無印良品の家が目指しているのは「見かけのシンプルさ」ではありません
住まいのかたち | 2015.11.3
無印良品の商品イメージをお聞きすると、多くの方が「シンプルなデザイン」と答えられるようです。もちろんそれは間違っていません。しかし意外かもしれませんが、「シンプル」であることが決して私たちの目標ではありません。シンプルを追求することで、もしも本当に必要な機能を諦めなければならないとすると、それは本末転倒だからです。
無印良品の商品がシンプルなのは、シンプルであることを目標にしているのではなく、デザインの過程で、その商品の「本質に関わらない無駄なものは省く」という作業を徹底的に繰り返した結果である、ということではないでしょうか。
無印良品の家についても同じことが言えます。「木の家」のデザインは、特に「シンプル」という点で、他の家と異なる個性的な「かたち」となっています。しかし、これは、差別化のために見た目のシンプルさを目指したのではありません。住む人が、自分の暮らしに合わせて自由に空間を編集でき、かつ太陽の恵みや心地良い風が家中に行き渡るように考え抜いた結果「一室空間」という簡素な空間にいきついたのです。
そして、構造的に難しい一室空間を柱や梁(はり)をむやみに太くするなどの力技ではなく、力学的に合理的な設計で成り立たせることを追求した結果、究極にシンプルな構造になり、従って家のデザインとしても他に類を見ないシンプルなものになっているのです。
(コラム「新性能、価格の理由」もぜひご覧ください。)
今回は、そのような無印良品の家の設計手法を、具体例をあげてご紹介しましょう。
上図は、5間×5間、延床面積122.55m²(37.07坪)の「木の家」の標準的なプラン例です。
最も合理的な家のかたちである、矩形(すべての角が直角の、四辺形、長方形)の箱に、1階も2階も一室空間で設計され、太陽の恵みと風を取り入れるための大きな窓が、南側に配置されています。
無印良品の家は、SE構法という強靭な構造躯体でこのような一室空間を実現しており、強度的には何の問題もないのですが、「構造の合理性を追求する」という観点からは、実はまだ改善の余地があるプランと言えます。
「本質の追求のために徹底して無駄を省く」ことを目指している無印良品としては、100点満点ではなないのです。
では、なぜ「100点満点」ではないのか、見ていきましょう。
上記の赤い丸で囲まれている柱は「通し柱」と言って、1階から2階まで通しで入っている柱で、この柱をなるべく均等に格子状に整然と並べることが、耐震性能を確保しつつ構造を合理化するうえでとても重要になります。
このプランの場合、1階の玄関/水まわり/階段の位置をまず決めて、次に通し柱の位置を後付けで決めているために、「構造の最大限合理化」という観点から見ると、通し柱が理想的な配置にはなっていないのです。
このプランの場合、そのような最も合理的な構造例として、無印良品の家では、あらかじめ下図のように青丸に通し柱を配置した骨格(スケルトン)が用意されています。
もちろん最初のプランでも、SE構法であれば高い耐震性を得ることはできますが、上図(青丸の柱配置)であれば、最小限の構造材で同等の耐震性を達成することができるのです。
しかし、この柱の配置では、今のプランは、階段の位置に梁が当たって成り立ちません。
そこで、この理想的な通し柱の位置に合わせてプランを変更したのが、以下です。
いかがでしょうか。プラン変更前と後では、プランを考える過程が全く異なります。
変更後のプランは、構造の合理性と同時に考えましたが、階段やトイレの位置を少し変えただけで、間取りとして求められている機能は変えずにすんでいます。
2階に独立した柱が2本ありますが、これは将来間仕切りを追加する前提であれば、むしろこの柱を元に壁などを追加しやすくなると言えるでしょう。
また、「木の家」の場合は、美しい木造の構造を見せる、という意図で、構造材を見せるデザイン仕様(真壁づくり)を用意しており、その場合は上図の変更前と変更後の構造材の見え方を比べていただいてわかるように、見た目の簡潔性にも違いが出て来るのです。
このように、家を設計する、ということは、平面的な間取りだけで考えるということではなく、立体的に構造をいかに合理的に組むか、ということを同時に考えることが、とても大事だと無印良品では考えています。
構造の合理化を考えることで、家は「見かけだけのシンプルさ」ではなく、無印良品が全ての商品で追求している、「本質的に無駄のないかたち」に昇華されるという考え方です。
皆さんは、このような家の設計の考え方について、どのようにお考えになりますか。ぜひ、ご意見をお聞かせください。