「ちょうどいい」という豊かさ。|木の家平屋開発秘話・2

住まいのかたち | 2025.5.19

前回のコラムでは、家の「豊かさ・快適さ」と「大きさ」は正比例ではないのではないか、というお話をしました。
また、「大は小を兼ねる」とよく言いますが、家の場合は逆で、ミニマルで快適な家の作法ができれば、それをベースに大きくつくることはたやすい、と言えるのではないでしょうか。
私たちは、そのような考えのもと、本当に必要なものだけに囲まれて、肩の力を抜いて暮らせる「小さな家」として、今回「木の家 平屋」を開発しました。

ちょうどよく仕切る(1)

たとえば、こんなプランを考えました。延床面積はわずか48.02㎡ですが、水回り以外の壁を取り払い、南側の大きな掃き出し窓から緩やかに勾配天井が伸びて、光の通り方や、天井の高さにより、実際の広さ以上の開放感があります。

間仕切りのない一室空間は、暮らしに合わせて変化するキャンバス。そのまま広く使ったり、思い思いに仕切ってみたり。使い方は住まい手の感性に委ねられています。
ただし、仕切る際に壁や扉をつくるとどうしても空間が狭く感じてしまうもの。木の家平屋では、空間を緩やかに仕切る方法もいくつかご提案しています。

専用のクリップとワイヤーを用いて特にカーテン用の縫製を施さなくても、お気に入りのファブリックで、緩やかに空間を仕切ることができるようにしました。

このようにやわらかなファブリックで緩やかに仕切ることで、程よい解放感を保ちながら、全く同じ間取りを2ベッドルームとして使うことも可能になります。

ちょうどよく仕切る(2)

キッチンとリビング・ダイニングのつながりにも新たな提案があります。
上の二つのプランで使用しているキッチンはシンクとコンロを2列に分けた「2列型キッチン」と呼んでいるもので、通常の1列型のキッチンよりも小さい間口で対面にすることが可能です。動線も自由に設計しやすいので、コンパクトなプランでも使い勝手のよいキッチンです。

陽の家でも採用している2列型キッチン

また、通常の壁付けキッチンを採用した場合でも、キッチンとリビングダイニングを緩やかに仕切る提案として、「パネルカウンター」を用意しました。

これは、無印良品オリジナルの置き家具で、同じく無印良品の組み合わせ自由のユニットシェルフがすっぽり入る仕掛けになっているので、暮らす人が使いやすように収納内容をカスタマイズしながら、キッチンスペースを緩やかに切り取ることができるアイテムです。

木の梁が支える、やさしい広がり

このように限られたスペースだからこそ、全体を一室空間としてつくり、暮らしに合わせて自由に、緩やかに仕切ることで、快適で使い勝手の良い、ちょうどよくコンパクトな家を実現しています。
さらにこのコンパクトな一室空間を支えるのは、木造の接合部に鉄骨を配したハイブリッド構造。木の家 平屋専用に設計・構造計算されたシンプルな架構で、緩やかな登り梁を大胆に見せることで、空間に動きが生まれ、“のびやかさ”をもたらしています。
天井高も一律ではなく変化が生まれ、見た目だけではない機能を生んでいますが、その内容は次回ご説明いたしましょう。

次回は構造、性能、快適性のお話です。

木の家 平屋は、このように、コンパクトな空間を大きく使う空間構成と、それを「自分流に仕切る」提案に満ちた、使い勝手の良い設計となっています。
でも、本当に「ちょうどいい、豊かな家」とは、優しくて力持ち(少ないエネルギーで快適温度保持+高耐震)でなくてはなりません。次回最終回は木の家 平屋の、家としての基本性能の高さを中心にお話したいと思います。