マンションでも「断熱」は必要ですか?
リノベーションなんでも相談室 | 2021.11.9
みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問に、趣味=中古マンションの“こっしー”がお答えする「リノベーションなんでも相談室」のお時間です。
今回お答えするご質問は、こちら。
「不動産屋さんと中古マンションの内覧をした際、『マンションは断熱なんて気にしなくて平気です』と説明を受けました。実際、マンションでも断熱を意識する必要があるのでしょうか」。
私も仕事でさまざまな不動産屋さんとお話しをしますが、同じようなことをいわれたことがあります。残念ながら、建築的な知識や住宅性能について理解のある不動産営業マンは多くないというのが実際のところです。今回は、マンションにおける断熱の必要性について解説してまいります。
断熱性能が低いとどうなる?
そもそも、住宅においてなぜ断熱が必要なのか、というところから話をはじめましょう。以前のコラム「寒い家は、体に悪いのでしょうか?」でも紹介したように、人々が健康的に日々を過ごすためには、室内が適切な温湿度環境であることが大切です。快適な環境をつくるために、冷暖房に大量のエネルギーを投じるという方法も考えられますが、断熱性能を整えることで、より少ないエネルギーで快適な環境をつくれるようになるのです。使用するエネルギーが減れば電気代も抑えられるので、地球環境にもお財布にも優しいわけです。
ところで、みなさんは「マンションは冬でも暖かい」というイメージをお持ちではないでしょうか? 隙間が少ない(=気密性が高い)、外気と接する面が少ないという鉄筋コンクリート造のマンションの特長もあり、マンションは暖かいというイメージはあながち間違いではありません。しかし、コンクリート自体は断熱性の低い素材です(図1)。外気温の低い冬場には、コンクリート自体が冷やされますから、断熱をしなければ冷えたコンクリートが室内の熱をどんどん奪ってしまうのです。夏場は反対に、ただでさえ暑い室内を、コンクリートが温める方向に作用してしまいます。
マンションにおいても断熱性能が低いと、冷房/暖房をかけてもなかなか部屋が冷えない/暖まらない、窓辺が暑い/寒い、窓が結露する、壁が結露する、カビが生える、冷暖房を使用している場所とそれ以外の場所の温度差が大きくなる、などさまざまな問題が発生してしまいます。電気代やメンテナンス性、健康に影響する問題ですから、マンションであっても断熱については無視できる存在ではありません。
一応の基準はあるものの
もちろん、コンクリート自体の断熱性が低いというのは周知の事実ですから、よほど古いマンションを除いては、新築時から一応の対策がなされています。築40年を超える古いマンションや団地においては図2(a)のような、いわゆる無断熱の施工も見ることもありますが、多くは図(b)のように、新築時に断熱材が施工されています。
多くのマンションにおいて断熱材の施工はなされているものの、築年数の経過した中古マンションにおいて十分な施工、つまり現在の省エネ基準を満たすような施工がなされているものは一握りしかありません。図3では、新築住宅の省エネ基準への適合率の推移を示していますが、2010年以降に新築された大規模住宅でも50%程度の適合率しかないことがわかります。国土交通省が発表している平成29年度の数字を見ても、大規模住宅の適合率が60%となっていますから、リノベーション対象となるような中古マンションについては、断熱性能が不足している、と考えるのが賢明です。
中古マンションでは、断熱性能に要注意
ここまでのお話の通り、「マンションでも『断熱』は必要ですか?」というご質問への答えは、「はい、必要です」となります。最近の新築マンションであれば、高い断熱・省エネ性能を売りにするものも出てきていますから、あまり心配はいらないでしょう。ところが、それなりに築年数の経った中古マンションを選ぶとなると、ほとんどが性能不足となりますから、正しい知識をもとに判断する必要があります。
もっとも、中古マンションを購入してリノベーションをして暮らす、ということであれば、性能不足はリノベーションで補うことができます。壁面や窓、場合によっては天井や床面の断熱改修を行うことで、現在の断熱基準に適合させることができますから、設計士やリノベーション会社に依頼する際には、性能向上も合わせてリクエストしてみてください。世の中には無断熱だけど素敵なリノベーション事例もありますが、「おしゃれは我慢だ!」という強い覚悟がある方を除いては、マネしない方がよいかもしれません。
今回は、マンションでも断熱が必要か、という点について解説しました。じつは、私自身も無断熱・低気密のマンションで暮らした経験がありますが、とくに冬場の寒さは厳しいものでした。断熱性能は目に見えないけれど大切なものだと痛感したものです。無印良品のリノベーション「MUJI INFILL 0」では、断熱性能の向上を標準仕様として提供しております。ご興味を持たれた方は、リノベーション講座や相談会にお越しください。
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“こっしー”プロフィール
無印良品のリノベーションで働く、“こっしー”こと大越 翔は、自身の自宅も含めて100以上のリノベーションを担当。
宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー、マンション管理士としての知見を生かしながら、さまざまな物件と向き合ってきました。
みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問にコラムを通じ、お答えします。