「陽の家」が育む、もうひとつの暮らし(前編)|セカンドハウストークイベント
住まいのかたち | 2025.12.9
セカンドハウスから始まる二拠点生活のかたち
平日は都市で働き、週末や長期休暇は自然のそばで過ごす。
そんな「もうひとつの暮らし」をどのようにかたちにしていくか──。
無印良品の家 東京有明センター内にある「陽の家」を舞台に、NUMABOOKS代表でありブックコーディネーターの内沼晋太郎さんと、株式会社MUJI HOUSE の川内浩司が、家づくりと二拠点生活について語り合うトークイベントを開催いたしました。
内沼さんが、東京と長野で実践する二拠点生活。その長野での暮らしの舞台となっているのが、無印良品の家「陽の家」です。
なぜ、二拠点居住を選んだのか? そして、なぜシンプルな「陽の家」がその拠点になったのか?
本と緑に囲まれた「陽の家」での暮らしの様子を、内沼さんご自身に語っていただきました。 この記事ではトークイベントの様子を採録でお届けします。

1.無印良品の家について
2.陽の家について
3.二拠点居住について
1.無印良品の家について
無印良品に家が「あったらいいな」から始まった
川内
無印良品の家は、2002年に「無印良品に家があったらいいな」という声から始まりました。
当時インターネット上で「あなたにとって理想の住まいとは?」と問いかけ、多くのお客さまからご意見をいただいたのが出発点です。

そこで見えてきたのは、「流行のデザイン」よりも「永く使えること」「飽きのこない暮らしの器」であることへの共感でした。
暮らしのための道具をつくってきた無印良品が、その延長線上で「家」という大きな器をつくるのは自然な流れだったのだと思います。
30年先も飽きない「暮らしの器」
川内
私たちが目指しているのは、30年先も飽きない「暮らしの器」です。

そのために大切にしているのが、3つの基本性能です。
1.耐久性・耐震性
2.快適性(断熱・気密など)
3.普遍性(飽きのこないデザイン)

強い構造やメンテナンスに優れた素材で、長く安心して使えること。
高断熱・高気密で、自然を感じながらも一年中心地よく暮らせること。
そして、家の原形のような、簡素で簡潔なデザインであること。
長く住むほどに、暮らし手の工夫や愛着が積み重なっていく。
そんな家であることを大切にして、商品開発を続けてきました。
永く使える、変えられる「スケルトン&インフィル」
川内
もう一つ大切にしているのが、「可変性」です。
家族構成や働き方は、時間とともに変わっていきます。にもかかわらず、最初から細かく間取りを決めてしまうと、暮らしが変わったときに家のほうが対応できなくなってしまう。
そこで採用しているのが、「スケルトン&インフィル」という考え方です。

スケルトン=器(構造躯体)
インフィル=内装・設備
器としての構造はしっかりつくり、内側の仕切りや設備は、暮らしの変化に合わせて変えていけるようにする。
仕切りを取って大きな空間にすることも、仕切りを増やして部屋数を増やすこともできます。

一室空間が実現できていれば、将来のライフスタイルや家族構成の変化に合わせながら、長く同じ家に住み続けることができる。
これが、無印良品の家の根本的な考え方です。
「木の家」「窓の家」「縦の家」
川内
こうした考え方をもとに、2004年に「木の家」、2007年に「窓の家」、2014年に「縦の家」と、少しずつ商品を増やしてきました。



いずれも、一度出した商品はできるだけ長く売り続ける、というスタンスで開発しています。
家そのものが永く使える「器」である以上、商品もまた、短いサイクルで入れ替えるのではなく、時間をかけて育てていきたいと考えています。
2.陽の家について
平屋が理想の家になる
川内
そして2019年に発表したのが、今日の主役でもある「陽の家」です。

陽の家は、「平屋が理想の家になる」というコンセプトのもとにつくった家です。
かつて平屋は「広い敷地がないと建てられない贅沢な家」という印象が強かったと思いますが、私たちはそこに、これからの暮らし方との親和性を感じました。
いま、なぜ平屋か
川内
「いま、なぜ平屋なのか」。その背景には、働き方と住まい方の変化があります。
かつては、「毎日会社に通う」ことが前提で、通勤時間1時間前後の範囲に住宅が集中していました。
しかし、リモートワークやオンライン会議が当たり前になり、「毎日オフィスに行かなくてはならない」という前提から少しずつ自由になりつつあります。
週に1〜2回通えればよいのであれば、住む場所の選択肢は一気に広がります。
桜のきれいな場所、海のそば、田んぼの真ん中、両親の近く、なつかしいふるさと……。
そういった「本当はこんな場所に住んでみたい」という思いを受け止められる器として、私たちは平屋というかたちに注目しました。

外とつながる一室空間としての陽の家
川内
陽の家の大きな特長は、勾配天井でつながる大きな一室空間と、ウッドデッキによる屋外とのつながりです。


内部は、階段も廊下も少ないシンプルなワンフロア。
リビング・ダイニング・キッチンから寝室までが、ゆるやかにつながる「無印良品史上最大の一室空間」といってもいいかもしれません。
一方で、水まわりや寝室など、落ち着きたい場所には通常の天井の高さを採用し、勾配天井とのメリハリをつけています。
引き戸を閉めれば個室として、開け放てばひとつながりの空間として使えるようにしておくことで、暮らし方に合わせた自由度を残しました。
南側には大きな開口部を設け、そこからウッドデッキに連続することで、屋内と屋外の境界をあいまいにしています。


