杉板張り外壁のワケ

コラム | 2014.7.22

縦の家」のファサード(正面の外観)に使われている外壁材は、今では都市部でほとんど見られなくなった、無垢の杉板です。
いえ、都市部だけでなく、新築の戸建住宅の外壁に、天然の無垢の杉板が使われることは、ほとんどなくなったと言ってよいのではないでしょうか。

昔は当たり前のように日本の家の外壁に使われていた杉板が、いつのまにかほとんど使われなくなった理由は、「価格が高くなった」、「防火上の規制が厳しくなった」、などいろいろありそうですが、一番の理由は、私たち日本人の「家」に対する向き合い方が変わったからかも知れません。

日本の家は工業製品?
皆さんは、「新建材」という言葉をご存知でしょうか? 今では、当たり前になりすぎてほとんど死語と化していますが、「新建材」とは、それまで使われていた、天然の木や石などの素材を巧みに加工してつくられた住宅建材の代替材料として、1960年代から次々と日本の住宅に採用され始めた、「アルミサッシ」「サイディング材」「人口大理石」「プリント合板」などの総称です。

当時の新しい技術である樹脂や合成素材、加工技術を駆使して製造される「新建材」は、時代が求めていたものでもありました。
日本が高度成長期に入ってから、住宅不足と品質の改善を急速に進めようという機運の中、大量生産に向いていて、コストも安く、品質にばらつきの少ない「新建材」は当時の住宅建設業界から重宝がられ、あっという間に日本の住宅建材のスタンダードとなったのです。

たしかに、アルミサッシは隙間がない上に、経年による寸法の変化も少ない。サイディングやプリント合板も反りや色むらがなく、腐る心配もない。少しでも品質のよい欧米型の住宅を、より多く供給することを目指していた当時の日本の住宅業界にとっては、うってつけの建材でしたし、これらの「新建材」が日本の住宅の品質を上げるのに重要な役割を果たしてきたことは間違いありません。

そして、これらの「新建材」が普及するにつれ、いつからか私たちは素材だけではなく、「家」そのものを「工業製品」として認識し、向き合い始めたのではないでしょうか。
同じ素材(新建材)、同じ設計図を使って家を建てれば誰が建てても同じものができる、という意味では、本当に今の家は「工業製品」に近いと言えるかもしれません。

「工業製品」は、製造時の品質のばらつきが小さいだけでなく、経年による変化が少ないという利点があります。いつからか私たちは「家」もそうあるべきと考え、風雨、紫外線などにより変化する度合いの大きい天然素材を、特に外部に使用するのを避けるようになったように思います。

「劣化」と「熟成」
無印良品の家では、「家」は、住む方の記憶とともに、時が経つほど愛着が湧いていくのが理想、と考えています。そのために、たとえば、室内の床やドア、ドア枠などの表面材には、新建材ではなく、徐々に味が出てくる天然素材を使用する一方で、高い対候性・耐久性が求められる外壁の仕上げ材には経年劣化の少ないガルバリウム鋼板を使用するなど、使用する材質にはこだわって来ました。時の経過により「味」が出るものと、長い間「変化しにくい」ものを使い分け、「適所適材」であることを大事にしてきました。

このようなこだわりから、「木の家」の外壁にはガルバリウム鋼板を採用したわけですが、10年前の発売当初は「倉庫みたい」というネガティブなご意見があったことも事実です。
しかし、まさに倉庫で多用されるくらい、メンテナンス性と耐久性に優れた素材であることに私たちは着目したのでした。(今では、このガルバリウム鋼板を住宅の外壁に使う事は、珍しいことではなくなってきたようですが。)

このように、当時の世の中の常識に反して、ガルバリウム鋼板を外壁に採用した無印良品の家が、今回「縦の家」では、「変化しない」ガルバリウム鋼板とは真逆とも言える、「変化し続ける」無垢の杉板材を採用したのです。

その理由は、都市型住宅として設計された「縦の家」は、高い断熱性能と耐震性能、耐久性を追求していますが、最終的なデザイン調整の段階で、数値では表せない、都市部に建つ家だからこその「温かみ」を併せ持たせたかったからなのです。
都市部の中で何十年もの間変わらずにそこに建ち続け、その家の歴史をしっかり語れる姿であって欲しい。そんな思いも込めて「劣化」ではなく「熟成」する外壁材として、無垢の杉板を採用しました。新築されたときが一番美しいのではなく、経年変化により、新品では出しえない「味」を楽しんでいただければ、と思っています。

天然素材とのつきあい方
もちろん、天然素材を外壁に使用するためには、耐火性・耐久性・メンテナンス性も考慮しなくてはなりません。
「縦の家」で採用している無垢の杉板は、もともと水に強い厳選された国産杉の中心部の赤身だけを十分に乾燥させて使用し、さらに塗料も表面を塗るものではなく、特殊な浸透性の木材保護塗料を施しています。

また、施工では、木と木の重ね部分を通常より長く取り、多少の天然木特有の反りや膨張・縮みを吸収する工夫をしています。
加えて、防火性能は、特殊な木質繊維系断熱材との組み合わせで、実験により耐火性を証明し、都市部の準防火地域でも外壁に使用できる認可を取っています。

しかし、このように細心の注意を払っていても天然素材は良くも悪くも変化し続けます。変化は、割れ、反りの様な「狂い」となることもあります。工業製品なら一分の狂いでも致命傷ですが、天然素材の場合は、それを「味」として許容しつつ、ときにはメンテナンスもしながらつきあっていくことになります。

このように天然素材の「変化し続ける」という特性を理解して、上手につきあっていくことで、愛着が深まっていくと私達は考えています。

このように、都市部にありながら、温かみを持ち、住む方とともに歴史を刻みこんでいくことのできる家を目指して採用された「縦の家」の外壁(無垢の杉板)張りの考え方、皆さんはどうお考えでしょうか?
皆様のご意見をぜひお聞かせ下さい。