床暖房は必要でしょうか?

リノベーションなんでも相談室 | 2022.11.15

ご質問

中古マンションのリノベーションをするにあたり、床暖房を入れるかどうか、迷っています。床暖房は、あったほうがよいのでしょうか

足もとがポカポカと暖まる床暖房は、一度使うとやみつきになりますよね。魅力的ではあるもののコストもかかるのが床暖房ですから、リノベーションの際に導入するべきか否かは、じっくりと考えたいところです。果たして、マンションに床暖房は必要なのでしょうか。

今回は、100組以上のリノベーションのお手伝いをしてきた“こっしー”が、床暖房の特長やその必要性について、解説してまいります。

床暖房は、どんな暖房?

私たちが普段扱っている築20年以上経過したマンションでは、床暖房の設置状況はまちまちですが、最近の新築マンションにおいては、ほとんどの物件に床暖房が設置されています。東京カンテイの調べによれば、2013年以降に供給された、首都圏の新築マンション(総戸数100戸以上のもの)では、床暖房の設置率が8割を超える水準となっています(図1)。

図1. 新築マンション床暖房設置率(首都圏、100戸以上)

もはや、あって当たり前になりつつ床暖房ですが、そもそもどのような特長を持つ暖房器具なのでしょうか。住宅で一般的に利用される、その他の暖房器具と比較しながら、メリット・デメリットについて見ていきましょう(表1)。

表1. 主な暖房器具の比較

床暖房 石油ストーブ エアコン
暖房方式 輻射式 対流式 対流式
送風の有無 無し 有り 有り
空気の汚染 無し 有り 無し
立ちあがりの早さ 遅い 早い
※範囲は狭い
早い
※広範囲
省エネ性 低い
※ヒートポンプ式を除く
普通 高い
上下温度差 小さい 大きい 大きい
※高性能住宅では小さい

床暖房は、風のない輻射式の暖房器具であるため、運転することでホコリが舞ったり、空気を汚したりすることがありません。また、床面のほのかに暖められた空気は上へと移動しますから、自然と室内の上下方向の温度差が小さくなり、不快に感じることが少なくなります。「暮らし創造研究会」によれば、暖かい床の上で過ごすことで、高齢者の高血圧予防や活動量の増加、こどもの中耳炎やぜんそくの発生確率を下げる効果があることもわかっており、床暖房は体に優しい暖房器具といえそうです。

一方で、エアコンのように早く広範囲を暖めることは、床暖房ではできません。さらに、一般的に普及しているガス温水式や電気式の床暖房では、エアコンのように高効率で熱をつくることはできないため、広範囲を床暖房だけで暖めようと思うと、エアコンの2倍以上のエネルギーを使う場合もあるのです(表2)。床暖房はメインの空調として活躍できるほどの実力は持ち合わせていないようです。

表2. 床暖房とエアコンのエネルギー消費用比較

(6地域) モデル住戸の断熱仕様(熱橋補強有り)
平成4年仕様 平成28年仕様 平成28年仕様 超
床暖房のエネルギー消費量
(対エアコン比)
2.10 1.92 1.69

桑沢保夫 他「集合住宅の床暖房による一次エネルギー消費量に関する研究」より

寒い家には、床暖房がおすすめ

床面からじわじわと低温で暖める、という床暖房の特長を踏まえると、じつは床暖房は断熱性・気密性の低い家、いわば「寒い家」に向いている暖房器具であるといえます。すぐに熱が逃げてしまう寒い家をエアコンで暖めようとすると、風量を多くし、吹き出し温度を高くする必要があります。ゴォゴォと熱い風が吹き付け、熱い空気は室内の上部に溜まり、床は暖まらずに上下温度差が大きくなるという、なんとも悲しく不快な状況が生まれかねないのです(図2)。

図2. 低断熱・低気密の室温イメージ

もちろん、リノベーションによって寒い家から脱却できればよいのですが、いざ断熱改修を行おうと思うと、解体を含む大規模な工事が必要となります。体力的・経済的理由などでそこまではできないという方もいるでしょうから、その場合は、床暖房だけ追加するというやり方もよいでしょう。エネルギーを余計に消費するということに目をつむれば、寒い家が暖かく感じられる家へと生まれ変わるはずです。

性能向上をするなら、床暖房は不要

だいぶ回り道をしましたが、「リノベーションで床暖房は必要か」というご質問にお答えします。個々人の好みもあるので回答が難しいのですが、「リノベーションで断熱性・気密性の向上をするなら、床暖房は不要です。ただし、欲しければつけてくださいね」というくらいにしておきましょう。

リノベーションによって、マンションの強みである気密性の高さを強化し、さらに壁や窓の断熱性を向上することができれば、先ほどの「寒い家」のように熱を垂れ流すことがなくなります。そうなれば、エアコンが高温・大風量で運転する必要がなくなりますから、エアコンの風で不快に感じることも減るでしょうし、ぬるい空気で部屋を暖めることにより室内の上下温度差も小さくなります(図3)。床暖房のように床が暖かくなることはないですが、とはいえ床が冷えることもなく、エアコンだけで充分快適で省エネ性の高い空間をつくることができます。

図3. 性能向上でエアコンでも全体を暖める

さらに、冬季において、リビングも廊下も寝室もトイレも、どこにいても18℃以上の室温を保てるような住まいづくりが求められています。そのような住まいを実現するためには、強力かつ省エネ性の高いエアコンで家中を広範囲に暖めるとよいでしょう。その上で、滞在時間の長いリビングなどには、補助の暖房器具として床暖房を利用するというのはよい考えです。暖かい床が気持ちよいのは間違いありませんが、まずは性能を整えて、余裕があれば床暖房も設置する、という順序で検討を行うとよいでしょう。

今回は、床暖房について解説しました。ここまで普及が進んでいる床暖房ですが、断熱性・気密性の高い新築マンションには、そもそも設置しなくてもいいのではないかという疑問も残ります。もはや標準設備となったために、つけないわけにはいかないという事情があるのかもしれません。あるいは、日本人は、局所的な暖房が相変わらず大好きなのかもしれません。リノベーションの際には、床暖房の設置の有無を自分自身で決めることができますから、まずは性能向上を行った上で、好みと予算にあわせて計画を立ててみてください。

無印良品のリノベーション「MUJI INFILL 0」では、寒いマンションでも快適な空間に再生できる性能向上リノベーションを提供しております。ご興味を持たれた方は、リノベーションセミナーや相談会にお越しください。

ご自宅の性能向上リノベーションをお考えの方には、11月18日(金)より大相談会を開催します。

みなさんからのご質問もお待ちしています!/

リノベーションなんでも相談室

“こっしー”プロフィール

無印良品のリノベーションで働く、“こっしー”こと大越 翔は、自身の自宅も含めて100以上のリノベーションを担当。
宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー、マンション管理士としての知見を生かしながら、さまざまな物件と向き合ってきました。
みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問にコラムを通じ、お答えします。

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