Archive.4 大きな器の家
「無印良品の家」で暮らしている方を訪ねて岡山県倉敷へ。
プロダクトデザイナーの柴田文江さんが、Kさん家族と長老ウサギの麦が暮らす
賑やかで明るい「朝の家」に会いに行きました。

家に会いに | 2022.2.10

こちらは、2010年10月公開されたものを再編集しています
※「朝の家」は現在販売を終了しております

プロローグ

軽やかに暮らす

モノや家に縛られずに、心のままに自分の居場所を決める。何処かへ行きたければ明日にでも行く、そんな軽やかな生き方は出来ないだろうか? 遊牧民のような、ひとところに留まらない身軽さは、都会で暮らす私には羨ましくても叶わない究極の理想だけれど、そんな自由を持って暮らせたら幸せだと思う。
身軽に生きるための一番現実的な方法は、自分の基準で選んだ住まいを手に入れることだろう。 誰かの価値観ではなく、何ものにも規定されない、自分にちょうどいい暮らしだ。それはジャストサイズの洋服のように、重みを感じることなく活動的に動ける自在さがある。遊牧民の身軽さとは違うけれど、それもまた幸せに近いと思う。
暮らしの主役はいつも自分だから、モノも家も自分の生き方にずっとついて来られるモノがいい。そのために、今この時の自分が良いと思うものを選ぶのが、何より確実だと信じている。何年経っても自分は自分だから。

柴田文江|しばたふみえ
プロダクトデザイナー。 Design Studio S代表
エレクトロニクス商品から日用雑貨、医療機器、ホテルのトータルディレクションまで、インダストリアルデザインを軸に幅広い領域で活動をしている。
グッドデザイン金賞、ドイツIFデザイン最高位金賞、ドイツred dot design award 賞など、国内外の賞を多数受賞。

ダイアログ1

だから、ここに建てました

「朝の家」
K邸|岡山県、2009年12月竣工
延べ床面積: 103.51m?(31.31坪)
家族構成: 夫婦・息子

柴田文江さんが会いにいった家

河口に近い高梁川の穏やかな流れを越えて新倉敷駅に近い静かな住宅街にK邸は建てられました。敷地はご主人が少年時代を過ごした実家の隣。向いの芝生の公園は親子二代の遊ぶ場になりました。南側に面して六つの窓が整列する真っ白なファサード。
2歳の長男が元気に走り回る1階の一室空間はKさん夫婦の理想の間取りを体現したもの。整理整頓の行き届いた白い塗り壁のインテリアに、緑に塗られたキッチンの壁が爽やかに映えます。掃出し窓にしなかったのは、窓際に緑を飾るため。白と緑のコントラストが印象的なK邸です。

「こんにちは。あ!ウサギ…」
「どうぞ。今、お昼寝中なんです」

柴田さん
無印良品が家を建てると言われると、「どうしてこんなになっちゃうんだ」とはならない安心感はあるじゃないですか。本当は小さなパーツまでチェックしたいけど、なかなか目が届かないですよね。
そのへんを任せて大丈夫かなという信頼感はあるかもしれません。

とにかく「朝の家」のプランに共感して

柴田さん
「朝の家」のプランが気に入った理由は何だったのでしょう。
とにかくシンプルな家を探してたんですよ。 安く建てるためにシンプルにするのではなくて、研ぎ澄ませて、突き詰めてシンプルになった家がいいなと思っていた。でもないんですよね。私たちは家中ばーんと見渡せるような「一つの箱」のような家が希望だった。
それで無印良品の家に出合って……。
柴田さん
無印良品であるということは重要でしたか?
無印良品は昔から大好きで、家具も買っていたのでそうかもしれない。 とにかくこういう家、ほかにないんですよね、探しても。
無印良品のセンスへの安心感みたいなものはあったかも。

柴田さん
私、実は28歳の時に建売住宅を買ったことがあるんですよ。 建売住宅って余計なところに意匠があったり、逆に肝心なところは無頓着で、「家って自分のいつものライフスタイルで買い物はできないんだ」って暗い気分になったことがあった。その時の自分の気持ちを想像すると、「安心感」ってしっくりきます。
とにかく「朝の家」が発売されてカタログを読んで、プランが気に入って「窓の家」に当てはめようと思ったけど難しかったので、じゃあ「朝」にします……と。
そうそう、「窓の家」で設計を進めてもらっていたんですが、「朝の家」のプランを見て「コレだ!」と思った。
細かい部分は気にしていなかったかもしれません。 カタログで決めたので現物の「朝の家」も見ていないし。
柴田さん
えええええ、そ、それはスゴイ決断力ですね。