窓をすべて開け放てば、室内とデッキが一体となり、「今日は天気がいいから外で朝ごはんを食べようか」といったことも自然にできる。
そのために、デッキとの相性がよいキャスター付きの家具を用意するなど、暮らし方まで含めた設計をしています。
パッシブデザインとしての屋根のかたち
川内
屋根のかたちは、内部の勾配天井のかたちから必然的に決まったものですが、南側の軒の出の長さや袖壁などは、パッシブデザインとなるように設計されています。

冬の低い日差しは室内の奥まで取り込み、夏の高い日差しは軒でしっかり遮る。
構造と意匠を一体的に考えることで、見た目の印象だけでなく、快適性と省エネルギー性の両方に寄与するかたちになりました。
さまざまな土地に建つ陽の家
川内
陽の家は、海のそば、森の中、傾斜地など、さまざまな環境に建っています。





セカンドハウスや別荘、宿泊施設として選ばれることも多く、まさに「もうひとつの暮らし」の拠点になっている事例が増えてきました。
その中のひとつが、今日ご登壇いただいている内沼さんのお家です。

3.二拠点居住について
内沼さんの現在のお住まい/暮らし方について
川内
ここからは、陽の家・内沼邸の具体的な暮らしぶりについてお話をうかがっていきます。
それでは早速ですが、現在のお住まいと暮らし方について教えていただけますか。
内沼
はい。今、家族の本宅は長野県の御代田町にある陽の家です。
僕は東京でいくつか会社を経営していて、長野でも仕事があります。なので、仕事は東京と長野の両方にある状態です。
暮らし方としては、基本的に家族全員で御代田に住んでいて、僕だけが週に2〜3日、東京に通うかたちです。
1泊か2泊くらい東京に滞在して仕事をして、また御代田に戻る。その繰り返しですね。
東京では、会社の事務所の一角にロフトのようなスペースがあって、そこにマットレスを敷いた僕専用の寝床があります。
東京には「家族で暮らす家」はなくて、僕が行き来するためだけの小さな寝床がある、という感じです。



段階的移住──少しずつ距離を伸ばしていく
川内
最初から御代田で暮らしていたわけではないですよね。「段階的移住」というキーワードを出していただいていますが、そのあたりを教えてください。
内沼
はい。いきなり御代田に移ったわけではなくて、少しずつ距離を伸ばしてきました。
最初は、東京の下北沢の近くで暮らしていたんですが、子どもが生まれて子育てをしていると、「これはなかなか大変だな」と思うことが増えてきて。
道幅は狭いし、ベビーカーを押しているとなんとなく肩身が狭い。子連れで行ける場所も限られていて、「都市での子育てのしづらさ」をすごく感じました。
でも、仕事は東京にあるので、「本当に東京を離れて大丈夫なのか」という不安ももちろんあります。
そこで最初に選んだのが、都心から電車で20分ほどの狛江市でした。
狛江に住んでみると、「会社やお店から20分離れても、意外と大丈夫なんだな」と分かりました。
その経験があったので、次は思い切って長野県上田市に移る決心ができたんだと思います。
上田は新幹線が止まる街で、東京との行き来もしやすく、街としての機能もちゃんとある。
「ここなら暮らせそうだな」と感じて、しばらく賃貸で暮らしながら、この地域のことを知っていきました。
その上で、「もう少し自然の近くで暮らしたい」という気持ちも出てきて、御代田に家を建てることにしました。

狛江 → 上田 → 御代田と、段階的に距離を伸ばしながら、「自分たちがどのくらい東京から離れても大丈夫か」を確かめてきた感じです。
二拠点居住──家族の拠点を分散させない
川内
「二拠点生活」という言葉をよく使われていますが、いわゆる「二拠点居住」とは少し違う印象もあります。そのあたりはいかがでしょう。
内沼
そうですね。
僕の場合は、家を二つ持つ「二拠点居住」ではなくて、「暮らしの拠点は一つで、働く場所としての拠点がもう一つある」というイメージに近いです。
家族の暮らす家は御代田にひとつだけ。
東京には、僕が寝泊まりできる最小限のスペースだけを持つ。
子どもが小さいうちは、家族全員で毎週二つの家を行き来するような暮らしは、現実的ではないなと思いましたし、仕事柄、本がものすごく多いので、「本を分散させない」というのも大きな理由でした。
本って、あちこちに置いてしまうと、どこに何があるか分からなくなるんですよね。
大学の先生などでも「必要な本が家にあるのか研究室にあるのか分からない」という話をよく聞きますが、僕も同じで。
なので、「拠点は一つに、本も全部そこに集約する」というのが、自分の暮らしにとってとても大事でした。
結果として、家族の拠点は御代田にひとつ。
僕はそこから東京へ通う。

これが、今の二拠点生活のかたちです。
後編へ続く>
※この採録は、トークイベント「『陽の家』が育む、もうひとつの暮らし」の内容をもとに、一部編集・再構成しています。
無印良品の家では、セカンドハウスサポートサービスとして、東京にいながら遠隔地のセカンドハウスづくりをサポートするサービスを行っております。遠隔地での家づくりに関するご相談やお打ち合わせを都内でスムーズに実施できるよう様々なサポートを行います。詳しくは、WEBサイトをご覧ください。
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※本サービスは無印良品の家 有明センター限定で承ります。他のモデルハウスでは受け付けておりません。
※2025年8月のサービス開始時での建設対象エリアは軽井沢・那須エリアとなります。順次施工対応エリアを拡大する予定です。建設対象エリアに関するご相談は、こちらまでお問い合わせください。





