廃校の可能性を広げる「シラハマ校舎」とインフラゼロハウスがともにつくる、より安全な場所

ゼロ・プロジェクト | 2024.6.17

2024年4月に発表された、MUJI HOUSEの新プロジェクト「インフラゼロハウス」。その名のとおり既存のインフラに頼らず電気を自給し、水を循環させ、車で移動できる未来の家です。現在インフラゼロハウスは、試泊者を募集して実証実験を行っています。

今回のコラムにご登場いただくのは、インフラゼロハウスが設置されている「シラハマ校舎」を手掛ける、合同会社WOULD代表の多田朋和さん。「シラハマ校舎」の使い方や、なぜこの場所だったのか、インフラゼロハウスについて思うことなどを、MUJI HOUSE商品開発責任者の川内が伺いました。

多田 朋和(写真右)
合同会社WOULD代表
川内 浩司(写真左)
株式会社MUJI HOUSE 商品開発責任者

廃校の校舎をセルフでフルリノベーション

川内:インフラゼロハウスの実証実験や試泊を行うにあたり、場所をお借りしているシラハマ校舎の責任者、かつ色々と面倒を見ていただいている多田さんに来ていただきました。ここはすごく素敵な場所ですね、今日はご案内いただけますか。

多田:はい、ご案内します。

川内:シラハマ校舎は元々は廃校だったんですよね。

多田:そうですね、旧長尾小学校、旧長尾幼稚園という建物の廃校を活用しています。無印良品の小屋と、シラハマ校舎の廃校活用の校舎を使った2つの事業計画案が南房総市から採択されまして、事業展開しています。

川内:当初から無印良品と共同で運営していくという話だったと。僕と多田さんはけっこうお付き合いは長いんですが、シラハマ校舎も全部ご自身でリノベーションされるんですよね。

多田:お金がないので自分でやるしか選択肢がなかったのですが(笑)、校舎全体をセルフリノベーションしています。

川内:校庭に無印良品の小屋が18棟建てられていますが、これはどういった使われ方をされているんですか?

多田:この小屋は別荘のような使い方ですね。1区画ごとに販売して、個人の方、もしくは企業の保養所として購入して使っていただいています。

川内:なるほど。で、セルフリノベーションされた校舎側はどういう風に使われているんですか?

多田:校舎側では3事業行っています。ひとつはオフィスで、不動産として賃貸で貸し出し。あとは飲食(レストラン)と宿泊施設を併設しながら運営しています。

川内:このドアおしゃれですよね。シラハマ校舎のロゴも多田さんが作られたんですか?

多田:ドアは木工家さんに頼んで作ってもらいました。ロゴデザインは私が作ったものですね。

川内:シラハマ校舎にはシェアハウス、ゲストルーム、シェアキッチンルームがあると。で、レストラン『Bar Del Mar(バルデルマル)』。ロゴには伊勢海老が描かれていますね。

多田:伊勢海老は白浜の名物として知られているんですよ。

川内:この辺りで獲れるんですね。ではまずレストランをご案内いただけますか。

多田:ここは元々、幼稚園のお遊戯室だった場所になります。それをレストランとシェアキッチンスペースを混在させた形で運営しています。奥にある小上がりスペースが元々ステージだった場所で、左奥に今厨房として改修している場所があるのですが、そこは教員室だったそうです。

川内:この空間を作るにあたって苦労したことは何かありましたか?

多田:苦労というか色々とアイデアを出したところで言うと、シェアキッチンの調理台ですかね。元々家庭科室で使っていた台を持ってきて、IHコンロを組み込んでいます。ガスコンロだとダクトを設置しなければならないのですが、IHコンロだと必要ないのでコストを抑えられました。
あとはレストランのテーブルは図工室の机だったり、棚は理科室のものをそのまま使っています。自分で用意したものは椅子だけで、元々あるものを使えるように考えました。

川内:そのおかげか、懐かしい雰囲気が残っていますよね。しかもグッドデザイン賞も受賞されているじゃないですか!

多田:シラハマ校舎はコミュニティ部門で2017年に受賞することができました。実は同年に無印良品の小屋もベスト100に入っています。だからこの敷地内で、シラハマ校舎側はコミュニティ部門、無印良品の小屋はプロダクト部門を受賞しているんですよ。ひとつの敷地内に二つのグッドデザイン賞があるという、かなり珍しい場所なんです。

川内:すごくいい組み合わせかもしれないですね。

川内:そして、このカウンターが多田さんのお手製と。フレームのような装飾になっていますが、これもご自身でつけられたんですか?

