいった家
Uさんが少年時代を過ごした家は、京都・宇治市西部に広がる閑静な住宅地にありました。国の大規模干拓事業で造成され、大手住宅メーカーが高度経済成長期に開発した田園都市です。
この街では、近年、第二世代が新しい暮らしを営むようになり、結婚を機に両親の家を受け継いだUさんもそのひとりでした。
昭和の鉄骨系プレハブ住宅を、ご夫婦が手作業で大胆に改装し、やがて建て替えの時期を向かえ、当初は両親の家と同じ鉄骨の工業化住宅の家づくりをスタートさせます。
でも、Uさん夫婦が、最終的に家族の新居に決めたのは、木の柱と大きな開口部が二人の心に響いた「木の家」でした。
インテリアや庭には日々、手が加えられ、新しいモノが生まれ、Uさん家族の家づくりは竣工から2年を迎えた今も進行中です。
「こんにちは」「おじゃまします」
「どうぞおあがりください!」
- トラフ建築設計事務所 鈴野さん(以下・鈴野さん)
- 「木の家」のプロトタイプが提案するベーシックな住まいの考え方には共感を覚えていました。実際にどんな生活が営まれているのか、暮らしぶりを拝見するのが楽しみです。
- トラフ建築設計事務所 禿さん(以下・禿さん)
- ぼくはご主人が家具を自作したり、ものづくりに精通している方とうかがっていたので、それが暮らしにどう反映されているかが気になってました。
リビングルームは「暮らし」の作業場
- 鈴野さん
- 家は「無印良品の家」ですが、無印良品の家具は少ないですね。
- 夫
- 既製品を使うのも良いけれど、それだけじゃなくていろいろ工夫したい質なんですよ。家のために何か使えそうな素材を探したり、時には廃材を拾ってきたり(笑)
- 禿さん
- そういういろんなモノを受け入れうる家なんでしょうね。室内を拝見して、ホントにご主人の趣向に合ってると思いました。自作の家具もいいですよね。フレームのエイジングまで施したり。
- 夫
- 実は、そういうこと、以前はあんまなかったんですけど……。
- 妻
- この家に住んでからやな。休日は以前なら外出して洋服ばかり見てたのが……。
- 夫
- 今は家にいる時間多いし、出かけるのもホームセンターと雑貨屋か家具屋……。
- 妻
- さん(ご主人)は忙しくて休日は少ないですけど、その休みはいつも家でのこぎり出して何か切ってへん? よく考えてみたら、この家住んでからお休みはホームセンターかのこぎりやわ。
- 鈴野さん
- なんか生活がスゴく変わったんですね。自分たちの暮らしに合った器が用意されると、自分で何かやりたい気持ちになるのかな。
- 禿さん
- 休日の過ごし方にも影響するくらい変わるもんなんですね。
- 妻
- めっちゃ変わりました。こんなふうになるとは思わへんかったなぁ。前は買わなかったオサレ雑誌も読むようになったし。
- 鈴野さん・禿さん
- オサレ雑誌~(笑)
- 鈴野さん
- これ工具箱ですか? こういうものが家族の空間の中心にあるってのが気になりますね~(笑)
- 禿さん
- リビングにいてもすぐに工具が取り出せる!(笑)
- 夫
- たいていここで作業しちゃいますからね。
- 禿さん
- え、リビングで作業するんですか。じゃあこのテーブルは……。
- 夫
- ここで材を切ったりハンマーも使いますよ。
- 禿さん
- いや、リビングでトンカチ叩けるのは素直にスゴい(笑)
- 鈴野さん
- 日本の家でDIYを楽しむのは難しくなってますからね、うらやましい。ご夫婦でホームセンターによく出かけるようになったっていうのもいいなって思います。
プチ幸せのひととき
- 鈴野さん
- テラスに置かれている箱、ご主人がつくった照明器具ですか?
- 夫
- そうです。光を柔らかくしたくてプラ板入れたり、普段仕事でやってることなんで。これが灯ってたら「家に帰ってきた~」って感じするじゃないですか。
- 禿さん
- このテラスはどんな使い方してるんですか?
