フードディレクターの野村友里さんが、笑顔とごちそうの「窓の家」に会いに行きました。
家に会いに | 2022.12.8
プロローグ
風景のある暮らし。
そもそも家の定義とは、自然の中に壁や屋根を用いて場を囲う事で、外敵から身を守り、安心して、眠り、集う場所、というものである。
同じ屋根の下で寝食を共にする事により、絆を固め、生涯の大半を過ごすのが家というもの。たとえ都会にあったとしても、出来る限り自然を感じながら、自然の中で暮らしていると意識したいものである。
空の表情、木々の変化、時間を追うごとに変わる光の流れ。窓からの景色は、そこに暮らす人々に人間らしさを毎日そっと気づかせてくれるだろう。
今回訪問させていただいたKさんの家の中を流れる空気は、開放的だった。
家のどの角度からも窓の景色を感じられる暮らしの中で、きっと色んな事を見出されたのではないだろうか。一人の人間として、家族として、家という楽しみを最大限に楽しんでいるように感じた。
「雨が降ってきたね。」
「星が綺麗だから灯りを消して、
話をしようよ。」
その様な暮らしぶりが楽しくて仕方がない、そんな豊かで人間らしい営みに触れた気がする。まるで帰りたくなるような家である。
神社の前に白く浮かび上がるように凛と佇むその家で、今日もきっと同じ空の下、Kさん一家は楽しく暮らしているに違いない。
ダイアログ1
だから、ここに建てました
野村友里さんが会いにいった家
鎮守の森に面した敷地は、以前は八百屋さんが建っていました。
土地を取得した時は、まだ家づくりは白紙だったKさん夫婦。
前面道路には桜並木があり、春の花見のシーズンには 友人を招きたいという気持ちから、家づくりはスタートします。
食への関心が深く、ソムリエの資格もお持ちの奥様は 手料理で知人をもてなしたいという想いもありました。
吹き抜けには、桜の景色を切り取る大きな窓を開けて、 家族と友人が集うダイニングとキッチンは東南側に配して、 日差しがたっぷり注ぎ込むように計画。
芝生の庭に出られるので、ピクニック気分も味わえます。
新居で誕生した長男も「桜」にちなんだ名前です。
知人やご近所さんが集う、笑顔が楽しい家になりました。
「こんにちは~」
「お待ちしてました!!」
- 野村さん
- あ、あの家ですよね。すぐに分かりました。こんなにシンプルで特別なことは何もしていないのに、通りでいちばん目立っているなんて。インテリアを見せていただくのが楽しみです。
家の中なのに外とつながっているみたい
- 野村さん
- うわ~、スゴいごちそうですね!
- 妻
- 今日は食いしん坊が大勢いらっしゃると聞いていたので。
- 夫
- お客さまを招いて、料理とワインを振る舞うのが大好きなんですよ。もともと人が集まる家にしたいと思ってましたから。
- 野村さん
- キッチンも自然光がたっぷり入って明るいですね。 天井から床までの大きなガラス窓もすてきです。
- 妻
- キッチンは窓が東南向きなので明るくてとても快適ですよ。このガラス戸を開けると庭にもすぐに出られるし。
- 野村さん
- この大きなガラス戸、開くんですか?
- 夫
- ええ、開きますよ。ほら。外が気持ち良い季節には庭で食事したいし、庭にすぐに出られるようにしたかったんですよ。
- 野村さん
- それはびっくり。わが家にも欲しいです、コレ。
- 夫
- 家のすぐ前が桜並木なので、春には家の中でお花見ができるように、リビングの吹き抜けには、桜の木を見上げる高さに大きな窓を開けてもらったんです。
- 野村さん
- あ、空が四角く切り取られている感じ。窓枠も桟もない、スッキリくり抜かれた四角い開口部は「窓」って感じがしないですよ。
- 妻
- 桜のピンクもきれいですが、秋の紅葉もステキですよ。
- 野村さん
- 外の風景が絵画のよう。自然の景色に優るものはないから、家の中に余計なモノを置きたくなくなりますね。家に置くモノの選び方も変わってくると思う。それに、こんな窓があると一日眺めていたくなります。
- 妻
- 飽きないです。リビングの椅子に座って雲を眺めていると、あっという間に時間が過ぎていることがありますから。
- 野村さん
- 分かります。あの窓を見ていると、家の中にいるのに外にいるような感じがします。なんだか不思議。
- 夫
- 確かにガラスをたくさん使った開放的な家よりも、逆に外や自然を感じるかもしれないね。
- 野村さん
- ええ、違和感なく内と外がつながっている感じがする。すっと外の風景が目に入ってきて、視覚的な垣根がないですよね。ガラスがあるのに空気までつながっているみたい。
- 夫
- 2階にもどうぞ。リビングから見上げた桜を眺める窓は、2階からだとこんな風景になります。じゃ~ん!!
