私たちが木造店舗をつくる理由
住まいのかたち | 2024.9.27
木造店舗推進の目的と意義
2024年9月に佐賀県唐津市に「無印良品 唐津」、大分県日田市に「無印良品 日田」がオープンしました。この2店舗は無印良品にとって初の「木造店舗」であり、MUJI HOUSEが設計・施工を手がけました。なぜ木造店舗を建築するのか、その目的と意義についてと、MUJI HOUSEが建築した木造店舗の特長について解説します。
良品計画では、中期経営計画において「ESGのトップランナーを目指す」ことを掲げています。この目標に向けて、創業から40年変わらないESG視点にさらに磨きをかけ、エンドユーザー向けの商品やサービスだけでなく、店舗(建物)にもESGの要素を積極的に取り入れていくことが、木造店舗推進の目的のひとつとしています。
なぜ木造なのか ー木材利用のサーキュラー・デザインー
木材利用の意義
日本は国土の2/3を森林が占める、世界有数の森林国です。長年にわたり、木造住宅が日本人の暮らしを支えてきました。木造住宅は湿気を吸収・放出して湿度を一定に保つ機能があり、高温多湿の日本の気候でも快適に暮らすことができる点が評価されてきました。
森林資源には、伐る・使う・植える・育てるというサイクルを繰り返すことで、循環利用できるという特長があります。健全な森林を育むためには、この循環利用が欠かせません。木を使うことは、この循環を促し森林を守ることにもつながるのです。
さらに、木材は自然素材であり、炭素を多く含みます。そのため建築材料として利用することで、CO2の吸収と貯蔵に貢献できます。また、材料製造時の炭素放出量が鉄やアルミニウムと比べると少ないこと、木造の建築物は鉄骨や鉄筋コンクリート造の建物と比較してCO2排出量が少ないことから、環境への負荷を低減する効果があります。実際、「無印良品 唐津」「無印良品 日田」では、シミュレーション上、鉄骨造店舗に比べて資材の製造におけるCO2排出量を44%※抑えることができると試算しています。また、資材製造から施工、修繕、廃棄・リサイクルまで含めたライフサイクル全体(使用段階除く)では、従来の鉄筋造店舗よりも35%※抑えることができると試算しています。
無印良品の木造建築の実績と技術
MUJI HOUSEでは、2003年より「無印良品の家」を中心とした建築事業を行っており、これまで約3,000棟以上の木造住宅の建築実績があります。木のもつ天然素材ならではの温かみを生かした設計/デザインと、耐震性の高い木造建築物を建築する技術「SE構法」を採用してきました。SE構法は大規模な木造建築物の技術を基に開発された技術であり、耐震性の高さ、従来の在来工法では実現が難しい大空間を実現することができます。
これらの実績と技術を持ち合わせていることで、ムダのない実質本位の木造店舗(建物)を建築することが可能となっています。
木材利用推進協定の締結
MUJI HOUSE、良品計画は、農林水産省と2023年5月に「木材利用拡大に関する建築物木材利用促進協定」を締結しました。この協定は、本協定は、身の回りの物を木に変える、木を暮らしに取り入れる、建築物を木造・木質化するなど、木の利用を通じて持続可能な社会へチェンジする行動「ウッド・チェンジ」の促進により、脱炭素社会および持続可能な社会の実現を目指すことを目的としております。具体的には、木材の利用に関するネットワークや技術を活かし、建設予定の店舗において、一層積極的に国産木材を活用するよう努めること、また、木材利用の意義やメリットについて積極的に情報発信を行い、店舗内においても様々な活動を通じて、木材利用の推進にも取り組んでいくことを予定しております。
木造店舗の特長 ー社会コストの削減・環境負荷の低減ー
『ZEB』認証の取得
ZEBはネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略で、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロかマイナスにすることを目指した建物を指します。無印良品初の木造店舗である「無印良品 唐津」「無印良品 日田」では、4段階ある定義のうち一番エネルギー消費が少ない『ZEB』(カギゼブ)認証を取得しています。床面積2,000m²を超える大規模木造建築でありながら、木造かつ最高ランクの『ZEB』認証を取得した物件は、国内では初となります。
省エネルギーと創エネルギーの取り組み
省エネルギーの要素として、高性能断熱材を含む木造の屋根や外壁の使用、BEMS(Building Energy Management System)の導入があります。BEMSは、人や温度、CO2濃度を感知するセンサーと、空調、照明等に付加した制御装置との組み合わせによって、建物全体のエネルギー使用を計測・管理し、自動で最適なエネルギー管理を行います。創エネルギーの要素としては、太陽光発電と蓄電池を活用し、施設内で使用するエネルギーを創り出しています。
地域への土着化 -地域活性化と良い社会インパクトの創出-
地域材の活用
地域産業支援、物流コストの低減などを目的とし、地域材の活用にも取り組んでいます。「無印良品 唐津」「無印良品 日田」では、外壁材に地域材(佐賀県佐賀市、神埼市、大分県日田市)合計723m³を使用しています。また店内の什器や休憩用のベンチや椅子にも地域材を採用しています。
災害時の被災者支援
高い耐震性を保持する空間と、エネルギーを創出できる本建築物は、被災者支援としての機能を備えています。災害時も想定した建築設計を標準とし、あらゆる状況下で地域に役立つ店舗を目指しています。具体的な機能として以下があります:
充電ステーション:太陽光発電とバッテリーを稼働させ、携帯電話などの充電が可能なステーションを開設できます。
支援物資販売の場:災害後、被災者が必要な物資を販売するため、太陽光からの給電でいち早く店舗機能を回復します。
マンホールトイレ:下水道と直結できるマンホールトイレを備えており、迅速に衛生環境を整えられます。
かまどベンチ:平時にはベンチ、災害時には炊き出し用のかまどとして使用できるベンチです。
地域のまちづくり、産業構築への貢献
店舗をただ建築するだけでなく、地域の社会システムや産業化に貢献するため、地域の方々との「場づくり」を行っています。「無印良品 日田」では、日田市の基幹産業である「林業」への貢献のため、外壁材として「日田杉」を使用し、また、林業を学ぶ大分県立日田林工高等学校林業科・建築土木科の生徒様を対象とした「建築現場見学会」を実施しました。
さらに、災害時の被災者支援の機能の一環として設置した「かまどベンチ」は、日田市立日隈小学校6年生と一緒に製作を行いました。店舗開業後も、ワークショップなどを通じて、地域の活性化を支援していく予定です。
最後に
MUJI HOUSEが提供する木造店舗は、ESGの実践と地域貢献を融合させた取り組みです。環境に配慮した建築技術と地域資源の活用、さらには災害時の支援機能を備えることで、店舗以上の価値を地域に提供しています。この取り組みを通じて、持続可能な社会の実現と地域の活性化に貢献していくことが木造店舗建築の意義と考えます。またこの取り組みは自社だけでなく、今後行政や民間企業へも積極的に提案し、広げていきたいと考えております。