- 夫
- 夜に、この小さい灯り点けて、家内とコーヒー飲んだりしてますね。プチ幸せを求めて……。身の丈以上のお金をかけてしまうとプチじゃないですからね、「ちょっといいな」ってのがプチ幸せなんですよ。
- 妻
- そうやな、プチ幸せや! 音楽聴きながら夜のテラスでコーヒー飲むなんて以前は考えられなかった。建ててから2年経ってもぜんぜん新鮮さが薄れないんですよ。
- 夫
- そこに座布団置いてな。プチ幸せのひとときやな。
- 妻
- 夏はテラスで子どもがプール遊びしてるのを、吹き抜けから眺めて、贅沢やなぁって思います。夕方はそのプールに足をつけて近所の奥さんとおしゃべりしたり、それもプチ幸せ(笑)
- 夫
- そんなちょっとした贅沢が、自分たちの暮らしを変えるな。
- 妻
- この家は間取りも変えられるし。いろんな可能性が……。
- 禿さん
- うーん、まだ家づくりが続いている感じですね。
- 夫
- そうですね。あんまり無茶はせんとこうと思ってますけど。基本はプチ幸せですから(笑)
ダイアログ2
「木の家」を建てるまで
- 禿さん
- ところでお二人が「無印良品の家」を知ったきっかけって……?
- 妻
- すぐ近くにモデルハウスがあるんですよ。無印良品は大好きで、住宅もやってはるの知ってたんで、まあ、近所だし、とりあえず見にいったら、もう……。
- 禿さん
- もう……?
- 妻
- か~なり衝撃的やったなぁ。どーんと前面に出たシルバーの支柱の感じとか、吹き抜けとか、大きな窓の気持ち良さとか。
- 夫
- ただ予算の関係とかあって、それで違うメーカーで話を進めてました。でも最後の最後に「いや、ちょっと待ってくれー!!」って、もう一回、二人で「無印良品の家」見にいこうってことになり……。
- 妻
- そうそう、そうそう。
- 夫
- それで改めて気持ちがこっちにゴロリと……。
- 鈴野さん・禿さん
- ゴ、ゴロリと……。
- 妻
- 最初のメーカーとは契約までしてたのに。
- 鈴野さん・禿さん
- えええ……。
- 妻
- 何度訪れても「木の家」はホンマ衝撃やったわぁ。
- 禿さん
- え、えーと、「無印良品の家」は「窓の家」もありますが、お二人が「木の家」を気に入った理由は何だったんでしょう。
- 夫
- これしか考えられなかったですね。個人的には「木の家」のディテールにグッとくるものがありました。あとSE構法が安心なこともあって、それも「無印良品の家」を建てる決め手になった感じやね。
- 鈴野さん
- 木の骨格が見えるのがいいですよね。普通は最後は隠されちゃって見えなくなりますから。
- 妻
- そうですね。でも、ホントに衝撃やったなぁ、お父さん。
- 夫
- 今、思い返すと、外観からインテリアまで第一印象からホントに良かった。当初、建てようと思っていたハウスメーカーにこんな感じをお願いしても、なかなか近づけなかった。そこはそこでがんばってくれたんですけどね……。
- 妻
- ここは主人の実家の土地なんで、お父さんお母さんの意向も踏まえて、当初はメーカーにお願いしたわけですが……まぁ、打ち合わせは面白くなかったなぁ。
- 鈴野さん・禿さん
- はぁ。
- 妻
- すべてが「まあコレでいいです」みたいな感じ。こう変えたらどうなるんですか、って聞くと、いきなり予算が上がって「はぁ、じゃあいいですよ、コレで……」。
- 夫
- ま、そうやったな。
- 妻
- それで最後にもう一回、二人で「木の家」見に行こうと……、その時は「すみません、ほかの会社で建てます」って言うつもりで行ったんやけど、やっぱりドキューン!!となってなぁ。やっぱり「木の家」がいい! 「木の家」にしようって、その時の気持ちは今も鮮明です。
- 夫
- その気持ちに正直になれて良かったと思います。実は最初は建築家に依頼しようとしていたんですよ。でもいろいろと不安があったので、それで安心できる住宅メーカーに行って、いやいや、でも本当につくりたい家はコレじゃないと、結果的に「無印良品の家」に落ち着いた感じですかね。
- 鈴野さん
- なるほどね。「木の家」はちょうどバランスが……。
- 夫
- そう、バランスも良かったですね。当時は総合住宅展示場にも見学に行って、いろんな罠にハマりそうになったりもしました。営業の方が熱心で、一度射程距離に入るともうヘビににらまれたカエル状態。動けない。
- 鈴野さん・禿さん
- あははははは。
- 妻
- でも「無印良品の家」は、そんな強引さはぜんぜんなくて、お店で洋服選ぶような気持ちでゆったり観ることができましたから。
- 夫
- そういうイメージも良かったな。
真夜中のリノベーション
- 鈴野さん
- 家を新築して揃えた家具もあるんですか?
