老後を見据えたリノベーションについて教えてください

リノベーションなんでも相談室 | 2025.4.15

ご質問

新築から長く暮らしたマンションのリノベーションを検討しています。老後の暮らしを見据えて工夫すべきことがあれば教えていただけますでしょうか

ライフステージの変化や内装の劣化をきっかけとして、住み慣れたマンションのリノベーションを検討される方が増えているようです。せっかく大がかりなリノベーションをするのであれば、老後の暮らしも想像しながら、長期的に暮らしやすい住まいをつくりたいものです。

今回は、老若男女問わず幅広い住まいづくりのお手伝いをしてきた、宅地建物取引士でファイナンシャルプランナーの”こっしー”が、老後を見据えたリノベーションについて解説してまいります。

暮らしと住まいの関係性が変わる

老後を見据えたリノベーションについてのご質問ということですので、まずは、老後に住まいとの関わり方がどのように変わるのかというところから検討してみましょう。日中は働かれている方であれば、平日の在宅時間は帰宅から出勤までの限られた時間となります。朝8時に家を出て、20時に帰宅する場合、通勤時間もあわせて1日あたり12時間、1週間あたりでは60時間は仕事のために家を空けているという計算です。仕事をリタイアした後は、趣味でのお出かけなどはあるでしょうが、仕事をしていたころからは想像ができないくらい長い時間を家で過ごすことになるのです。

在宅時間が長くなることに加えて、身体の衰えもかさなりますから、これまで気にならなかった些細なことが生活の不満として顕在化してくるかもしれません。たとえば、ちょっとした段差や設備の劣化、冬の寒さや夏の暑さなど、あまり意識してこなかったところが目につくようになることも珍しくありません。このような不満を取り除くことができれば、暮らしの満足度は大きく向上するのではないでしょうか。

リノベーションでやるべき工夫

つぎに、いまの住まいの不満を解消し、よりよい住まいをつくるために、リノベーションでできることについて考えてみます。老後を見据えた住まいづくりということですから、若い時とはまた違った工夫が必要になるのです。

工夫(1)段差を少なくする
数センチ程度のちょっとした段差は、家の中での転倒事故の原因となります。中古マンションの室内を見渡すと、廊下と洗面室、廊下とトイレ、リビングと和室など、いろいろなところに段差があることがわかります。このような段差を解消するためには、二重床の施工をすることが有効です。玄関框はある程度高さがあった方が腰かけやすいということもありますから、玄関から廊下に上がるところで段差をつけて、その他は室内に段差のないつくりにするとよいでしょう(図1)。

図1. 二重床で高さを調整する

工夫(2)なるべく引き戸を採用する
開き戸を引き戸に変更するということも暮らしやすさに直結します。開き戸の場合、開け放った状態にしておくと邪魔になり、ただでさえ狭い廊下を圧迫することもあります。開閉スペースは無駄にもなりますし、開き戸同士が干渉している間取りも珍しくありません。将来的に杖や車いすを使う可能性も考慮して、寝室もトイレもなるべく引き戸へ変更するとよいでしょう(図2)。

図2. 引き戸を採用したトイレ

工夫(3)寝室とトイレの動線を考える
リノベーションにおける水回りの移動にはさまざまな制約がありますが、可能な範囲で寝室とトイレの動線を見直してあげるのも効果的です。歳を取るとトイレに行く頻度が増えますから、なるべくシンプルな動線となるように気を付けたり、十分な通路幅を確保したり、人感センサーの照明を採用したりするなど、将来的なリスクを見越した設計をするのもおすすめです。

工夫(4)手すりの設置について検討する
足腰が弱ってくると、お風呂の出入りやトイレから立ち上がる際など、手すりが必要になることがあります。その他にも玄関や廊下、ベッドの脇など、いくつか手すりを設置しておきたいところもありますから、間取りに合わせて手すりの設定も計画するとよいでしょう。ただし、いますぐには要らないところもあるでしょうから、そのような箇所については、将来的に手すりの設置ができるように下地補強を行っておくと、いざというときにスムーズに手すりが取り付けられます。

工夫(5)ヒートショック対策を行う
家の中での温度差が大きくなると、ヒートショックの被害にあうことがあります。冬場に、暖かいリビングから寒い廊下を通り、寒い脱衣室で衣服を脱ぎ、熱い湯船に入ることで、重大な事故につながってしまうのです。リスクを小さくするためには、室温を高めること、家の中での温度差を小さくすることが肝心です。リノベーションの際には断熱性能の向上と、空気の通る間取りの工夫を行うことで、どこにいても暖かい空間をつくるとよいでしょう(図3)。

図3. 断熱改修の様子

安心も、心地よさも。

リノベーションというと「見た目重視なおしゃれなもの」というイメージを持つ方もいるでしょうし、老後に向けたリフォームというと「デザイン性度外視の無機質なもの」を想像する方もいるかもしれません。実際には、きちんと計画をすることによって、デザイン的な整合性と安全性や使い勝手を両立した心地よい住まいを、リノベーションを通じてつくることができるのです。

いざ大がかりなリノベーションをしようと思うと、片付けや仮住まいが必要になりますし、間取りや設備仕様を具体的に考えるために労力を使うことになります。誰にとっても、いまこの瞬間が一番若い時ですから、なるべく元気なうちに将来を見据えた住まいづくりを考えはじめてみるとよいのではないでしょうか。

今回は、老後を見据えたリノベーションについて解説しました。私が実際にご相談を受けるなかでも、いつかはリノベーションをしたいがいつやるべきかがわからない、老後資金を考慮するとどこまでお金をかけてよいのかがわからない、などさまざまなご不安を耳にします。リノベーションの工夫だけでなく、現実的な資金計画を立てることなども必要になりますから、思い立ったが吉日、具体的な検討をスタートしてみてください。

無印良品のリノベーション「MUJI INFILL 0」では、ご所有マンションのリノベーションのご相談も承っております。老後を見据えた住まいづくりのご興味をお持ちの方は、リノベーションセミナーや相談会にお越しください。

みなさんからのご質問もお待ちしています!/

リノベーションなんでも相談室

“こっしー”プロフィール

無印良品のリノベーションで働く、“こっしー”こと大越 翔は、自身の自宅も含めて100以上のリノベーションを担当。
宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー、マンション管理士としての知見を生かしながら、さまざまな物件と向き合ってきました。
みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問にコラムを通じ、お答えします。

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