vol.12 丘の家
「無印良品の家」で暮らしている方を訪ねて多摩丘陵の文教都市へ。
アーティストの鈴木康広さんが、眺めの良い「木の家」に会いに行きました。

施工例 | 2013.4.19

ダイアログ1

だから、ここに建てました

「木の家」
I 邸|東京都、2010年10月竣工
延べ床面積: 102.30m²(30.94坪)
家族構成: 夫婦・息子

鈴木康広さんが会いにいった家

小高い丘の上に佇む、シンプルなスモールハウス。
Iさんの理想の住まいづくりは、その「丘」を探すことから スタートします。駅からの緩やかな坂道を家族で歩き、 桜のつぼみの下を抜けると、突然眼下に広がる木々と甍(いらか)の波。
風が吹き抜ける多摩丘陵の高台は、理想の情景を用意して Iさん家族の家づくりを待っていたのです。
ここに昔デートで訪ねたモデルハウスの「木の家」を建てよう。
それまでは東京郊外の接続駅間近に建つ集合住宅での生活。
家づくりでは小さな長男の健やかな成長も考えました。
その長男は桜の季節に、丘の上の家から小学校に通い始めます。
夫婦で選んだ美しい日用品と、窓から見晴るかす丹沢の山並み。
床面積では計れない、大きな「木の家」が坂の上に佇んでいます。

「おじゃましま~す」
「どうぞどうぞ」

鈴木さん
自分が住む場所を決めることは、合理性だけでは語れないものがあると思う。土地を選んで家を建てるのは、ある意味、地球に根を下ろす感じじゃないですか。ここに「自分の家を建てよう」と決意するのはスゴイ瞬間だなと思います。きっと、初めてこの場所に立った瞬間をずっと大事にできるということなのかもしれない。今日のこの訪問は、自分の「家」を改めて考えるきっかけになるように思います。

2階の吹き抜けより

鈴木さん
ああ、吹き抜けの天井はこんなに高かったんですね。窓からの見晴らしが良いのでさらに開放的に感じます。
私にはこの吹き抜けの梁でリビングとダイニングに分けられているイメージがあるんですよね。「木の家」は部屋の仕切りや壁はないけれど「間」で部屋が隔てられているように感じるんです。部屋を壁で仕切るのは簡単ですが、間で感覚的に仕切るのは、空間同士もっと豊かな関係が生まれる可能性を感じています。
鈴木さん
その感覚は日本の建築文化や身体感覚と結びついているような気がします。

そうですね。畳間で暮らしていた子ども時代、畳縁や敷居のラインに見えない仕切りを感じていましたからね。
友人を招くと「モダンな家だね」って言われるけど、私はむしろ、日本の住まいの良さを継承しているような意識があるんですよ。
鈴木さん
壁がないのに空間がちゃんと分けられていると感じられる。それはすごく興味深い話で、その家の空間の使い方や仕切り方は、子どもの空間感覚にも影響をあたえると思うんですよね。

そこにしかない風景を所有する

鈴木さん
設計者の知恵で建てられた住宅に、住んでる人が手を入れて、その良さをどう広げていくかも、持ち家ならではの楽しみですよね。子どもの頃は壁に絵を描くと怒られたけれど。
昔の家は子どもの成長を記した柱のキズが残ってましたよね。
鈴木さん
柱に彫刻とかできるかも(笑)。それくらいやったほうが子どもの思い出に残りますよ。何かをつくることで家族や自分の人生と家が関わり始める。その素材として「木の家」はいいですよね~。ここが子ども部屋なのかな。うわ~ミニカーが大渋滞。

この家全体がおもちゃ箱みたいなものですけどね。ミニカーは私も小さい頃に集めていたから、子どもと遊ぶのは、自分の子ども時代の拡大再生産みたいな感覚がありますよ(笑)
鈴木さん
そうですね。「子ども時代がもう一回キタ!」みたいな。
そうそう。昔の記憶が蘇って、子どもと遊ぶ口実で自分も遊んでいる。鈴木さんも一緒にいろいろつくったりするんですか。
鈴木さん
絵は一緒に描きますね。
子どもは塗り専門で、こんなに塗りつぶしてくれてありがとう、みたいな感じ(笑)。
いいな~。私はうまく描いてあげられないから。
鈴木さん
上手に描けなかったと思った時はもう一回描けばいいんです。必ず少し上手くなっていますし、同じものが違う絵になる。子ども時代の再生産とおっしゃってましたが、絵はそれにピッタリですよ。素晴らしい景色が目の前にあるから、季節ごとに一緒に窓からの風景を描くことおすすめします。
そうですか。今度はぜひ子どもと一緒に挑戦してみます(笑)。
鈴木さん
もし、ここのための絵があるとしたら、この家で暮らす家族だけに許された喜びだと思います。Iさんは土地だけではなく風景も所有していて、画家なら絵を描き、写真家なら写真を撮るけれど、本当は楽しみ方はもっといろいろある。そう考えると家って、地球上のその場所の出来事を、家族で記憶することでもあるのかなって思います。