【MUJI×UR トークイベント】藤野千夜先生と語る、団地の魅力と未来(前編)
MUJI×UR団地レポート | 2026.3.20
※このレポートは、2026年2月7日(土)に無印良品東京有明で行われたトークイベントの模様を採録しています。
松枝
みなさんこんにちは。本日のトークイベントの司会を務めさせていただくMUJI HOUSEの松枝と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
URさんとMUJI HOUSEで取り組んでいる「MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト」をご存知でしょうか?みなさん後ろに見えるモデルルームに気づかれたかと思うのですが、無印良品 東京有明の店舗内にオープンしました。
今回、モデルルームのオープンを記念したトークイベントとなっております。

さっそくですが、本日のゲストの藤野千夜先生をお呼びしたいと思います。みなさん、どうぞ拍手でお迎えください。
藤野先生、今日はよろしくお願いいたします。
藤野
藤野と申します。
『団地のふたり』のドラマをきっかけに団地に興味を持たれた方も多いそうなので、今日は私が好きな団地についてお話しできればと思います。よろしくお願いいたします。

松枝
さっそくですが、藤野先生のご紹介をさせていただきたいと思います。
藤野先生は福岡県生まれで、幼少期は横浜の団地で過ごされました。
1995年に『午後の時間割』でデビュー、2000年に『夏の約束』で芥川賞を受賞。最近ではドラマ化した『団地のふたり』や『団地メシ!』など、団地を題材にした小説を書かれています。現在は都内の団地で生活をされています。
本日のトークイベントで藤野先生とお話をいただく2人をご紹介します。UR都市機構の井上さんとMUJI HOUSEの松本さんです。
井上
UR都市機構の井上です。よろしくお願いいたします。
松本
MUJI HOUSEの松本です。MUJI×URの住戸などの設計の担当をしています。今日はよろしくお願いいたします。

1 藤野千夜先生と団地との関わり
松枝
最初に藤野先生の団地との関わりということで、今の団地暮らしの様子や、『団地のふたり』『団地メシ!』のエピソードをお聞かせいただけたらと思います。
藤野
今私は団地に住んでいるのですが、棟と棟の間が広くて、緑もすごく多くて、ここをよく散歩しています。特に紅葉の時期がきれいなんですよ。
公園の中に自分の家があるような感じで、すごく気に入っています。

こちらは部屋の写真と間取りですが、本棚だらけで、遊びに来た編集者の方から「オタク部屋」と呼ばれました。
廊下を抜けてリビングに入るとテーブルとソファ、テレビがありまして、後ろのキッチン側に仕事用の机が置いてあります。
仕事をしながら漫画を見たりテレビを見たりしています。この間、漫画家の方が遊びにいらして、「仕事と遊びの距離が近く理想的な配置だ。私もこうしたい。」と言って写真を撮って帰られました。

松本
ダイニングキッチンとリビングという考えではなくて、本棚を中心にしているんですね。
藤野
そうなんです。本棚を優先しているので、大きい冷蔵庫を入れられず、小さなものを使っています。無印良品の製品ですね。
元々MUJI×URのお部屋がすごく好きで、MUJI HOUSEのメルマガに登録してホームページも拝見していたので、今日は設計をされている松本さんにお会いできて本当にうれしいです。

藤野
先日、吉岡里帆さんのラジオに出演させていただきました。吉岡さんがすごくマニアックな方で、色々と質問をしてくださりとても楽しかったですが、お部屋の話よりも漫画の話をいっぱいして帰ってきちゃったのが反省点です。

ラジオの出演は普段お断りしているんですけど、そのときに吉岡さんが出演されていた平屋暮らしのドラマを見ていて、お会いしたいなと思いました。
今住んでいるURの団地を契約したときに、クリアファイルやメモ帳など吉岡さんの写真が付いたものをいただいていて親近感を持っていましたし、親しい編集の方に聞いたら、「すごくいい方で、下調べもされてお話をいっぱいしてくださるから大丈夫ですよ」と教えていただき、それなら大丈夫かなと思って出演しました。
本当にすごくいい方だったので良かったです。
松枝
ありがとうございます。それからこちらの写真には、『団地のふたり』の表紙のカバーを描かれた北澤平祐さんのアート作品がありますが、みなさんこちらは後程も出てくる伏線として見ていてください。
次の写真は、先程ご紹介いただいたキッチンと仕事場ですね。

藤野
これはちょうどテレビで『団地のふたり』を見ているところですね。
本棚が並んでいますが、私は中学の頃から漫研で、その頃から集めていたものが全部ここに凝縮されています。好きなものだけを見ていると幸せな気持ちになるんですよ。
松枝
ありがとうございます。
次に会場に来ていただいた皆さんが楽しみされていたと思う、2つの著書のエピソードのお話をお願いできますか?まずは『団地のふたり』についてお伺いしたいです。

藤野
古くからの知り合いの編集の方から「少し年を重ねた女性同士が仲良くしているような話を書きませんか?」という話をいただき、それがきっかけになりました。
そのときに、すごく緑が豊かで素敵な古い団地があって、そこに戻って暮らしている二人が同じ団地の中で行き来しているのが楽しそうだなと思いました。
私自身が、雨風を防げて友達と遊べたらそれが一番幸せだと思っているところがありましたので。
団地というロケーションで、なっちゃんとノエチというキャラクターが行き来して、一緒に配信やテレビを見ながら好き勝手話しているのがいいなと思って書き始めたんです。
松枝
ありがとうございます。『団地のふたり』はドラマにもなりましたので、ロケ地のエピソードなどもお聞かせいただけますか?
藤野
こちらの写真はロケ地になった滝山団地ですね。