- 野村さん
- おお、スゴいですね。お向かいの神社の鳥居が正面ですよ。窓が神様の通り道にもなっちゃいましたね。
- 妻
- 私たちも家ができてからこの景色を見て、びっくりしちゃった。
再び明るいダイニングへ
- 野村さん
- ダイニングチェアに座った時の目線の高さがいいですね。コレって気持ちにも良い影響があると思うな。ところで、お二人が「窓の家」を選んだ決めてって何だったのでしょうか?
- 夫
- 家にはお仕着せの余計なモノはいらないって、以前から思っていたんですよ。家をつくりあげるのは自分たちだし。初めて「窓の家」を見た時に、そっけないくらいシンプルだけど、設計でも完成してからも、私たち家族が関わる余地がたくさんあると感じたんですね。桜の季節には友人を大勢招きたいし、みんなで桜の花を眺められるように、窓枠が目立たないフレームのような窓がほしいと思っていました。その点でも「窓の家」の窓は理想的ですね。
- 野村さん
- 窓を中心に自分の家のイメージが膨らんでいくのって最高ですよ。後から窓って追加できないですからね。実は私も窓枠が気になるタイプで、今のアトリエも目立たないように塗装したり細い鉄枠に替えたりしてます。窓枠は戸締まりとか密閉とか、機能性や目的が主張している感じがして、まず、そこに意識が行ってしまうんですよね。景色や外とのつながりを楽しむ以前に……。
- 夫
- 「窓の家」を建ててから時間の使い方も変わりましたね。時間の価値が変わった感じかな。家でやりたいことや楽しいこといっぱいあるし、テレビも観なくなったので友人に譲ってしまいました。
- 妻
- でも二人とも映画が好きなので、白い壁に投影できるプロジェクターがあるといいかも。ますます友人が集まってくるかもしれないけど。
- 野村さん
- あ、このごちそうに映画会まであると、きっと、たくさん来ちゃうんじゃないですか。
- 夫
- えーと……みなさん、そろそろお腹空いてきませんか?
- 妻
- それでは、そろそろワイン開けますね。
- 野村さん
- わー、なんだか帰りたくなくなるような雰囲気。
- 夫・妻
- お客さまはみなさん同じこと言いますよ~。
ダイアログ2
ごちそうが並ぶ食卓にて
パーティーの始まり
- 全員
- いただきまーす。かんぱーい!!
- 長男
- きゃははははは。んまんま~(嬉しそう)
- ゲスト1
- ブログ読んでますよ。
- 夫
- あ、ありがとうございます。
- ゲスト2
- ワインの色がキレイですね。
- 野村さん
- この雰囲気……いっぱい飲んじゃいそう。どうしよう。
- 夫
- 以前、飲み過ぎて子供部屋に泊まっていく友人もいましたからね。時間が許せばワインをたくさん楽しんでほしいところですが……。
- 妻
- みなさん、お腹いっぱい食べていってくださいね。
- 野村さん
- 全部、奥様がつくったんですか?
- 妻
- はい。苦手なものはないですか?
- ゲスト2
- ないでーす。全粒粉のローズマリーのフォカッチャ、新じゃがのサラダ、アスパラガス、ほうれん草のキッシュ、アジのエスカベッシュ……。
- ゲスト1
- うわぁ、コレおいしい!
- 野村さん
- ホント、とてもおいしいです。
- ゲスト2
- これは何のスープですか? カボチャ?
- 妻
- あ、これはですね、隣町の碧南市の砂地で栽培している「へきなん美人」というニンジンのスープです。ここのニンジンはとても甘くて、デザートにもいいですね。
- 野村さん
- 本当だ。甘いですね。
- 長男
- うまうまー!!!
- 妻
- みんな地元の野菜と魚なんですよ。それは一色漁港で水揚げされた三河湾のアジです。
生まれた町が一番好き
- 野村さん
- ところで、お二人はここが生まれ育った町なんですか?
