vol.3 季節を眺める家
「無印良品の家」で暮らす人を訪ねる長野への小旅行。
フードジャーナリスト、エッセイストの平松洋子さんが
イタリア料理店「トラットリア パパオルソ」シェフKさんの
「窓の家」に会いに行きました。

施工例 | 2010.7.9

ダイアログ1

だから、ここに建てました

「窓の家」
K邸|長野県、2008年11月竣工
建築面積: 49.00m?(14.82坪)
延べ床面積: 96.20m?(29.10坪)
家族構成: ご主人

平松洋子さんが会いにいった家

長野県上田市の千曲川と森に挟まれた小高い造成地で、緑豊かな木立と水田が広がる景色に出合ったKさんは、「ここに理想の家を建てよう」と決心しました。この美しい風景を一枚の絵のように四角く切り取って、2階のキッチンから刻々と変化する光景を眺めていたい。ゲストを自分の料理とワインでおもてなしすることが大好きなKさんにとって、キッチンは特別な場所なのです。
何もない敷地に立ち、どこにどんな窓を開けるかを考えることからKさんの家づくりはスタートしました。季節と日の移ろいをキッチンから楽しむ窓のほかにも、空を見る窓、浅間山の稜線を眺める窓、夜の街の灯を映す窓……と、どの窓にもKさんの美意識が息づいています。

「ようこそいらっしゃいました」
「こんにちは。おじゃまします」

平松さん
芝生の庭に一本だけ植えられたシュガーメイプルの樹。その葉の柔らかな緑が、深緑の信州の森を背景にくっきりと浮かび上がります。住まいは完成から約1年半が過ぎたところ。建て主のKさんは、この家づくりで何を実現させようとしたのでしょう。

キッチンから景色を眺めながら

平松さん
キッチンから眺める風景の遠近感がいいですね。いちばん手前に庭のメイプルがあって、その向こうに水田が広がり、斜めに横切る坂道の背後には緑濃い木立がある。本当に贅沢ですね。
Kさん
田植えが終わり早苗が育ってくると水田は緑の絨毯のようですよ。
平松さん
それが秋になると稲穂が金色になるんですね。
Kさん
ええ。メイプルも紅葉しますしね。秋もキレイですよ。
平松さん
この家を建ててから、お家にいる時間が増えました?
Kさん
私は料理人なので休日は研究のために食べ歩くことが多かったのですが、今はできるだけここにいたいと思うようになりました。ここで自分で料理をつくっているほうが楽しいですから。
平松さん
ご自分の生活スタイルのリズムも……。
Kさん
変わりました。今は家中心の生活です。とにかくこの景色を楽しみながら料理ができるのは最高ですよ。
平松さん
この眺め、夜はどんな感じなんですか?
Kさん
真っ暗になりますよ。
夜はキッチンの足元に配した間接照明だけ点けて、天井の灯りを小さくして夜空の星を眺めるのもいい。もし「窓の家」がなかったら、私は家は建てていなかったでしょうね。この家と出合えて本当に良かったです。

10センチの余裕が生む豊かさ

平松さん
キッチンはとても動きやすそう。
Kさん
「窓の家」に決めたもう一つの理由はこのキッチンでした。
料理をしている時はキッチンカウンター後ろの引き戸を開けると食器や器具に手がすぐに届き、片付け終わって閉めると真っ白な壁になる。よく考えられているなという印象です。
平松さん
引き戸を開けた時、目の前にいきなり棚が現れるのではなく、戸と棚の間に足を半歩踏み込めるくらいの余裕がありますよね。
Kさん
この余白があるかないかで雰囲気は大きく変わるでしょうね。
平松さん
たった半歩ですがぜんぜん違うでしょうね。日本の住宅は居住空間をできるだけ広く取ろうとして、キッチンや洗面室などの空間は狭くてもガマンする傾向にあると思うんです。でもそうした場所が狭苦しいと、居間は広いのにゆったりした気持ちになれないですよね。この収納の余裕、わずか10センチほどですが、これがあるかないかは大きな違いになると思いますよ。
Kさん
「窓の家」のモデルハウスのキッチンに立った第一印象は「カッコいいな」という感じでしたが、でも、使い勝手が良さそうな感覚は確かにありましたね。

平松さん
そういう感覚って日々のお仕事の中で体に染み込んでいるんでしょうね。収納の棚の奥行が小さめなのも良いと思います。奥まで簡単に手が届くし後ろにしまったものも取り出しやすいですから。頭で寸法を考えるのではなく、感覚的によく分かっている方が設計しているんだろうなと思いました。
ダイニングの椅子に座ってみてもいいですか。
Kさん
もちろんです。どうぞ、どうぞ。
平松さん
わあ!椅子に座ると窓から見える景色が変わるんですね。
雲が少し出てきましたが、雨が降る風景も良さそうですね。
Kさん
いいですよ。雪が降る空もキレイです。
雲で空の表情もどんどん変わりますから、空を眺めているだけで飽きないですよ。
平松さん
いつまででもいられる場所があることは大事だと思います。本を読んでいなくても、音楽がなくても、何もなくてもただそこにいるだけで自分が充足できる場所。そういう場所が家の中にあることって大切ですよね。私にとってもそれはわが家の窓のそばなんですよね。やっぱり。
Kさん
あ、そんな話をしていたらホントに雨が降ってきましたね。
平松さん
雨の景色も見てみたいって言ったからかしら(笑)。