「陽の家」が育む、もうひとつの暮らし(後編)|セカンドハウストークイベント

住まいのかたち | 2025.12.12

平日は都市で働き、週末や長期休暇は自然のそばで過ごす。
そんな「もうひとつの暮らし」をどのようにかたちにしていくか──。
無印良品の家 東京有明センター内にある「陽の家」を舞台に、NUMABOOKS代表でありブックコーディネーターの内沼晋太郎さんと、株式会社MUJI HOUSE の川内浩司が、家づくりと二拠点生活について語り合うトークイベントを開催いたしました。
内沼さんが、東京と長野で実践する二拠点生活。その長野での暮らしの舞台となっているのが、無印良品の家「陽の家」です。
なぜ、二拠点居住を選んだのか? そして、なぜシンプルな「陽の家」がその拠点になったのか?
本と緑に囲まれた「陽の家」での暮らしの様子を、内沼さんご自身に語っていただきました。 この記事ではトークイベントの様子を採録でお届けします。

登壇者
内沼 晋太郎

ブックコーディネーター
株式会社NUMABOOKS代表取締役、
株式会社バリューブックス取締役

川内 浩司
株式会社MUJI HOUSE 取締役 商品開発部長
(役職はイベント開催当時)

本記事は後編です。前編はこちらからご覧ください。

4.陽の家での暮らしについて
5.参加者からの質疑
6.さいごに

4.陽の家での暮らしについて

無印良品の家/陽の家との出会い

川内
御代田で家を建てようと思ったとき、「無印良品の家/陽の家」を選んでいただいた理由を教えてください。

内沼
その頃、僕は自分の会社の事務所を、グラフィックデザインの事務所や建築事務所とシェアしていて、身近に建築家の友人もいました。
なので最初は、「友人の建築家に一から家を設計してもらう」という選択肢も、正直かっこいいなと思っていました。
ただ、以前住んでいた狛江の賃貸住宅が、もともと大学教授の方がこだわって建てた家で、そこに住んだ経験が大きかったです。
その家には、大きな作り付けの本棚や薪ストーブがあって、一見すると羨ましい要素がたくさんあるんですが、東京の住宅街のなかにあったこともあって、薪ストーブは近隣のことを考えると実際には使えなかったり、細かい部分にその人のこだわりが強く出ていたりしました。
僕にはありがたい部分もあった一方で、「これはこの人には必要だったんだろうけれど、僕にはそこまでいらないな」と感じるこだわりも多かった。
その経験から、「自分の家を建てたときに、この家は自分だけが一生住むのだろうか?」ということを考えるようになりました。
子どもが大きくなったときに、ここに住み続けるとは限らない。 そして、そのときに、家を手放したり、誰かに譲ったりする可能性もありますよね。
だとすると、「自分のこだわりだけでぎゅうぎゅうにした家」をつくるよりも、「誰が住んでもある程度心地よい家」であってほしい。
そう思うようになりました。
そんなことを考えているタイミングで、建築に詳しい友人から「無印良品の家はいいと思うよ」と何度か言われたんです。
寒い場所に建てる予定だったので、断熱性能や基本性能がしっかりしているという話も聞きました。
それで実際にモデルハウスを見てみると、「ああ、これは“個人のこだわり”ではなく、“暮らしの器”としてのこだわりなんだな」と感じました。
自分のこだわりをどこまでも押し通す家というより、誰かに引き継いでもらうことまで想像できる家。
それが、無印良品の家、とくに陽の家の印象でした。
陽の家を選んだ決め手は、その「余白のある感じ」だったと思います。

配置計画──「毎日の景色」を最優先に

川内
私も設計に関わらせていただいたのですが、とくに印象に残っているのが「配置計画」です。
敷地が広い分、どこにどう建てるかを決める要素が多くて、現地でかなり一緒に悩みましたよね。

内沼
そうですね。
東京で家を建てる感覚からすると、土地がそれほど広くない中で、敷地に対してまっすぐ建てるのが普通だと思いますが、御代田の敷地はかなり余裕がありました。
だからこそ、「毎日の暮らしの中で窓から何が見えるか」を最優先に考えました。
実際に現地で川内さんたちに来ていただいて、人がその場所に立ってみて、「この高さだとこう見えます」「もう少し回すと、こういう景色になります」と脚立に乗りながら確認していきました。
その結果、敷地に対して斜めに家を配置することになりました。
一見すると三角形の余白がたくさんできて「もったいない」と思う人もいるかもしれませんが、僕にとっては「自分たちが毎日見る景色」が一番大事だったので、この配置にして本当に良かったと思っています。

駐車スペースも、結果的にうまく確保できましたし、庭の使い方にも幅が出ました。

敷地と自然との付き合い方

川内
敷地が広いと、草木の手入れも大変だと思います。そのあたりはどうされていますか。

内沼
正直に言うと、「ほとんどしていない」に近いです(笑)。
もちろん、最低限歩くところだけは草を刈りますが、あとは基本的に自然に任せています。
僕は、草刈り機で一面きれいに刈りそろえた芝生よりも、少し野性味のある風景のほうが、この家には似合うなと思っていて。
写真で見ると分かりやすいんですが、春先には低かった草が、夏には腰のあたりまで伸びてきたりもします。
その中を少しだけ刈って小道をつくるようなイメージです。