多田:はい。こういうパーツが売られているので、ベニヤ板にペタペタと貼り付けて。天面は安いタイルを買ってきて、全部自分で貼りました。

多田:そして、こちらが貸し会議室です。幼稚園の教室だった場所に、図工室にあった机を置いています。
一部屋で大体70平米くらいなのですが、オフィスとしてはけっこう広めですね。後ほどご案内するオフィスはこの空間に間仕切り壁を作って2部屋にしているので、34平米くらいの大きさになります。

川内:じゃあ元々は70平米の大きさの部屋が5室だったんですね。そしてこの建物は太陽光電池も置かれていますよね。

多田:はい。屋根の上に太陽光パネルと、蓄電池も設置しています。レストランやシェアオフィスがある本校舎側は、電気が自給自足のほぼオフグリッドになっています。

川内:じゃあ今ついているこの部屋の照明も、太陽光でまかなった電気を使用しているんですね。

多田:今は太陽の光がかなり強いので、余剰分を放出しているくらいです。次は旧小学校側にご案内しますね。

シェアオフィスで過ごす人々のクリエイティビティ

川内:ここから先はシェアオフィスですが、ちょうど来られている方がいて、中を見せてくれるそうです。

「Afinación」オーナーの湯浅さん

川内:こんにちは、このシェアオフィスにはよく来られるんですか?東京からだと少し遠いですよね。

湯浅さん(以下敬称略):昨年からお借りしています。距離はありますが、車が好きなので気分転換にちょうどいいですよ。自然も感じられて。今まで触れたことがなかった土に触れたりもできますし、ここに来るとライフスタイルが変わる感じです。

川内:この空間だけでクリエイティブな匂いがぷんぷんするのですが、ここは何に使っているのですか?

多田:アトリエとして使われていますよね。ちなみにこのショーケースに飾られているのは地元の作家さんの作品です。石に鯨の絵を描かれている。

湯浅:そうなんです。白浜で採れた石に鯨を描いていただいたものですね。ショーケースの上にある貝殻は白浜の海岸で採れたものです。大きいものはなかなか見つからないので、見つけたら磨いてツヤ出しして。岩場で採れる桜貝も、磨くのに時間はかかりますがとってもきれいですよね。シーガラスも白浜で見つけたものです。

川内:こうして飾られているものは、一般の方が見に来ることも可能なんですか?

湯浅:私はもちろん大歓迎です。

川内:素晴らしいものを見せていただきました。ありがとうございました。

多田:みなさんそれぞれに違う空間を作り込まれているんですよ。シェアオフィスを使われている方々同士も交流があって、そこからまた仕事につながっていくこともあるようです。こちらのお部屋もショップ兼アトリエとして使われています。

「Room 83」オーナーの山田さん

川内:お邪魔します、無印良品の川内と申します。素敵な空間ですね!

多田:山田さんは流木のプロですね。何千、何万本という流木を持っていらっしゃる。

山田さん(以下敬称略):いえいえ。白浜の海岸はなぜか流木がたくさん上がるので、それを拾ってきて、洗って磨いて加工して、オブジェやキーホルダーを作っています。インスタグラムを見てくださった方や、ここに宿泊された方、レストランに来られた方が立ち寄ってご用命くださります。

川内:ちなみに飾られているカヤックはご自身がやられていたものですか?

山田:はい。そもそもシーカヤックをやっていたことからシラハマ校舎を知りました。この辺りだと、館山の湾の中でシーカヤックができるんですよ。

川内:そうなんですか。お部屋にはベッドも置いてあって、泊まる気満々な感じですね。

山田:基本的に金、土、日曜日にここに来て、レストランでアルバイトさせてもらっているんです。で、その合間にアトリエで作業して。

多田:山田さんがいてくださって、本当に大助かりです。

川内:色々な形で関わられているんですね。ありがとうございました。みなさん本当に素敵なオフィスにされていて。入居者を募集するにあたって、クリエイティブ関係に限定したわけではないのに……自然と集まるものなんですね。

多田:ここを歩く方はウィンドウショッピングみたいに各オフィスを覗いて行かれるので、みなさん力を入れて改装されています。宿泊された方が「空いていたら借りたい」と言ってくださることもありますよ。あとこの廊下にある棚は、靴箱だったものをそのまま使っています。

川内:なるほど。中に入っている本は多田さんの蔵書ですか?

