無印良品の家が宿泊施設に?北海道上士幌町に開業した「にっぽうの家」の今

住まいのかたち | 2022.12.6

冒頭の写真に映っている2つの家は無印良品の家の商品「窓の家」なのですが、実はこの2つの家、住居用ではなく、今年4月に開業した北海道上士幌町の公共の宿泊施設なのです。施設のテーマは「これからの新しい「働く」について考える家」。これだけではピンとこないと思いますので、なぜこの施設をつくることになったのか、舞台となっている北海道上士幌町の取組、そして開業して半年がたった今についてレポートします。

北海道上士幌町(かみしほろちょう)とは?

北海道十勝エリアの北部に位置する上士幌(かみしほろ)町は、人口5,000人、食料自給率約3,000%、エネルギー自給率約100%の日本有数のサスティナブルな町です。国が掲げる持続可能な社会づくり、SDGsの視点を取り入れることで「まちの価値」を高めていくという考え方から、スマートタウンの構築、生涯活躍のまちづくり、再生可能エネルギーの地産地消、関係人口の創出による地域経済の活性化を図るなど、経済・社会・環境面において様々な取組を推進しています。

牛の数は約4万頭と人口の約8倍!

無印良品の家を上士幌町につくることになった理由

そんな上士幌町の様々な取組の中のひとつである、「関係人口の創出による地域経済の活性化」の一環として、無印良品の家がつくられることになりました。具体的には、「関係人口=地域と多様に関わる人々、を創出し、新しい働き方の推進を目的とした町外の企業が滞在し、交流ができる施設」をコンセプトとした建物の設計・運営を広く公募され、この理念、取組に共感した当社と、運営事業者として㈱スパイスボックス様の両社で応募し、採用されることになりました。

> にっぽうの家のニュースリリース(2022年4月)

にっぽうの家のニュースリリース(2021年4月リリース)の一部

町の中と外をつなぐ2つの施設の今

上士幌町は、町と外とのつながりをつくるため、上記にてご紹介したにっぽうの家ともう一つ、「かみしほろシェアオフィス」の2つの公共施設を運営しています。開業後、どういった人たちがどんな目的で利用されているのでしょうか。上士幌町役場デジタル推進課シェアオフィス推進員 辻 彩香様に伺ったお話も踏まえご紹介します。

1.かみしほろシェアオフィス
「都市と町をつなぐシェアオフィス」をコンセプトとして2020年7月に開業。「大自然を楽しみながら仕事ができる場所」だけでなく、「地元の人と都市で働く人がつながれる場所」として活用することで町の新たな可能性を引き出せる場所にしていきたい、という目的も踏まえた施設です。施設内にはフリースペースや会議室、また快適に仕事ができる環境が整っています。2階にはベランダがあり、大自然の空気に触れながら仕事をするスペースもあります。

左のロゴは上士幌町と都市がつながるイメージを一筆書きで表現しているとのこと

年間契約している企業は現在約10社(2022年10月末時点)IT関連や広告代理店など様々な業種の方々が利用されています。用途としては、企業内のワーケーション施設としての利用、実証実験など町と新たな取組を行う際の仕事場としての利用、また、町が立ち上げた、地元の生産者・事業者と都会のビジネスパーソンが協働してビジネスを作り出すプロジェクト「かみしほろ縁ハンスPROJECT」の立ち上げメンバーも利用されているとのことです。施設=ハード面だけでなく、縁ハンスPROJECT=ソフト面でも様々なビジネスマッチングにつながる取組も推進しています。あたらしく何かをはじめるきっかけを提供できる、そんな場所を目指して運営されています。
(ちなみに、シェアオフィス推進員辻さんは、町とアートをつなげるビジネス「アーティスト・イン・レジデンス」をぜひ推進したいとのこと。自然を感じながら町の活性化につながる創作活動を行う、、そんなビジネスアイデアがある方はぜひワーケーション助成金を活用してみてはいかがでしょうか。)

シェアオフィスから見える景色は絶景です。ここで働いてるだけで発想力が豊かになりそうです。

> にっぽうの家のニュースリリース(2022年5月)

2.にっぽうの家(無印良品の家)
町の発信基地にして家のような宿泊施設である「にっぽうの家」は2022年4月に開業しました。コンセプト設計や「にっぽうの家」名称は、クリエイティブ・ディレクターの松浦弥太郎さんが制作。本施設は都市部の関係人口だけでなく、周辺地域とのつながりや上士幌町の活性化にも役割を担うことが期待されています。

「窓の家」をベースに設計された建物が2棟並び、最大4部屋8人が宿泊できます

三角屋根の家に自由に窓を設計できる「窓の家」を2棟建設。太陽の光を十分に取り入れ、また町の景色を眺めることができる窓を配置、室内は白を基調とし、ほとんどの家具や雑貨は無印良品の商品を設置しています。リビングや各部屋にはデスク、Wi-Fiを完備、また建物の裏側にはウッドデッキと庭があり、室内外どちらでもゆっくりと過ごすことができる施設です。

室内ほぼすべての家具・家電は無印良品の商品にすることで、統一された世界観を演出

開業以降、企業合宿や「かみしほろ縁ハンスPROJECT」でマッチングした企業、ワーケーションで訪れる人などが上士幌町に滞在する際に使用されています。また、宿泊だけでなく、室内外で仕事や会議をされる方もいたり、かみしほろシェアオフィスと兼用して仕事をされる方もいたり、様々な用途で利用されています。さらに、上士幌町が主催するオンラインイベントの会場になったり、無印良品の出張販売の会場となったりと、まさに町の発信基地としての活用も増えていっているとのこと。今後はかみしほろシェアオフィス同様、町の事業者さんの困りごとを解決するための滞在場所として使用してもらう、や周辺地域の観光とセットでここで仕事をしてもらう誘致活動など、町と都市の交流が活発になり、より賑わいのあるまちの基点となる役割が期待されます。

宿泊者のために町内の移動に使える自転車を貸出(町の主要部分は自転車で行くことができます)

無印良品の家が今後目指すもの

2022年9月に開催された無印良品移動販売の様子

無印良品の家は住空間づくりを起点に「感じ良い暮らしの背景でありたい」と数々の家を生活者に提供しております。一方で上士幌町は、その町づくりから町の人々へ提供したい「感じ良い暮らし」を掲げています。両者の目指す「感じ良い暮らし」には共感性が高く、今回の取組の実現に至ったと考えております。また生活者の暮らし方や働き方は大きく変化しており、当社が掲げる「感じ良い暮らしの背景でありたい」というビジョンは住宅以外でも必要とされる場面が今後増えてくるのではないかと思います。今後も官民問わず、私たちの理念である「感じ良い暮らし」に共感いただける方々と、様々な取組をこれからも推進してまいります。