「借りて住む」のは魅力的? 新しい時代の賃貸住宅のかたちとは

住まいのかたち | 2022.6.6

戸建て住宅を販売する立場からは少々扱いづらいテーマではありますが笑、今回は「借りて住む」ことについて考えてみたいと思います。家を「借りる」のと「買う」のでは、どちらが得かについては、よく議論されるところではないでしょうか。

「家を買う=人生のゴール」ではなくなった背景

昭和の高度成長期からバブル崩壊までは、多くの人が一軒家を購入することを人生のゴールとする風潮がありました。日本の場合、建物の価値(不動産査定額)は経年で下がることが多いのですが、そのころの土地の価値は必ず上がるもの、だったからです。損得勘定で言えば、借りるより買った方が得をするに決まっていたのです。

ところが、いまでは土地の価値は一部のエリアを除いて下がる傾向にあります。かといって、人生100年時代となり、ずっと賃貸でいることの不安もあり、家を所有する、借りるのはどちらが得なのか簡単に結論を出しにくくなっているのではないでしょうか。

「買って住む」に対する懸念

借りて住むか、所有して住むかの議論では「家賃の支払い」と「ローン返済+メンテナンス費用」の比較が多くなされますが、それだけでは「どんな暮らしをするのか、したいのか」という肝心なポイントを見落としがちです。

家は言うまでもなく「暮らしの器」ですから、家によって暮らしのかたちは制限されます。そしてこの暮らしのかたちは、年齢、家族の人数、職場など、必ず変遷します。

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ということは、家のかたちも本来変わっていかなければならないはずなのですが、日本では「家は一生に一度の買い物」と言われるように、一度買った家にずっと住み続ける場合が少なくありません(その裏側には、住宅ローンの残債より家の価値が下がっていくという事情もあるようです)。

一般的な家では、たとえば結婚したばかりの夫婦二人でも、将来生まれるであろう子供たちの部屋も用意した大きな家を買わなければなりません。逆にその子供たちが独立してまた二人に戻った時に大きすぎる家に住み続けることを前提に、大きな家のローンを払い続けることになりそうです。

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戸建住宅の間取りは、LDK(リビング、ダイニング、キッチン)に、夫婦の寝室、子供2人のための2つの個室という「3LDK」が一般的ですが、30年間ずっと4人家族で住み続けるわけではないので、不要な部屋が物置になってしまったり、欲しい部屋が増えても我慢したり、ということが起きがちです。

「無印良品の家」では、「永く使える、変えられる」を基本コンセプトとした自由に編集できる一室空間をご提案しています。

家の中を細かく仕切らずに1つの大きな空間をつくり、家族人数や暮らしのかたちの変化に合わせて、家具や建具などで仕切りを変えながらずっと暮らしにフィットした家で有り続け、かつ開放的で気持ちがよい、という仕組みが「一室空間」です。この一室空間は、構造や断熱性能が、普通の家よりはるかに高くないと実現できないのですが、そこはもちろんクリアしています。詳しくはこちらをご参照ください。

「借りて住む」のメリット

一方で、借りて住む場合はどうでしょう?

いつでも暮らしのかたちが変わるたびに住み替えていけばよいので、常にそのときの暮しにぴったり合った大きさの家に住むことができそうです。家のかたちに捉われて、暮らしのかたちを変化させることに躊躇しなくて済むともいえます。

そうして住む人が流動的な賃貸住宅のある街は、住んでいる人の年齢も多様で、一様に高齢化していくということもなく、いつも活気に溢れている傾向にあります。対照的に、大量に開発された大型住宅地では、同時に住み始めた人が入れ替わることなく一緒に歳をとるので、街全体の住民年齢が高齢化してしまう、という問題も起きているようです。

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人生100年時代、仕事を引退してからもずっと家賃を払い続けなければならない不安は否めないものの、「自由に移り住める」というメリットを十分に活かし、常に身の丈に合ったサイズの家で暮らしていれば、仕事を引退するまでの家賃比較で、ローン返済より累計で安く済むのではないでしょうか。

その余剰分だけでは足りないかもしれませんが、子供たちが独立してまた夫婦二人に戻ったときに、「終の棲家」として、静かな場所(土地が安い場所(笑))に、小さくても気持ちの良い家を持つ、という手もありそうです。

「借りて住む」のデメリット

一方で、「家を買おう」と決心するきっかけは、「子供が生まれていま住んでいる賃貸住宅が手狭になった」というのと、「好きなテイストの家に住みたい」というのが、最も多いといいます。

言い換えると、多様な家族構成、暮らしのかたちに対応できる質の高い賃貸住宅が日本には少ないということではないでしょうか。

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性能面でも、持家住宅は、断熱・気密性能や省エネ性などの快適性能がどんどん進化していますが、賃貸住宅はまだまだ遅れているようです。「賃貸住宅」は「仮の宿」だから、こんなものでよい、と大家さんも借りる方も思ってしまっているのかもしれません。

日本に家が足りない時代はそれで良かったかもしれませんが、家余りが進むこれからの時代には、いままでのような発想の賃貸住宅では借り手がつかないことが多くなるかもしれません。実際ほとんど住む人が居なくなっているワンルームアパートが増えてきたように思います。

「借りて住む」の未来

ではこれからの時代、どのような賃貸住宅が、望まれるでしょう?
たとえば、断熱・気密性能を上げて少ないエネルギーで常に快適性を保てるようにすれば、1ヶ月で使う光熱費はおおよそ予測することができます。高性能なWi-Fiも入れて、光熱費と通信費込みの家賃設定にすれば、賃貸住宅としての競争力が増し、大家さんにももちろん借りる人にも魅力的になるのではないでしょうか。

あるいはほんの少しでも住民同士がコミュニケーションを取れる場をつくったり、一人暮らしから、ファミリー、高齢者といろいろな世代が暮らせる間取りを用意することで、コレクティブハウス的に相互補完できる暮らしを提供したり、と賃貸住宅が本来持つメリット・魅力を発揮できるアイデアは、たくさんありそうです。

「こんな賃貸住宅があればいいのに」というみなさんのアイデア、ご要望、ぜひお聞かせください。みなさんのご意見、お待ちしております。