多田:私のもありますが、オフィスを利用されている方々が入れてくださったものが多いですね。

廃校+インフラゼロハウスという安全な場所

川内:空間としても素敵ですし、利用されている方々もみなさん素敵でしたね。

多田:本当にいい方ばかりが入居してくださりました。

川内:そもそもの話ですが、この廃校を利用するためにコンペで勝ち取ったわけですよね。そのコンペに応募した動機はなんだったんですか?

多田:今廃校は全国でどんどん増えていて、年間300〜400校にもなるんです。学校というのは安全な場所に建てられていて、現にシラハマ校舎も避難場所に指定されている。今後安全と防災というのはより必要になってくると思い、廃校を上手く活用できないかなと考えてここを選びました。

川内:廃校が活用できて社会貢献にもなるし、ご自身の趣味のDIYもできるということですね。いや、趣味ではないのか。

多田:(笑)。1人でやっていても、先ほどお話を聞いた入居者の方々のようにみなさんが協力してくださるので、とても心強いです。

川内:シラハマ校舎が避難場所になっているということは、万が一災害が起きてここに避難する方がいれば、インフラゼロハウスや無印良品の小屋を活用できますよね。もしインフラが途絶えていても、ある程度の電気や水は担保できますし。今後のインフラゼロハウスの活用先として、ほかの廃校も視野に入れていきたいですね。

多田:ぜひ。廃校も活用できて素晴らしいアイデアだと思います。

川内:多田さんはご自身で何でも作られるし、宿泊業もやられているし、インフラゼロハウスの掃除や管理などもしてくださって、色々なことを見聞きされていると思います。そんな多田さんはインフラゼロハウスをどんなふうに見ていらっしゃいますか?

多田:このインフラゼロハウスの奥に、太陽光パネルと蓄電池を備えたオフグリッドの無印良品の小屋を設置したのですが、そのときに感じたのは水と通信が足りないことでした。でも今回インフラゼロハウスを設置して、それが全部クリアできていることに感動すら覚えました。インフラゼロハウスを活用してどんどん広まってほしい、もっと色々な人に使ってほしいというのが本当に率直な感想です。

川内:ありがとうございます。我々も色々な方に試していただきたいと思っているので、試泊者を公募したりと今後も多田さんにお世話になるかと思います。

でも確かに、私たちはインフラは水、電気、ガスと言うことが多いですが、通信も今や欠かせないインフラですよね。インフラゼロハウスは衛星でWi-Fiに繋いでいるので、私もよくここで仕事をしますが困ったことはありません。

普段の生活で停電したら、ノートパソコンは充電式だからある程度動きますが、通信が途絶えてしまったら全く仕事ができない。でも、シラハマ校舎にもWi-Fi環境はありますよね。

多田:Wi-Fi環境はありますが有線なんです。それでいうと一番大変だったのが3年前の台風のとき。有線の通信は途絶えてしまうし、水もダムは近くにあるのですが、電源が落ちてしまうと浄水機能が使えなくて、水も止まってしまったんですよ。そうなるとトイレも使えない。そんな生活が半月も続いて、インフラがなくてもストレスなく生活できるような設備があればいいのに、とまさに感じていました。

川内:そのお話を聞いて、インフラゼロハウスが人のお役に立てる気がしてきました!では、多田さん個人としてインフラゼロハウスをこんなふうに使ってみたい、という考えはありますか?

多田:そうですね、私はどこでも住めるし寝られるタイプなので場所は問わないです(笑)。使い方として思いつくのは、例えば現場事務所。一般的な現場事務所はコンテナを置いて、電気を通して、トイレを持ってきて、と色々準備が必要なのですが、インフラゼロハウスは1台リースできたらそれで完結しますよね。通信があるから中で図面を引くこともできるし。一番効率的に使えるんじゃないかと思います。

川内:なるほど!さすが職人!例えば空き家をタダ同然で買って自分でリノベするという方は今もいらっしゃいますが、これから増えていくと思うんです。ただその土地はインフラも途絶えていたりして、作業を始めること自体が大変なんですよね。そんなときにインフラゼロハウスを庭に持ち込んで、ここで暮らしながら家を作る、というのは私も考えていました。きちんと休めるので疲れにくいし、より楽しみながらできる気がするんです。

多田:そういった形でリースできたらベストですよね。

川内:だからインフラゼロハウスは売り切りだけではなく、リースやサブスク、あとは使ったものをMUJI HOUSEが引き取って再販するとか。そういう使い方ができそうですよね。インフラゼロハウスのハードの部分はプロトタイプですが完成しているので、使い方や売り方といったソフトの部分を、多田さんにもご意見をいただきながら考えていきたいと思っています。この度はありがとうございました。引き続きよろしくお願いします。

多田:ありがとうございました。

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