「木の家」新仕様こだわりの素材その1=フローリング 大きな木に包まれて。
住まいのかたち | 2025.11.21
2004年に販売を開始した「木の家」。その開発は、住まいの本質を問い直すことから始まりました。
それは、構造の強さや耐久性を追求することだけではなく、光や風、熱といった自然のエネルギーをどう受けとめ、どう暮らしの中で調和させるかを考えること。余計な装飾を削ぎ落とし、簡素でありながら豊かに暮らすための編集可能な「余白」を設計するという発想です。
今回、その原型の空間に、深い落ち着きと成熟した温もりを加えるために、新たな素材とディテールを20年ぶりに追加設定いたしました。
かつての日本家屋は、木と土と紙でできていました。それらは、全てが呼応しながら、五感で季節を感じ取るための装置のように機能していたように思います。
そうした感覚の積み重ねは、私たちのDNAに「住まいの原風景」として刻まれているに違いありません。
けれども、現代の住宅は、便利さや機能性の名のもとに、少しずつその感触が薄れているのかもしれません。わたしたちは、もう一度、『効率』とは別の、五感で感じる『心地よさ』について考え直してみることにしたのです。
このコラムは、そのために「木の家」に新たに設定した素材や、それらをどのように組み合わせるかのデザイン(=ディテール)について、ひとつずつお話ししていきたいと思います。
その1回目の今回は、「床」について、です。
家の中で、「床」の視覚的役割は、壁や天井と比べると、地味かもしれません。視覚的にどうこうというよりは、「物を置く」「歩く」ための、堅牢さが重要だからです。
まさに「縁の下の力持ち」と言えるでしょう。
わたしたちはその床材について、これまでにない視覚、質感を出せるように、新たに素材にこだわりました。
新設定のフローリングは、大判で厚みのあるオークの突板を用いた特別な仕様です。
フローリングの表面に使われる仕上げ材である、オーク材の厚みは4.0㎜。通常の木製床材に使われる仕上げ板は0.3㎜が主流ですから、圧倒的な厚みの美しいオーク材を惜しげなく使っています。
人間の感性というのは、本当に繊細で敏感なもので、視覚や触覚でこの仕上げ材の厚みを通じて、木の温かみや柔らかさが伝わるものなのです。
さらに厚みに加え、床材の全体厚み18ミリ、幅300ミリ×長さ2100ミリという規格外のスケールを持っています。通常よりも大判の板材を使用することで、よりダイナミックに質感が感じられます。

そして、オークの木目には、長い年月を経て刻まれた細やかな痕跡が残ります。それは均一ではなく、節や濃淡のある揺らぎとして現れます。その不揃いさこそが、木が生きてきた証であり、人がその床の上で暮らしを重ねるうちに、さらに豊かな表情へと育っていくのです。光の角度や季節ごとの気候によって、木肌の色合いは少しずつ変化し、家そのものが時を重ねることの喜びを教えてくれます。

同じ板材ですが、光によって表情が変わります
大判の木目の流れは、部屋全体をゆるやかに貫き、空間の雰囲気を一変させます。まるで大きな一本の木に包まれているような感覚は、部屋に家具やモノをあまり置きたくない、という衝動さえ起こさせるオーラがあるのではないでしょうか。
オーク特有の重厚な質感は、視覚的な充足感をもたらしながら、わたしたち日本人のDNAが求める、素足で暮らす心地よさを十分に満たしてくれる寛容性も持っています。無印良品の家に住まう方に多い「裸足で過ごす暮らし」にも、自然と寄り添う素材、というわけです。
床は、暮らす人が常に接触する部位です。
椅子の脚がこすれる音、子どもの足音、朝の一歩。そこには毎日の暮らしのリズムが刻まれていきます。
新しいフローリングは、大きな木に包まれて暮らすような、他では得られない暮らしの心地よさ、充足感を、これからの「木の家」に届けていきます。



