
「ちょうど良い」という豊かさ。|木の家平屋開発秘話・1
住まいのかたち | 2025.4.25
「豊かに暮らしたい」
それはきっと、昔も今も変わらない人間の本質的な願いでしょう。
しかし、その「豊かさ」のかたちは、時代とともに少しずつ変わってきているようです。
かつては「広い家に住むこと」「立派な車を持つこと」「モノをたくさん所有すること」が、誰の目にも分かりやすい“成功”や“幸せ”の証だったように思います。
しかし、今では、モノはすでにあふれ、情報もサービスも飽和状態。
望んでいた豊かさに囲まれているはずなのに、「どこまで行っても満たされない」と感じる人が増えているのではないでしょうか。
「本当に豊かな暮らしってなんだろう?」と考えたとき、「モノの多さ」や「スペースの広さ」ではなく、「自分にとって心地よいか、ちょうど良いかどうか」に重きを置く暮らし方に行き着くのかもしれません。
いずれも国土交通省「建築着工統計」より
最近、「小さな家でいい。」と考える人が増えてきているのはそういう背景なのかもしれません。
小さな家の限られた空間を「我慢」ではなく、「無駄が削ぎ落とされ、必要なものが自然と選ばれていく心地よさ」として捉える感性の持ち主が、確実に増えてきているように思います。
たとえば、モノを収納する場所が限られていると、「本当に使っているもの」「今の暮らしに合っているもの」だけが残っていきます。
選び抜かれたものたちは、どれも手になじみ、気持ちを整えてくれる存在になります。余白ができて、空間にも心にもゆとりが生まれます。
そんなふうに、「小さい」がむしろ豊かさにつながっていくことの心地よさを感じる感性です。
あの大きな建築を手がけてきた建築家ル・コルビジェが、最後に選んだのが、海と空を感じられる最小限の「カップ・マルタンの休暇小屋(キャバノン)」だったのは有名な話です。あの6畳ほどの極小空間がお気に入りだったのは、広さや豪華さでは測れない「引き算の豊かさ」がそこにあったからでしょう。
Wikipedia “Cabanon de vacances”より
もちろん、「小さな家」は、良いことばかり、ではありません。
収納には工夫がいるし、来客の多い人にとっては不便もあるかもしれません。
小さな家で暮らすことは、すべての人にとっての正解ではないでしょう。
でも、その小さなスペースでしか得られない、自分にとって心地よい、「これでいい」という理性的な満足感を発見することは、とても価値あることのように思えます。
無理をせず、比べすぎず、自分たちにとってちょうどいい暮らしのかたちを探していく。
そんな暮らしに寄り添える「小さな家」。
次回は、そんな豊かさを備えた「小さな家」として、無印良品がどのように新しい家のかたちを考えたかご紹介していきたいと思います。