- 夫
- 私はこの町(西尾市)から出たことないですね。
- 野村さん
- スゴい。よほど環境が良くて住みやすいんですね。
- 夫
- 妻の実家は岐阜の風光明媚なところで自然も豊かですが、それに比べると、ここは特に自然に恵まれているというわけでもないし、都会というわけでもなく、中途半端な町かもしれない。でも生まれたところが好きなのは、みなさん一緒だと思うんですよ。
- 野村さん
- あ、その考え方には共感できます。みんな生まれたところをいちばん好きになりたいって思うけど、ついつい知らない土地にも行ってみたいと思う。でも、実は自分が生まれた町を好きになれば、環境も良くしたいと自然に思うし、その想いが集合体となり素敵な町になる、それが理想ですよね。その点でも気に入った家に暮らす意味は大きいですよ。暮らしを楽しもうと思う気持ちが、まわりの環境を良くしていくと思いますからね。
- 夫
- ただ、そこまで地元愛があるかと言われると……。
- 妻
- 私は、夫はこの町が好きだと思う(キッパリ)。
- 野村さん
- 私もそう思う。町を出る理由がないって、西尾市を愛してるってことですよね。
- ゲスト1、2
- うんうん、間違いないですね。
- 夫
- やっぱりそうなのかなー。
- 妻
- 私はここは地元ではないけど、10年以上生活してみると、暮らしやすいし、この町がとても気に入っていますよ。今ではホントに大好きです。
- 長男
- うまうまー!!!
- 妻
- このチキンは大葉でマリネしてグリルしたものです。
- ゲスト1
- おいしいですね。
- ゲスト2
- ご主人は結婚する前からこんなにおいしい食事をごちそうになっていたんですか?
- 夫
- 昔の話はねー。結婚して13年ですから……。
- 野村さん
- へー、そうなんですか。
- 妻
- ただ、結婚してからしばらくは仕事をしていたので、家で時間をかけて料理を楽しむようになったのは、子どもが産まれて、家を建ててからですかね。
- 夫
- 当時は妻はレストランで働いていましたから。ソムリエの資格を取ったのもその頃です。
- 妻
- ええ。でも接客にはワインだけではなく、料理の知識も必要ですから、お客さまが食べる料理がどうやってつくられているのかを知りたくて、厨房にも入りました。
- 野村さん
- じゃあ、今はお家がレストランですね。
- 夫
- メニューには家庭的な料理ももちろんありますよ(笑)。親子丼がまた美味しいんです~
ダイアログ3
食事を終えて
映画の話
- 野村さん
- 先ほど2階やキッチンを拝見して、家事動線もよく考えられているなって思いました。
- 夫
- 土地の購入を決めた頃は毎日プランを考えていましたから。彼女もキッチンや家事室の動線とレイアウトはかなり考えていて、それが功を奏したのかもしれませんね。とにかく人を招いて、友人が集える家にしたいと思っていました。感覚的には注文住宅でしたね。
- 野村さん
- やっぱり、集いたい、帰りたいと感じるのが家の良さですよ。完成度の高い基本形に、建て主が自分の個性を加えられるのは良い仕組みですね。
- 妻
- 実は知人が野村さんが監督された映画「eatrip」のDVDを持っていて、みんなで観たんですよ。
- 野村さん
- あ、それは嬉しいです。ありがとうございます。
- 夫
- 映画の最初に登場する方は野村さんですか?