虫もたくさんいます。
虫が絶対にダメな人には、正直おすすめできないかもしれません。でも、東京に比べると、虫の種類がすごく多いんですよね。
東京には「最強の虫」しかいない感じがしますけど、御代田には「こんな虫がいるんだ」という出会いがたくさんあります。
窓は全開にできますが、夏場にずっと全開にしていると当然虫が入ってくるので、普段は網戸にしていることが多いです。
ただ、友達がたくさん来てバーベキューをしたり焚き火をしたりする日は、「今日はもういいや」と全開にして、あとでなんとかする、みたいな感じでやっています。
子どもたちも、最初は虫を平気で触っていましたが、少し大きくなると都会でも田舎でも「気持ち悪い」と言い出すのはあまり変わらないですね(笑)。
妻も最初は虫が苦手でしたが、今はだいぶ慣れてきて、必要なら自分で処理してくれるようになりました。最終的な担当はだいたい僕ですけれど(笑)。

住み心地──「良かったことしかない」に近い

川内
住み始めて4年ほど経ちますが、「ここに移して本当に良かった」と感じること、逆に「ここは想定外だった」ということがあれば教えてください。

内沼
「想定外のマイナス」のほうは、あまり思いつかないです。
本当に、「良かったことしかない」に近い感覚です。
まず、空間としてとても豊かです。
同じ金額を東京のマンションに使ったとしたら、どれくらいの広さのものが買えるだろう、というくらいのコストで、これだけの広さと、自然環境と、人とのつながりを得られている。
御代田町は移住者も多くて、価値観の近い人たちが近くに住んでいるので、家族ぐるみの付き合いが自然と生まれました。
東京にいた頃は、家族ぐるみで付き合う友人がそれほど多くなかったので、これは大きな変化です。
それから、家の性能のおかげで、冬でも家の中はとても快適です。
外はマイナス10度を下回ることもありますが、室内は安定していて、まわりの人から「本当にそんなに違うの?」と驚かれるくらいです。
雪に関して言うと、御代田は長野県内でもそれほど多くは降らないエリアです。
年に1〜2回ドカッと降って積もる日があるくらいで、そのあとはわりとすぐ溶けていきます。
なので、「豪雪地帯での暮らし」という感じではありません。
生活の利便性も、車で20分ほどの佐久市に出れば、普通の地方都市と同じ感覚でなんでも揃います。
軽井沢のような観光地の華やかさと、佐久の生活のしやすさ、御代田の自然環境。そのバランスが、とてもしっくりきています。
デメリットを挙げるとすれば、東京での夜の予定を入れられる曜日が少し限られることくらいです。
週に2〜3日は東京に出ていますが、「火曜の夜に飲まない?」と言われると、「ごめん、その日は長野にいる」となることはあります。
でも、それくらいですね。
どうしても、ということであれば、その曜日でも出てこようと思えば出てこれますし、交通費も、東京で同じ広さの家を借りた場合の家賃との差額を考えると、十分に許容範囲だと感じています。

④ 質疑応答

本の日焼けについて

参加者
本がたくさん並んでいる写真を拝見して、「かなり日が入るのかな」と思いました。本が日焼けしたりすることは、気になりませんか。

内沼
本は、やっぱり焼けます(笑)。
でも、僕はそれをあまり気にしていません。
自分で買った本は自分のもので、日焼けしたり、少し汚れたりするのも含めて「その本との歴史」だと思っているところがあるので、むしろ愛着が湧くくらいです。
もちろん、日焼けがどうしても嫌な方は、日が当たりにくい場所に本棚を置いたり、ついたてを立てたり、カーテンで調整したりすれば良いと思います。
うちの場合は、「日がたっぷり入ること」と「本に囲まれること」を両方優先した結果、今のような並べ方になっています。

冬の寒さについて

参加者
夏の暮らしのイメージはよくわかったのですが、冬はどんな感じなのかを教えてください。

内沼
御代田は、冬になると普通にマイナス10度台になることもあるくらい、かなり寒い場所です。
でも、家の中は、周りの人が羨ましがるくらい暖かいです。
これは僕より川内さんのほうが詳しいと思いますが、断熱が本当にちゃんとしている。
寒さが心配だったので、そこはかなり重視して選びました。
雪については、先ほどもお話ししたように、長野県内でも場所によってかなり差があります。
御代田は雪が比較的少ないエリアなので、「雪かきで毎日大変」ということはありません。
「外はきびしいけれど、家の中はいつも安定している」というのが、冬の暮らしの印象です。

終わりに──小さく試しながら、「もうひとつの暮らし」を育てていく

川内
内沼さんのお話をうかがっていると、
住む場所はいくつかの候補を丁寧に検討する
場所が決まったら、敷地の中での「配置」を慎重に考える
そして、長く使えて変えられる器として「陽の家」を選んでいただく
という、私たちとしては理想的なプロセスをたどっていただいたように感じます。

内沼
いきなり家を建てるのではなくて、まずは「小さく試す」のはとてもおすすめです。
賃貸で1〜2年暮らしてみる、週末だけ通ってみる。
やってみてダメだったらやめればいい、くらいの感覚で、一度その場所に身を置いてみる。
そのうえで、「ここなら自分たちはやっていけそうだ」と思えたら、一歩先に進む。
そうやって段階を踏みながら、自分たちの「もうひとつの暮らし」を育てていけたらいいなと思います。

※この採録は、トークイベント「『陽の家』が育む、もうひとつの暮らし」の内容をもとに、一部編集・再構成しています。

無印良品の家では、セカンドハウスサポートサービスとして、東京にいながら遠隔地のセカンドハウスづくりをサポートするサービスを行っております。遠隔地での家づくりに関するご相談やお打ち合わせを都内でスムーズに実施できるよう様々なサポートを行います。詳しくは、WEBサイトをご覧ください。

無印良品の家 セカンドハウスサービス >
※本サービスは無印良品の家 有明センター限定で承ります。他のモデルハウスでは受け付けておりません。
※2025年8月のサービス開始時での建設対象エリアは軽井沢・那須エリアとなります。順次施工対応エリアを拡大する予定です。建設対象エリアに関するご相談は、こちらまでお問い合わせください。