- 妻
- 前のハウスメーカーで契約してた時に、ソファと食器棚はインテリアショップで買ってたんですけど、家を「木の家」に替えたらその食器棚が大きすぎて入らなくてね~。
- 鈴野さん
- はははは。もうそこまで買ってたんですね。
- 夫
- 「無印良品の家」の担当の方が「まあ、なんとかします」って。
- 妻
- それで、食器棚の幅木切って、天井少し上げてもらって、ギリギリ収まってみると誂えみたいにピッタリ(笑)。
- 鈴野さん・禿さん
- ……。
- 鈴野さん
- え~、話を少し戻しますが、もともとこの土地にはご実家があったんですね。
- 妻
- ええ、そうです。主人の実家があって、結婚を機にお父さんとお母さんが引っ越されて、実家の建物をしばらく借りてたんですよ。その古い家をね、ある時思い立って、壁をドンドンと打ち砕いて、ふと気がついたら真夜中にやり始めてしまった。畳を上げて、のこぎりキコキコ。
- 鈴野さん
- ええええええ。
- 禿さん
- 夜中にそれって通報されますよ~(笑)
- 夫
- 昔の家だからやたら間取りが細かかったんで、間仕切り壁を抜いて抜いて、また抜いて。
- 妻
- のこぎりで切れないと思ったら「お父さん、これ鉄骨や~!」みたいな(笑)
- 鈴野さん・禿さん
- ああああ、そんなところまで。でも、その家も見たかった。
- 妻
- びっくりされると思いますよ。ちょうど家の雑誌を読んでて、建て替えはお金がかかるけど、コレ自分たちでできるんちゃうって。夜の9時頃、家族団らんでテレビ観てた時間に、いきなりダーンって仕切り壁を壊して、脚立に乗って天井をベリベリと剥がして……。それからも、お父さんは、夜遅いので、帰ってから窓を閉め切って、家の中でギ~ンって切ったり、バーナーで焼いたりして、当時はもうエライことで。
- 夫
- まあ、そんなこともありました、ハイ。
- 鈴野さん・禿さん
- ……(笑)。
- 夫
- 壁抜いてから「ここ抜いたんだけど大丈夫か?」って、メーカーに聞いてましたからね。あはははは。
- 妻
- 後先考えないでやってしまい、ペンキ臭くて寝られへんかったこともあったもんなぁ。思いつきで行動するけどやったことは後悔しないタイプだから。
- 鈴野さん
- 前向きですね~(笑)で、その家でしばらくは暮らしてたんですよね。
- 妻
- でもね、やっぱり築年数がけっこう経ってましたからね。その当時の名残ですが、二人で貼ったフローリングの板を、前の家を解体した時に「無印良品の家」で保管してもらって、それをいろんなところで使ってもらいました。
- 鈴野さん
- 前の家から引き継いだものがあるのはいいですね。
- 妻
- そうなんです。前の家も思い入れがあったので。
- 夫
- そうやな。
ダイアログ3
建築の仕事と小道具の仕事
- 妻
- 私たちが共働きで忙しいので、家族全員が各々のことをやってもらえるように、とにかく家事関係は1階に集約してもらいました。洗濯物も2階のテラスではなく、1階で干せるように考えてもらったり、取り込んだ洗濯物も各々で片付けられるように工夫したり。あと1階で家事をしてても、吹き抜け越しに叫べば、みんな聞こえて下りてくるし(笑)
- 禿さん
- どこにいても家族の雰囲気が感じられそうですね。
- 妻
- どこにいてもわりと声が聞こえるもんで、2階にいる高校一年の長男と友だちの恋バナもマル聞こえ(笑)
- 鈴野さん・禿さん
- あははははははは。
- 鈴野さん
- 2階を拝見してもいいですか?
- 妻
- 2階は恥ずかしいものばかりで……。
(トントントントン) - 鈴野さん
- こんにちは~。
- 長男
- こんにちは~(長男ゲーム中)。
- 禿さん
- 南向きの大きな開口部に吹き抜け。気持ちの良いスペースですね。
- 妻
- ホントは息子と娘に一部屋ずつと思ってたんですが、娘はまだ部屋より1階で遊ぶことが多いですから、娘の部屋は机があるだけです。
- 鈴野さん
- 洗濯物干すのは1階だと、2階のテラスは何に使ってます?