- 野村さん
- あ、あれはお友だちの料理人で細川亜衣さんです。私も映画の中で料理をしたいと思ってはいたのですけど。監督は常にファインダーを覗いてチェックしなければならないので、監督と料理を掛け持つのは無理という話になって……。
- 夫
- それで監督に専念したのですか。
- 野村さん
- そうですね、残念ながら……。でも、監督として、ご登場いただいた方々との信頼関係や空気感を大事にしたかったという想いもありましたから。
- 夫
- 確かに映像の質感というか空気感が独特でした。
- 野村さん
- ビデオではなくてフィルム撮影だったんですよ。本来、ドキュメンタリーはフィルムロールの時間に左右されないビデオで撮影して、後で編集するほうが多いと思うんですけどね(ちなみに16フィルムは1ロールが11分です)。
- 夫
- それで独特な画質だったんですね。逆に計算づくではないリアリティが表現できたんじゃないですか。
- 野村さん
- ええ、撮れたものが事実ですから。みなさんも構えることなく、いつも通りにしてくれたのも良かった。考えてみると、とても贅沢なことですけどね。
型だけなら長く続かない
- 妻
- そうそう、浅野忠信さんのお茶席のシーンはとても面白かったです。
- 野村さん
- 実は浅野忠信さんは茶事が初体験で、亭主の千宗屋さんとも初対面だったんですよ。撮影前に顔合わせするより、いきなり四畳半の空間で互いが向かい合うほうが、嘘がないし、隠し切れない部分も見えてくるのではないかと、確信犯的な期待もありました。何より、あの空間でどんどん二人が歩み寄る雰囲気を撮るほうが面白いんじゃないかと……。
- 夫
- そうだったんですか。
- 妻
- でも浅野さんはスゴく楽しそうでしたね。最後は胡座になったり……。
- 野村さん
- とても楽しかったと言ってました。型だけならお茶の文化は500年も続かなかったと思います。本質的に面白いと思うから、それに対してのルールがある。この家も同じだと思うのですが、本質的に「良い」と思うから、それに対して自分らしさを足し引きして、それが自分のものになって楽しい。それと同じですね。全部決められて、それに自分を当てはめようとすると、自分のものにならないのでお稽古も続かなくなります。
- 夫
- その楽しさが僕たちにも伝わってきましたよ。
- 野村さん
- お茶をよく知る人が観ると物足りないかもしれないけど、私は、お茶を一服飲むのに、感謝したり、相手の気持ちを受け止めたり「こんなに楽しむことができるんだ」という面を多くの方々に感じてほしかったんですよ。とても素敵なことですからね。
- 夫
- うんうん、いやホントに素敵な映画でした。
- 野村さん
- ありがとうございます。この家は芝生の庭があるから野点もできますね。ポットを持って庭に出て、好きなお茶碗で、最高じゃないかな。
- 夫
- 実は西尾市はお茶の産地としても有名なんです。
- 妻
- 抹茶は宇治が有名ですが、生産量は西尾のほうが多いはずですよ(西尾の抹茶は全国生産量の約30%を占め、全国一だそうです)。
- 野村さん
- 確かに愛知はお茶の文化が根付いてますよね。名古屋には良い道具を扱うお店も多いと聞いてます。
- 夫
- そうなんですか。ちょっと興味あるなぁ。
- 野村さん
- おもてなしが好きで、自分の家の空間が大好きなKさんなら、きっと楽しいと思いますよ。友人が集まって食事をした後に、場所を変えてお茶席を設けると、宴席が締まります。でもね、ハマったら大変ですよ。
- 夫
- ちょっと空が暗くなってきましたね。雨が降るのかな。照明をあまり使わないので、暗くてごめんなさい。
- 野村さん
- いや、この自然な暗さもとても気持ちが良いです。
- 妻
- 私も暗くなったから照明を点けるのではなくて、自然な暗さはそのまま楽しみたいと思う。夜は暗いものだし、雨の日も暗いものですから。だから、子どもも日が暮れると自然に寝てくれます。
- 夫
- 僕たちは極端な自然派にはなれないと思うけど、子どもには日が暮れるまでは外で遊んで、夜は自然に眠るように育てたいと思っているんです。自分たちが昔、祖父母や父母に言われていたことが、今になって理解できるようになってきた感じかな。
- 野村さん
- それは大事ですよね。朝は朝日を浴びて、夜は眠る。
- 夫
- 自然に逆らわずに、よく食べて暮らすと風邪は引かないって言われますけど、それをホントに実感しています。子どもは親に似て好き嫌いがなくて、食べるのが大好きで、風邪も引かないです。
- ゲスト1、2
- あのー、私たちはそろそろ失礼します。ごちそうさまでした。
- 野村さん
- 名残惜しいのですが、私もそろそろ失礼しなければいけない時間になってしまいました。今日は本当にごちそうさまでした。とても楽しかったです。
- ゲスト1、2
- 楽しかったです!!
