vol.3 季節を眺める家
「無印良品の家」で暮らす人を訪ねる長野への小旅行。
フードジャーナリスト、エッセイストの平松洋子さんが
イタリア料理店「トラットリア パパオルソ」シェフKさんの
「窓の家」に会いに行きました。

施工例 | 2010.8.3

ダイアログ3

記憶の中の風景と『窓の家』

家の裏手には小さな菜園もあります

平松さん
家の裏には小さな畑があるんですね。
Kさん
少しでも自分が育てた野菜をお店で出したいなと思っていたので。ここに植えたのはハーブと葉野菜、あとはトマトですね。
平松さん
畑の土はどうされたんですか。
Kさん
ここは山を切り開いた土地なので粘土質で畑には適さないので、穴を掘って客土しました。
平松さん
畑のまわりに白い玉砂利を敷き詰めているのは雑草が生えないように?
Kさん
ええ。あと雨が降ると粘土が靴に着くので歩きやすいように。
平松さん
それはひとつのアイデアですね。
Kさん
白い石なら見た目もキレイですから。

思い出のトスカーナ

平松さん
ところで、Kさんが料理人になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
Kさん
子どもの頃から職人に憧れていたんですよ。父は建築設計事務所を主宰していたので、小さい頃から現場に行って大工さんの仕事を見ていました。自分の手を使う仕事に就きたくて、それで調理師学校に行きたいと親に話したら、それより大学へ進め……と。
大学を卒業すると料理人の修行を始めるには遅すぎで、普通の企業に就職したんですが会社勤めはつまらなくて。もともとイタリアが大好きだったので30歳の頃にイタリア料理店に通いつめていて、そこの店主と気が合って「やる気があるなら今からでも遅くない」と。それで仕事を辞めて30歳から料理人の道へ。
平松さん
料理人を諦めて過ごした10年間があったから、逆に、本当にやりたい仕事に就きたいという想いが募っていたんでしょうね。
Kさん
サラリーマンを経験しましたからね。なおさら……。
平松さん
父上が建築家で、子どもの頃はどんな家で育ったんですか。その頃から窓への思い入れがあったんでしょうか。
Kさん
それはなかったですね。ただ今思うと設計事務所兼住居はモダンな造りでした。建築の道に進もうとは思っていなかったけれど、安藤忠雄さんが大好きでよく講演会に出かけました。イタリアが好きになったのは安藤さんの本の影響もあって、イタリア料理始めたら仕事でイタリアに行けるなって思ったり(笑)。父も80年代に建築見学のために世界中訪ね歩いていて、私は同行はしませんでしたが、旅先の写真を見るのは楽しみでした。
平松さんもお仕事で世界中旅してますよね。ヨーロッパはどこがお好きですか。
平松さん
どこも好きですが、ギリシャの丘の風景は他にはない魅力がありましたね。オリーブオイル協会の招きで訪れたイタリアのトスカーナも思い出深いです。2階の大きな窓から見えた水田の後ろの坂道の農道。さっき農夫の方が一人で坂を上っている様子を見て、トスカーナの風景を思い出しましたよ。
Kさん
私がトスカーナを訪れたのは1回だけですが、町の名前は忘れてしまったけど、小さな町でレストランガイドの星を獲得したお店がありました。そのお店の白い壁に小さな窓が開けられていて、私が座った席からは丘の上の小屋が見えたんですよ。美しい風景を四角く切り抜くように窓があった。「窓の家」を建てようと思った時、私の記憶は一足飛びに、あのトスカーナの小さな窓から眺めた春の日に遡って「そうそう! あの時のあの感じ」と……。