長期修繕計画とは、なんですか?
リノベーションなんでも相談室 | 2023.4.25
中古マンションを購入する際には、修繕計画をあらかじめ確認することが大切だと聞きました。マンションの長期修繕計画とはどのようなものなので、なにを確かめればよいのでしょうか
中古マンションを選ぶ際には「立地」「広さ」「築年数」などさまざまな要素を検討することになりますが、忘れてはいけないのが「管理状態」です。今回ご質問いただいた長期修繕計画というのは、マンションの管理状態を把握するための重要な資料のひとつといえます。聞いたことがあるようで詳しくはわからない、長期修繕計画とはどのようなものなのでしょうか。
今回は、築古マンションの理事も経験した、宅地建物取引士でマンション管理士の”こっしー”が、マンションの長期修繕計画について解説してまいります。
長期修繕計画の基礎
まずは長期修繕計画とは何者なのか、基礎的なところから見ていきましょう。読んで字のごとく、マンションの長期的な修繕計画案であり、向こう30年から50年程度の修繕工事の時期・項目・費用を可視化したものになります。国土交通省の長期修繕計画標準様式からの引用になりますが、イメージとしては図1のようなかたちです。字が小さすぎて読めないのは諦めるとして、上部のグラフでは、期間中(図1では30年)に積み立てられる修繕積立金の累計額、修繕工事費の累計額、各年度の修繕積立金の残高などが図示されています。下部の表は、いつ・何に・どのくらいお金がかかるのか、ということが書かれています。
では、長期修繕計画は何のためにつくられるのでしょうか。このコラムの読者ならもうおわかりかもしれませんが、答えは「適切な修繕積立金の徴収額を決めるため」です。マンションの区分所有者は、区分所有者であり続ける限り、毎月修繕積立金を支払うことになります。毎月の修繕積立金の金額を適当に決めていては、いざ修繕工事が必要になったときにお金が全然足りない、という事態にもなりかねません。長期的に必要となる修繕工事費用から逆算することで、現在の修繕積立金が適切なのか、あるいは、安すぎるとしたらいつ・どのくらい値上げ(適正化というべきでしょうか)をすべきなのか、ということが議論できるわけです。
長期修繕計画で確認すべきポイント
長期修繕計画の基礎をおさえたところで、ここからは具体的な長期修繕計画の見方について考えてみましょう。はじめにお伝えしておくと、長期修繕計画に記載された各項目の工事内容や費用については、簡単に妥当性が確認できるものではありません。あくまで、マンション購入を検討する際に最低限ここは見ておきましょう、という趣旨になりますのでご理解ください。
見るべきポイント(1)計画の作成日・更新日
仲介会社などから気になる物件の長期修繕計画を共有してもらったら、その作成日や更新日を真っ先に確認しましょう。ここ最近の物価高騰からもわかるように、10年前に作成した修繕計画した通りの内容・金額で工事を行うのは、もはや不可能といえます。国土交通省のガイドラインでも示されている通り、概ね5~7年程度での更新は必要となりますので、手元の長期修繕計画が適切に更新されているか否かを確認しましょう。
見るべきポイント(2)修繕積立金の繰越額
次に確認したいのは、各年度の修繕積立金の繰越額です。図2は長期修繕計画を模式的に表したものになりますが、このケースでは赤破線で囲った部分において、次年度繰越金がマイナスとなっています。要するに赤字が見込まれているということですから、このままでは計画通りの工事を行うことができないのです。修繕積立金の繰越額にマイナスがある場合には、次のポイント(3)もチェックしましょう。
見るべきポイント(3)修繕積立金の改定案
資金不足への対策として、修繕工事時期や内容の見直しという支出の調整と、修繕積立金の改定や金融機関からの借入という収入の増加という方法があります。これらを組み合わせて対策を練ることとなりますが、長期的に安定した財政基盤をつくるという意味では、修繕積立金の改定は避けて通れないでしょう。長期修繕計画の中に赤字対策案の提案がなされていることもよくありますので、図2の青破線のような修繕積立金の改定案が検討されているのであれば、自分が購入を希望する住戸ではどのくらいの値上げ幅になるのか、忘れずに確認をしましょう。
見るべきポイント(4)計画されている修繕内容
修繕内容を細かくチェックする必要はありませんが、特に重視すべき項目については、そもそも長期修繕計画の中に見込まれているのかを確認しましょう。大規模修繕工事は当然に見込まれているとして、その他には、共用排水管の更新工事・共用給水管の更新工事・エレベーターの更新工事・機械式駐車場の取り換え工事・窓サッシの交換工事・玄関ドアの交換工事あたりの想定の有無を確認しておきたいところです。
長期修繕計画は万能ではない
長期修繕計画は、マンションの管理状態を判断する上で重要な資料のひとつであることは間違いありませんが、あくまで計画にすぎないという点は正しく理解をしておきましょう。いまの物価、いまの人件費、いまの税制をもとに計画を立てますから、すでにご説明した通り、将来の物価などの変動を全て織り込むことはできません。また、マンションの状態次第で必要な修繕工事の程度が変わってきますから、緊急の工事が発生することもあれば、工事を大きく先送りできる場合もあります。計画通りに遂行すること自体に意味はありませんから、修繕工事の範囲を決めるための事前検査を実施するなど、より実態に即した修繕工事を行うことが大切です。
一般的には、マンションの管理会社が作成した長期修繕計画に基づいて、半ば自動的に修繕工事を行っているマンションも多いように感じます。そのようなケースでは、必要のないところまで余計なお金をかけて修繕工事を行うことになるかもしれません。マンションを購入する段階で、そこまで細かく確認することは困難ですが、可能であれば総会議事録なども見てみるとよいでしょう。
今回は、長期修繕計画について解説しました。マンション総合調査によれば、マンション購入の際に長期修繕計画を確認する人は増加傾向にあります。2022年にはじまった管理計画認定制度では、長期修繕計画の内容や修繕積立金の水準を重要な要素と捉えています。それらの事実を踏まえると、今後はますます「マンションを管理で買う」時代にシフトしていくことが容易に想像できます。長期修繕計画、是非皆さんもチェックしてみてください。
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“こっしー”プロフィール
無印良品のリノベーションで働く、“こっしー”こと大越 翔は、自身の自宅も含めて100以上のリノベーションを担当。
宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー、マンション管理士としての知見を生かしながら、さまざまな物件と向き合ってきました。
みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問にコラムを通じ、お答えします。