- 妻
- 布団干すくらいですね。家事で上がったり下がったりしない動線考えたので、2階に上がるのは寝るときだけです。朝、子ども起こすのも1階から声掛けると聞こえますからね。
- 禿さん
- 吹き抜けで上下が見通せると1、2階でも近く感じるものですよね。
- 妻
- そうなんですよ。
- 禿さん
- ここは?
- 妻
- ここはいろんな片付けモノを。マンガとかフィギュアとか。
- 禿さん
- あ~、もともと納戸なんですね。
- 鈴野さん
- いいですね。部屋にもなっちゃいそうですね。
- 妻
- そうなんですよ。けっこう広いんです。
- 鈴野さん
- うわスゴい、フィギュアのコレクション。立派なガラスケースに……。
- 夫
- ここはぼくの趣味の場所なんですが、ここだけにしとこうと……。ホントは家中、いろんなところに置きたいのを、グッとガマンしてこんなかにしまい込んで……。
- 鈴野さん
- 撮影所のお仕事では、どんなモノをつくることが多いんですか?
- 夫
- 最近は時代劇が多いですね。この前はドラマの鎧を担当したんですが、それはデザイン画を描いて造形に製作を頼んで、それを役者さんや監督にプレゼンして……。基本は、持ち道具と言って、時代劇なら刀、傘とか履物、現代劇なら靴や鞄や時計を用意しています。そこに一工夫するのがぼくらの仕事です。
- 妻
- 動物も小道具やな。
- 鈴野さん・禿さん
- え?
- 夫
- そうそう。本番でうまいこと動かすように仕込まないといけないんですよ。ヘビは変温動物なんで冷やしておくと動きが遅くなるけど、逆に温めたほうが動かないのもある。そういうふうにいろいろ考えて用意しますね。
- 禿さん
- へ~、そんなところまで小道具の仕事なんですか?
- 鈴野さん
- ぼくらも仕事で、東映の大泉撮影所に行ったことがありますよ。
- 夫
- そういえば、お父さん、明日は東映の撮影所やな。
- 夫
- 撮影所は行かないけど、今やってる映画の準備で、衣装合わせがありまして、それで東京に行くんですよ。幕末が舞台の映画なので、その時代の風俗や時代背景を勉強して、当時の道具を用意して、骨董品屋で探したり、ないものはつくって……。
- 禿さん
- いろいろな知識が必要な仕事ですね。映像では一瞬しか使われないこともあると思うんですが……。
- 夫
- ぼくらはその1秒の「寄り」に賭けるわけです。その寄りをリアルにするために、削って、磨き込んで、何時間もかける。必殺シリーズのカラクリ人形も手掛けましたが、製作に1カ月かけて映像だと2秒です。「利休」の映画で使う茶杓も、なかなかOKが出なくて大変でした。でも、面白い仕事だと思いますよ。もう20年やってますからベテランですかね。そういえばトラフさんでは、舞台美術も手がけてるんですよね。建築家に舞台美術の仕事を依頼するってなかなか面白い劇団ですね。
- 鈴野さん
- 仕事は同じようでぜんぜん違いますからね。でも面白かったです。あえて建築家に舞台美術を依頼する劇団ですからね、自分たちの言う通りにつくるのではなくて、こちらからの提案も期待してるわけですよ。「台本読んできたでしょ」「はい」。で、黙っちゃう。こちらの出方を待ってる。台本は難解で、こちらは何か言ってくれれれば、それがヒントになるから、それに対して応えようと思うのに、お互い黙り合っちゃって(笑)
- 夫
- そりゃ大変(笑)。正解がない世界ですから、それが面白いところでもあるんですけどね。
- 禿さん
- 本番の舞台観ててもドキドキですよ。予算は舞台美術の書き割りと同じでも、建築家ならちゃんと考えてるだろうって、建築の強度を期待されてますからね(笑)
- 鈴野さん
- 予想外の使われ方されると、もー、舞台の中味はぜんぜんアタマに入ってこないですよ。ホントにドキドキ。
- 夫
- ぼくらも、最後に作品になって試写を観るときは、仕事のこといろいろ思い出してストーリーはぜんぜん入ってこないです。「あ、このシーン……あ~大丈夫だった、ふー」とか(笑)
- 鈴野さん
- でも、テレビのセットや舞台美術は、自分たちの予想を裏切るような使い方されるのも面白いんですよね。こちらの設計意図通りに動かないのが面白い。住宅を設計しても、自分たちが考えもしない使われ方してると、面白いなぁって思います。
- 夫
- 脚本と監督は別がいいって言いますよね。同じだと作品にブレはないかもしれないけど、逆に新しいものは生まれづらいですよ。
- 鈴野さん
- 予定調和になりがちですからね。
空気の器
- 鈴野さん
- コレ、ぼくらがつくった「空気の器」。プレゼントに持ってきました。
- 夫
- あ、それ知ってます。東京のデザインショップで見ましたよ。
- 鈴野さん
- こんなふうに(パラパラパラ~)
- 夫・妻
- うわ~!!!!!!!