洋服を選ぶように家を選ぶ自由

柴田さん
私、建売住宅を買った時も図面段階で契約したので、担当者にいろいろお願いしたんだけど、ちゃんと伝わらないのね。
私たちも無印良品の家にお願いする前は、いくつかの工務店でプランを作ってもらったのですが、なかなか希望通りのものに出会えなかった。 選択肢を示されても選ぶものがなくて妥協になってしまう。
工務店が推奨する仕様があるんですよ。それと私たちの希望が合致しなくて、結局工務店に押し切られる雰囲気が……。
柴田さん
例えばどんなこと?
ナチュラルな感じで、開口部や扉がアーチ形になっていたり。
柴田さん
うへ~。 私の中の28歳の私は今の話にスゴく共感できた! そんな感じでしたよ私も。 なんで住宅ってこんななの? って思いましたもん。 気がつくとプロバンス風にされていたりして(涙)
夫・妻
……。

柴田さん
普通の人なら「しょうがないかな」ってなりますよね。
正直、なりかけた。
でも家に妥協はできないですよ。
柴田さん
家も洋服を選ぶように自分の趣味で建てたいと思いませんでした?
ああ、それは考えましたね。
柴田さん
世の中には、どこかで「家っていうのはこうあるべき」みたいな考え方があって。 洋服や雑貨みたいに選んじゃいけないような変なシバリがあるでしょ? そういうのはなかった?
この家を建てるとこう住まなきゃいけないとか、こういう生き方をしなきゃいけない、みたいにこちらのライフスタイルを規定する家って結構あるんですよ。 でも無印良品の家にはそれがなかった。器が大きい。 途中で変えられるし、コレでいいという身の丈の暮らしが実現できるイメージです
柴田さん
なるほどね。 昔は「マタニティドレスにはフリルを」みたいな固定概念があって、多くの女性は妊婦になるとそんなムードになったんですよ。そうしなきゃいけないみたいな。 選択肢がなかったんですね。でもよくよく考えたら花嫁になっても妊婦になっても自分は自分だから、自分のセンスで選べばいい。 あなたの本当のスタイルってこうですよね、と商品で提案されると、モヤモヤが吹き飛ぶように納得できる。 この家もそんな感じなのかな。

ダイアログ2

器の大きさを感じる家

無印良品で暮らすか。無印良品を背景として暮らすか。

柴田さん
どちらかというと奥様がいろいろ注文を出したお家ですか?
キッチンはそうですね。壁の色や窓の位置など……。
家具や雑貨は一緒に選ぶことが多いけど、最終決定は妻かも。
柴田さん
そうなんだ。奥様が選んでいるキッチンツールはわりと有機的なものが多くて、「無印良品の家」とのコントラストが面白いなと思って見ていたんですよ。10年くらい経ったら置かれる小物なんかで雰囲気が変わるかもしれませんね。
確かにそうですね。
柴田さん
「無印良品の家」はある程度センスが固定されていて安心感があるから、この家で無印良品の製品をそのまま使って暮らすことが楽しいMUJIファンがいる反面、住宅は無印良品だけど暮らしのシーンではもっと色々なデザインのものも使って揃え、「無印良品の家」を暮らしのバックグラウンドとして魅力を感じている方もいると思うんですよ。二人ともまだお若いから今はこういう形だけれど、年齢を重ねて趣味が変わっても、それに「無印良品の家」は対応していけるみたいな、器の大きさは確かに感じられますね。 えーと……2階も拝見していいですか?