- 夫・妻
- こちらこそ。ありがとうございました。
エピローグ(編集後記)
惹き付ける家
「家に会いに。」は企画から完成まで、ロケハン → 同行いただくクリエイターの方のブッキング → 取材前の下打合せ・取材日の調整 → 取材 → 原稿チェック → 完成・配布、と息の長い進行になっています。
今号の訪問先である愛知県のKさんに初めてお伺いしたのも、まだ肌寒い2月の頃でした。
最寄駅のロータリーにきれいなグリーンのステーションワゴンでお迎えに来ていただいたKさんはとても気さくなご夫婦で、車中で「窓の家」での暮らしについてお伺いすると、本当に毎日の生活を楽しく、そして満喫されている様子でした。
途中、Kさんお気に入りの素敵な雰囲気のパン屋さんでお買いもの。Kさんお勧めのおいしいお惣菜パンをごちそうになったころには、すっかりKさんのお人柄に引き込まれていたように思います。
ご自宅に到着して、まず建物を一回り拝見させていただいて気づいたのは、キッチンとダイニングを暮らしの中心「へそ」に据えた間取りになっているということ。
窓の家の特徴であるピクチャーウィンドウから見える素敵な景色と相まって、一目でここでの豊かな暮らしを想像することができます。
Kさんの家に会いに行っていただいた野村友里さんは、食を中心とした様々なプロジェクトに携わるスペシャリスト。今回の訪問でもご自身がメガホンを取った映画の話、食に関する考え方など話題は尽きず、ご用意いただいたお食事とワインをおいしくいただきながら、時が経つのを忘れて話し込んでしまったのはダイアログ3の通りです。
花や緑を愛でながら四季の移ろいを感じ、食を通じて人が集まり、輪が広がるKさんの「窓の家」。
もちろんその背景にご家族のお人柄や暮らしぶりがあるからこそ、さまざまな人がこの家に惹き付けられているのではないかと思います。人が集まって活気がある家は本当に素敵ですね。
それにしても、本当に当日東京に戻る必要がなかったら、それこそ私、あまりにも楽しくてエンドレスでしゃべり続けていたかもしれません。Kさん、この続きはまた別の機会に……(笑)
(E.K)
「無印良品の家」に寄せて | フードディレクター 野村友里さん
気づきのある暮らし。
そもそも家の定義とは、自然の中に壁や屋根を用いて場を囲う事で、外敵から身を守り、安心して、眠り、集う場所、というものである。
同じ屋根の下で寝食を共にする事により、絆を固め、生涯の大半を過ごすのが家というもの。
たとえ都会にあったとしても、出来る限り、自然を感じながら、自然の中で暮らしていると意識したいものである。
空の表情、木々の変化、時間を追うごとに変わる光の流れ。?窓からの景色は、そこに暮らす人々に人間らしさを毎日そっと気づかせてくれるだろう。
今回訪問させていただいたKさんの家の中を流れる空気は、開放的だった。
リビングに置かれたソファーに腰をかける。少し上に目線を上げると、高い吹き抜けの白壁に切り抜かれた、美しい四角形の大きな窓枠が視界に飛びこんできた。ゆっくりと雲が流れていく。少しだけ開かれた窓からは、外の喧噪と一緒に家の中へ風が吹き込まれてくる。
「静止することのない、命ある完璧な絵画」そう私には思えた。
ご主人は言う
「毎日、何かが変化する」
大きな窓から見える景色に勝るものはなく、テレビを観る事はもちろん置く事さえもやめ、星空には明るすぎる照明も外してしまった、という。
心よりのおもてなしで迎え入れてくださった、Kさんご夫婦。
たくさんのご馳走がテーブルに並び、窓からサンサンと入る太陽の光に料理もグラスも気持ちよさそうに光っている。
オープンキッチンに立ち、料理をする奥様の背景は、壁一面の窓越しに見える緑の庭と木々。
“キッチンが毎日の舞台”と言いたくなる程に、活き活きと楽しげに料理をする、奥様。
私は、いつの間にか時間を忘れ、ゆっくりと流れる景色を楽しんでいる。
壁に収まった奥様特注のワインセラーから、選りすぐりのワインが取りだされる。
参った。
ここはもう、ご夫妻のおもてなしに
甘えてしまおうではないか。
お子さんを交え、さらに夫婦の絆と笑いは増える。
人との交わりを大切に、自然を感じながら楽しんでいる暮らしぶりはとても豊かで、人間らしい。
家の作りはシンプルに。
そこでの過ごし方、暮し方は、味わい深く濃く楽しむ。
帰り際に「よかったら泊まっていってください。」
とおっしゃってくださった。
帰りたくなるような家。
そこに暮す人によって、住まいは、ますます生きてくる。
神社の前に、白く浮かび上がり凛と佇むその家で、今日もきっと同じ空の下、Kさん一家は楽しく暮らしているに違いない。[2012.9]