- 鈴野さん
- こんなふうにも……(パラパラパラ~)
- 夫
- は~! そんなんもできるんや!! スゴいスゴい。
- 妻
- ちょ、ちょっとー!! いや、鳥肌たったわぁ。
- 禿さん
- 反対から見ると……(くるん)
- 妻
- うわわわわわわ。こんな~うそや。
- 夫
- これ素材、何ですか?
- 鈴野さん・禿さん
- 紙です。
- 夫
- こういうの、どうやってひらめくものなんですか?
- 鈴野さん
- 東京の紙の加工会社からぼくらにデザイン依頼があって、最初は紙の裏表を黄色と青にして、色を反射させて緑をつくろうと思い、いろいろ試行錯誤を重ね……。幅1センチくらいから初めて、自分で50個くらい切りました。
- 夫
- 一つ一つ手で?
- 鈴野さん
- ハイ。試作は手切りです。いろんな紙を試して、幅もどんどん小さくなって、最後は1ミリと0.9ミリの差も比較して。
- 夫
- 紙質と幅が絶妙なんですね。「紙の器」は知っていたので、これをデザインされた方に会えるとは嬉しいです。ぼくらは仕事で必要に迫られ、OKをもらうためにつくることが多いので、こんな自由な創作ってなかなかね~。
- 鈴野さん
- モビールにしても良いと思います。ふわふわしてて邪魔にもならないですから。いろいろ重ねて置いても面白いですよ。こんなふうに……。
- 夫
- おおおお、ええな。
- 妻
- オシャレすぎる~。これは幸せやね~。
- 長男
- おおおおおお、スゲー!!!(親子で同じリアクション)
- 鈴野さん・禿さん
- ありがとうございます。プチ幸せに参加できれば……(笑)。
- 妻
- プチ幸せです!!
- 夫
- これもまた建築とはぜんぜん違う世界ですよね。
- 鈴野さん
- 建築を発想の素にするといろいろと……。最近は結婚指輪もデザインしました。偽物が登場するくらい人気なんですよ。世の中、こんなに結婚する人っているんだな~って思うくらい(笑)
- 夫・妻
- け、結婚指輪……。
- 鈴野さん
- ぼくらがデザインしたのは、リングを18金でつくって銀メッキを施すと、時間が経つと下から金が出てくる指輪。夫婦で時を重ねると金になってくる指輪です。天然木フローリングは長く使ったほうが深みが出るし、キズも味わいになる。結婚指輪も経年変化やキズをポジティブに捉えてデザインしたものです。指輪をつくってる方は金にメッキするなんて考えないですからね。これもある意味、建築的な発想から生まれたプロダクツです。
- 妻
- ステキ。お父さん、私たちもう一回、結婚指輪買わなアカン。
- 夫
- 建築から指輪まで。広いですね~。
- 鈴野さん
- 最初のころは、建築以外の予期せぬ仕事が舞い込むと驚いていたけど、最近ではフツーになっちゃって、多少のことでは驚かないですね(笑)
- 禿さん
- ぼくらの仕事の領域も広いと思ってましたが、映像制作の世界では動物まで小道具さんの担当だとは。仕事の広さに驚きましたよ。
- 鈴野さん
- これから、この家がどんなふうに変っていくのか楽しみですね。
- 禿さん
- この家の3年後、10年後とか、楽しみです。今日はありがとうございました。
エピローグ(編集後記)
「木の家」=「J.C.P」?