半径1メートル以内の気持ちよさ

妻・夫
どうぞ。
柴田さん
うわ、広いですね。子供が遊び放題。これはぼくちゃんの遊び場?
長男(2歳)
こんにちは!! 今日はありがとうございますっ!!
柴田さん
……。
長男(2歳)
ありがとうございます!!
柴田さん
スゴい。よく言えましたね~。ぼくちゃんが高校生くらいになったら「ここに扉を付けて」とか言わないかな?
家ってこういうものなんだと思って育つかもしれないし、友だちの家に遊びに行って、よその家の影響を受けて「付けたい」と言うかもしれない。この部屋ももう一人産まれれば仕切ろうかなと思っているのですが、このままでも良いかなと思ってます。
柴田さん
一応、真ん中を仕切ると2部屋にもなるんですね。子供部屋ならこれで十分かな。奥様も日中はここにいることが多いのかしら。
そうですね。ここで子供をお昼寝させることもあります。
柴田さん
寝室のドアハンドルは無印良品のオリジナル?
そうですね。ペーパーホルダーやタオルバーとかも……。
柴田さん
あ、さっき見ましたよ。あれは無印良品だろうなって思った。
前に住んでいたアパートは個室のドアハンドルが金色のゴージャスなタイプで……。
柴田さん
わかります。私も最初に家を買ったときにドアノブがデコラティブな銅製で付け替えてもらいましたから。建物って都市とか敷地形状とか大枠から考えがちなので、結果的にインテリアの半径1メートル以内まで気持ちが行き届いていないと思うことが時々あるんですよ。大枠では良くできていても、私は幅木とかドアノブとか、そういう1メートル以内のところが気になる。「無印良品の家」はそのへんが納得できる仕様になっていると思う。細部に気の抜けたものがないですよね。

ダイアログ3

これまでの住まい、これからの暮らし

以前の住まいと比較して

柴田さん
人が暮らしている家ならどこかにホコリがあるだろうと思ったけれど、キレイに掃除されていてホコリがぜんぜんないですね。
目立たないのかもしれないですね。遊びに来た友人はフローリングは無垢材を使っていると思ったみたいです。あまりピカピカしすぎていないので。
気密性が高いので外から入ってくるホコリも少ないそうです。
柴田さん
なるほど。以前のお住まいはアパートですか?
夫・妻
そうです。
柴田さん
やっぱりアパートで暮らすのとは全然違いますよね。
2階だったのでとにかく静かにしないといけないって思って。静かに静かに暮らしてました。
長男(2歳)
だだだだだだだだ……はぁはぁ。ばらばらばら~(おもちゃを落とす音)
柴田さん
あ~、確かにアパートでは無理かも。
あとは自分のモノではないから傷つけてはいけないと、あまり物を置けなかったり。
本当に物は少なかったですね。将来は引っ越しがあるとはわかっていたので。物は増やさないようにしてました。家具もなるべく買わないように、とか。
柴田さん
この家で冬を過ごしたんですよね。
はい。ここはエアコンがないんですよ。でも平気でした。以前のアパートよりずっと温かいです。隙間風がないのと窓のそばにいても寒くないです。

缶コーヒーは甘くなくてもいい

柴田さん
向かいの公園がお庭みたいで良いですね。
ぼくも小さい頃、あの公園で遊んでました。隣が実家なので。まわりも知っている方ばかりです。
柴田さん
ご主人が育った家はどういう家だったんですか?
昔ながらと言うか、部屋が壁と襖で仕切られている木造の家です。自分の部屋は2階の6畳間で、今思うと足音も部屋で聴いている音楽も下に筒抜けでしたね。1階は障子の和室と仏間があって。典型的な昔の一軒家でした。
柴田さん
「朝の家」を建ててご両親は何かおっしゃってました? ご年配の方は普通は部屋はいくつあるんだ? とか気にしそうですが……。
何も言いませんでしたね。好きなように造ればいいと。完成してからも褒めてくれました。広いね、とか明るいね、と。ここをこうしたほうが良いという話は一切なかったです。
柴田さん
それは理解のあるご両親ですね。ある年齢層以上なら「日本人が家を建てるならこういう家」ってイメージがあるじゃないですか。
これは例え話ですが、昔は缶コーヒーはすごく甘かったの。無糖なんてなかったから。製造者側も「お客様がお金を払うんだから味がついていないと」という時代があったんですよ。自分で淹れたコーヒーはブラックで飲むのになぜか缶コーヒーは甘かった。だけどある時、ブラックの缶コーヒーが発売されて、缶コーヒーは甘くなくていいんだと誰もが納得できた。
あなたの生活って本当はこうですよねと製品の形で提案してくれると、どこか納得がいかなくて悶々としていた想いが、霧が晴れたかのようにスッキリする。ご主人にとっては「無印良品の家」もそういう製品の一つなのかなと思いました。
ただ、気にはなっていたようですね。建てている間はよく現場を覗いていたようですけれど。
柴田さん
何より息子が隣に住んでくれたら嬉しいよね。
まあ、そうですね。

