「縦の家」の夏の室温がすごいことに(後編)

「縦の家」が目指したもの | 2014.9.9

前回のコラム(前編)で、「縦の家」の温度測定データをもとに、「縦の家」がたった1台のエアコンで家中温度差がなく、快適であるかについてお話しました。

もしあの後、何ごともなければ、夏の外気温がどんなに高くなっても、1階から3階までの温度はほぼ24℃のままで、「なんて『縦の家』は温度差がなく、外気温度に影響されない家なのでしょう。」でこのコラムは無事終了するはずでした。
しかし…、事件は静かに起きていたのです。どんな事件が起こっていたのか、グラフを見ながらご説明しましょう。

グラフに異変:室温が上昇

[期間②]の8月13日は、朝8時から2階のキッチンでお菓子調理の撮影が入った日なので、8月11日と同じように、2階の室温が最大26.3℃まで上昇しています。しかし、8月11日と異なるのは、撮影終了後、夜になっても室温が下がるどころか、徐々に上昇している点です。そのまま18日まで室温が28℃前後になっています。

何が起こっていたのか…? 東京都荒川区に建つ実際の「縦の家」CASE7プランには、1階の土間スペースと、3階の階段室上に、1台ずつ、計2台のエアコンしか設置されておらず、夏の冷房時期は3階のエアコン1台のみを稼働させていました。もうおわかりの方もいらっしゃると思いますが、この3階のエアコンが8月13日の朝から正常に働かなくなっていたのです。

8月13日以降に、この「縦の家」に出入りした弊社の何人かのスタッフたちが「おかしい、いつもより暑い」と異変を感じたので、3階エアコンの温度設定を下げたり、1階のエアコンを一時的につけたりしますが(グラフの室内温度がいろいろ変化しているのはそのため)、以前のように、1階から3階までほとんど温度差なく安定して24℃台をキープすることができなくなっています
(※この24℃という室温はエアコンの自動設定となっており、「縦の家」の場合、大勢の方が見学会で出入りするので、このような低い室温設定にしています)。

それでも外の最高気温時の外気温と室温との温度差は常に5℃以上あるので、決していつもどおり「快適」ではない、という異変は感じていたけれど、誰も「3階のエアコンが壊れている」とは気付かなかったのです(このときの「縦の家」の見学会にご参加いただいた方々には、暑い思いをさせてしまい申し訳ありませんでした)。

グラフに異変:1階の室温だけが下がる

[期間③]を見てください。8月18日の朝、たまたま雑誌の取材のために「縦の家」に行ったスタッフが、室温が下がりきらない原因が、3階のエアコンの不調(この時点では室内機は送風状態にあるものの、室外機が停止していて、全く冷気が出ていない状態)であると気付きます。

さすがの「縦の家」も、1台だけ運転していたエアコンが止まっていては室温が上がる一方なので、応急処置として、1階のエアコンをオンにしました。この[期間③]、1階の室温だけが約25℃で安定しているのはそのためですが、やはり1階のエアコンでは冷気が上に上がりきらず、家全体を涼しくするのは難しいことがあらためて実証されたことになります。

「縦の家」CASE7プランの延床面積は108.46m2(32.80坪)、6.3kwのルームエアコンたった1台で十分に夏冬に快適な温度コントロールが可能ですが、やはり縦に長い空間なので、夏の冷房用として3階、冬の暖房用として1階にそれぞれエアコンを設置する必要性が図らずもここで証明されたわけです。

そして、[期間④]を見てください。すぐにエアコン設備業者が修理をした結果、不調の原因は、後から行った外構工事時に室外機を動かしたために生じた「冷媒ガス漏れ」と判明しました。
そこで8月19日3時40分にガスを注入すると、一気に室温は下がり、階層間の温度差もなくなった、というわけです。

まとめ:今回の事件でわかったこと
エアコンが故障する、という思わぬ事件が発生した時に、室温グラフは色々なことを教えてくれました。
皆さんが暮らしている家でエアコンが故障したら…、と想像してみてください。故障から5日間も気づかない、ということがあるでしょうか? 恥ずかしながら我が家(木造2階建て)では、エアコンをつけないと外気温との差がすぐになくなるばかりか、夕方の外気温が30℃を切ると、室内の方が暑くなってしまいます。ですから、エアコンが正常に動いていなければ、即座に気づく、と鈍感な私でも断言できます。
「縦の家」はエアコンが不調になってからも、外気温が35℃を超えるような「猛暑日」の日中でも室内は外気より5~9℃も低く、29℃を上回ることがなかったため、「おかしい、暑い」とは思ってもエアコンが動いていないとまでは思わなかった、ということになります。

では、なぜ「縦の家」は、エアコンが動いていない状況でも室温がそれほど上がらなかったのでしょうか。
もちろん、「断熱性能が普通の家よりはるかに高い」というのが大きな理由のひとつです。しかし、それだけではない、と教えてくれるデータがこのグラフには含まれていました。

断熱性能以外に、「縦の家」の室温を守るもの
そのヒントは、「床下温度」(紫色)のグラフデータにあります。エアコンの故障後の[期間②]に1~3階の室温が28℃前後まで上昇したにも関わらず、この「床下温度」だけは故障前と同じ24~25℃で安定しているのが際立っています。
これは、「縦の家」の基礎コンクリート(土間床)が、基礎の外側で断熱されていて熱を防ぎ、かつ24時間全館冷房され続けることで、十分に保冷(蓄熱)された空気がそのまま24℃に保たれたから、と考えられます。

このように、「縦の家」のルームエアコン1台とサーキュレーターによる「24時間全館冷暖房」は、単に室内の空気を冷やす・暖めるだけではなく、基礎コンクリートのような蓄熱性の高い部位をしっかり蓄冷・蓄熱させる効果も見過ごせないと言えます。
言い換えると、熱しやすく冷めやすい「空気」は間欠部分冷暖房でもすぐに温度を変えられますが、空気よりも熱しにくく冷めにくい、家の中のさまざまな「素材・物質」は、24時間全館冷暖房で初めて、「冷めにくいレベルまで蓄熱することができる」ということです。

エアコンの故障で室温がバラついているときでも、床下温度だけはずっと安定していることから、「高断熱性能」に加えて「外断熱」+「24時間全館冷暖房」による家全体の蓄熱も「縦の家」が小さいエネルギーで温熱的快適性を保てる要因として推察できるのです。

真夏のエアコン故障時の温度データが語る「縦の家」の快適温度の理由を、皆さんはどう考えられますか。ぜひご意見をお聞かせください。