VOL.14のタイトルは「創る家」。
この家からは常に何かが創り出されていて、住まい手が自然体でそれを楽しんでいる。
これは私が取材前のロケハンに伺った時の印象です。
しかも「木の家」をベースにオーナーのUさんは現在進行形で「暮らし」を進化させていました。それも日々の生活にとても近いところで。
住まいと住み手の一体感がとても高いなと思ったのです。それはデニムが体に馴染んでいくような感覚でしょうか。
今回「木の家」に会いに行っていただいたトラフ建築設計事務所の鈴野さんと禿さんは、建築家の枠組みを飛び越してCMのセットや舞台美術まで手掛けている注目の建築ユニット。前々から一度無印良品の「家に会いに」行っていただきたかったお二方でした。
Uさんとトラフのお二人の対談は、木の家での暮らし方の話からいつしか物作りにかける情熱の話へ。
お三方ともモノづくりのプロフェッショナル。お話はとても白熱したものになったことはダイアログ2・3の通りです。
撮影と対談が進み、家の周囲をぐるっと回ってみると、これまた手の込んだ面白い空間が広がっているではないですか。
ワクワクしながら歩いてみると、ここにもご主人のコレクションがさりげなく、そしてセンス良く置かれています。
フェンスの一部には旧宅で使われていたフローリングを再使用していてこれがまたとても良い雰囲気。そこにはアンティークと思われるこんなプレートが貼られていました。
「JUNK COLLECTORS PLACE」
思わず私が「これUさんの木の家にピッタリじゃないですか」と冗談交じりに言ったら、「でしょ」とご主人は嬉しそうに笑っておられました。
「木の家」に会いに行くのはこの企画ではもう7件目になりますが、毎回ながらどんな暮らしのかたちも受け入れてしまうその懐の深さ、大らかさはこの家の大きな魅力だと実感します。
次はどんな暮らしを詰め込んだ「木の家」に会えるのでしょうか。素敵な「暮らし」に会いに行く旅はまだまだ続きます。(E.K)
「無印良品の家」に寄せて | トラフ建築設計事務所 鈴野浩一さん 禿真 哉さん
生活の一部になった家づくり
無印良品の家を訪問するのは今回が初めてでした。この適度に規格化された家は、標準化住宅の分野でとても理想的な解答を与えていると感じました。建築は未だにというか、自動車生産のように効率優先の完全なファブリケーションで完結するわけではなく、現場での人的な作業が大半を占めます。無印良品の家は両者のあいだの、少し緩めの標準化商品だと言えるのだと思います。それが今回の訪問で感じた、肩肘を張らない箱としての構造体の中立性と、住まい方を適度に自由にするバランスの良さに通じていると思いました。
「木の家」のコンセプト・デザインの元となっている住宅シリーズに、学生のころから興味を持っていました。興味というより、現代の住宅の目指すべき指標として理想的なプロジェクトだと思っていました。構造や設備を合理的に追及し、無駄なものをそぎ落としたシンプルな箱の空間で、「住宅として最低限の性能を最小限の物質で達成すること」という命題を進化、蓄積させていくコンセプトと、今回の訪問を照らし合わせながら、両者の共通性を再認識することになりました。
まず箱があって、と考え始めると、中はすごく自由に考えることができます。居間、寝室、玄関など、すでに分類済みの項目の編成から始めるのではなく、もっと用途的には無分類の、高さのある場所、地面に近い場所、寝転がれる場所、などが、大体のゾーンは決まっていても、具体的な使い方はむしろ後付け的に決まっていく。それは住まい方を見ていてよりはっきりと認識できました。たとえば、夜に夫婦二人でテラスでコーヒーを飲むのが日課になったそうです。そのわずかな時間のために小さなテラスの周りには自前の照明や、置物が設えられていました。そういった特定の場所で発見的に見出された日課の話を聞いていると、建築はそのきっかけになっているのだと分かりました。無分類でなんとなく想定だけできている、余白のある場所の集積でこの家はできていたのです。
だからといって、けっして無計画だったというわけではないのですが、そういった決めつけ過ぎない計画の末にできたこの家はもはや、週末の趣味のための遊び道具にもなっています。聞けば生活がまるっきり変わったといい、暇さえあれば、ホームセンターや家具屋さんに出向き、リビングでとんかちを叩いているそうです。図らずも、週末の”家いじり”みたいなものが定着した家族を見ていると、良い意味で未完成の状態で明け渡すような計画、というのもあるのではないかと思いました。[2013.12]