エピローグ(編集後記)

くらしそのものを提案した家

「家に会いに。」も4号目となりました。
これまでは、「木の家」と「窓の家」に住んでいる方々に会いに行きましたので、今回はぜひ「朝の家」を選んでいただいたご家族に会いに行きたいと考えていました。
「朝の家」は、住まう人のくらし方そのものを丁寧に考え、家づくりに反映させています。この家でどのようなかたちの暮らしが営まれているのか、ぜひ皆さんにもお伝えしたいと思い、一路岡山県倉敷市にお住まいのKさんの「朝の家」に向かいました。

落ち着いた住宅地の中の「朝の家」は、家らしい普遍的なデザインでありながら、整然とした佇まいがかえって個性を放っていて、シンプルでクリーンなイメージでまとめられたインテリアもKさんのセンスを感じます。

お子さんと愛兎が広い空間でのびのびと遊ぶ、キッチンを中心に家族が集まりそしてくつろぐ……。
一見、何でもないことのように見えるこの穏やかな日常が、とても気持ち良く感じられるのは、ハードウェアとしての性能の高さや、隅々まで配慮の行きとどいたディティールによるものだけでなく、「朝の家」で提案している暮らし方が、なによりKさんの毎日の生活にぴったりとフィットしているからなのでしょう。

今回、プロダクトデザイナーの柴田さんには、住まい選びに対する考えやご自身の経験を交えながら、無印良品で家を建てるということについてお話しいただきました。
常にデザインに向き合っていらっしゃる柴田さんならではの視点で語られる住宅観はとても印象的でした。

「無印良品の家」は暮らしの器です。
ですから「家に会いに。」では家そのものを見ていただくのでなく、ぜひ生活する方々の豊かな暮らしぶりを感じていただきたいですね。

次回も「無印良品の家」から生まれる素敵な暮らしのかたちをご紹介したいと思っています。ぜひご期待ください。
(E.K)

「無印良品の家」に寄せて | プロダクトデザイナー 柴田文江さん

暮らしの背景となる家

自分にとっての心地よさを探してゆく中で、この「朝の家」と巡り会われたという若いご夫婦は、親戚か友人を招き入れるようにさらりと出迎えてくださいました。玄関先でなんとなく挨拶を交わしながら、なんとなく家の中に入れていただいた感じが、都会でよそのお宅にお邪魔する時とは様子が違ってあまりにもフランクなもので、すぐに和やかな雰囲気になることができました。

お二人に家を建てるときのエピソードなどを伺ってみると、住まいに対する強いこだわりとゆるぎない基準をお持ちだということがすぐにわかり、最初に受けたやわらかな印象とのギャップは何なのかという興味がわきましたが、彼らにとっては自然であたりまえのことであり、肌に触れるタオルや洋服を選ぶように家づくりを捉えているようでした。こだわりが強いと言っても、決してデザインが立ち過ぎているのではなく、ナチュラルで優しい印象のモノに囲まれた空間で、奥さまの手作りクッキーの香りがほんのり漂っていました。初めて訪れる場所にも関わらず、私はすっかりリラックスした時間を過ごさせていただきました。

そのやわらかな空気感を醸し出すこの家からは、細部にいたる処理や工夫を色んなところで発見することができました。デザイン表現としては非常にシンプルで、置いてあるもののテイストを選ばない懐の深さがあります。無駄なラインを消しさり、要素を整理することにデザインを機能させているものでした。それは作り手としては神経をすり減らしながら、要件と格闘して勝ち得るものですが、その結果として出来上がった空間にはゆったりとしたやわらかな時間が流れているのです。このコントラストは家に限らずいろんなデザインのシーンで見ることができます。デザインがつくる見えない価値とはそんなことなのかもしれません。

暮らし方は人それぞれ違いますが、みな自分らしい暮らしを理想としています。そのための器である家にとってのデザインとは、それぞれのこだわりを受け止められることが求められるのではないでしょうか。出来上がったスタイルに自分を合わせるではなく、暮らしの背景となりうるシンプリシティー、MUJIの家にはそんな自由のための、心配りを見ることができました。[2011.1]