この黄色い遊具の真ん中に小泉今日子さんと小林聡美さんが立って、取り壊される団地のことを思うシーンがあります。
ロケが始まった頃、ロケの様子を見にきている二人組の女の人がいて、小泉さんと小林さんが「なっちゃんとノエチみたいな人がいるよ」って話していたらしいんですね。その話を聞いたときに、自分達の住んでいる団地にロケが来ればなっちゃんとノエチは見に行くだろうなと思いました。
その二人を見てコソコソっと話す小泉さんと小林さんも、10代の頃から定期的に仕事を一緒にされていて、いい関係を築かれているので、二人もなっちゃんとノエチみたいで。
そういう形でみんなが楽しく過ごせたらいいなと思って書いた小説だったので、その話を聞いてすごくうれしかったです。
松枝
ありがとうございます。
『団地のふたり』のロケ地となった、滝山団地につきまして井上さんから団地のご紹介をお願いします。
井上
はい。東京都東久留米市にある団地です。ドラマの『団地のふたり』の一場面にもありましたが、西武新宿線の花小金井駅からバスに乗って行く団地です。
とても広い団地で、分譲住宅とUR賃貸住宅があり、UR賃貸住宅だけでも住戸数が1,060戸、住棟が25棟あります。

滝山団地はお店がとても充実しているのも特長です。道路を挟んだ反対側に昭和レトロを感じさせる商店街があり、おいしいカフェもあります。近くにもスーパーが3軒もあるため、とても買い物がしやすい団地です。
藤野
商店街におだんご屋さんもあって、小泉さんが暑い中のロケでみなさんがばてているときに、「私が買ってきます!」と言って、おだんごを買いに行かれていたそうです。お店には小泉さんやみなさんの色紙が飾ってありますよ。
こちらの写真は東宝スタジオのセットで、団地の部屋が3つ作られています。一つがなっちゃんの部屋で、二つめがノエチの部屋、最後がその時々のゲストの方の部屋の内装を変えてつくっていました。

程よいレトロ感とおしゃれ感がすごく素敵で、ここに住みたいなと思いながら見ていました。
左の写真が、小林聡美さんが演じたイラストレーターのなっちゃんの机です。ドラマではなっちゃんの絵を北澤平祐さんが描かれていたのですが、そこに飾られている絵が、私が持っていたものと偶然同じ絵で、とてもうれしかったです。それが先程松枝さんがおっしゃった伏線になります。

井上
団地のお部屋の中の柱や鴨居は、時を経てだんだん飴色になっていきますが、それもリアルに再現されていて素晴らしいなぁと思いながらドラマを見ていました。
藤野
小道具の方が素晴らしくて、本の背表紙なども実在しないタイトルと作者名を入れて1冊1冊全部オリジナルでつくられていました。
ソファも「これ家にあった」っていう絶妙感がありました。ドラマを見て、団地に親近感を持つ方が多かったようでうれしかったです。
松枝
ありがとうございます。次に『団地メシ!』のお話にいきましょう。こちらは何がきっかけで執筆されたのでしょうか?

藤野
『団地のふたり』を書いた後に、もう一度自分も団地に住みたいなと思って団地を探していたのと、『団地のふたり』の取材でいろいろな団地を巡っていたこともあり、団地の商業棟でごはんを食べたりしていたんです。「そういうところを巡る話ならすぐ書けますよ」と他の編集の方に話しをしたところ、「来月から連載しましょう」ということで始まりました。

この写真は神代団地です。ここは最初に住もうと思って仮申し込みまでしたんですよ。
井上
この写真に写っている黄色い滑り台は、URの団地の中によくあります。子供たちにいろいろな名前で呼ばれていて、私が住んでいる街にある団地では、「オムレツ」と呼ばれています。左右どちらからも滑れる、子どもたちに人気の遊具です。

藤野
この滑り台が気に入って、「引っ越しました」っていうハガキをこの写真でつくりました。「住んでいる団地ではありませんが」と注釈を入れて笑
その後、名刺にもこの写真を入れていて、若い方に名刺を渡したら「エモい」と言われたんです。それを聞いて「団地ってエモいんだ」と思いました。
井上
神代団地は東京都調布市にある団地で、京王線のつつじが丘駅から徒歩で行けますし、『団地メシ!』でゆりさんと花ちゃんが訪れたときのように、小田急線の成城学園前からもバスで行ける便利な立地にあります。神代団地は先程の滝山団地よりもさらに大きくて、住戸数が2,090戸、住棟は54棟もあります。
神代団地の一番の魅力は、団地の中央にある大きな広場と公園、グラウンドです。『団地メシ!』にも登場しましたが、すり鉢状の遊具がある、その名も「すりばち公園」では、いつもこどもたちが遊んでいます。その隣には中央グラウンド、略して「中グラ」と呼ばれていますが、そこもこどもたちに人気の遊び場です。

小学校や幼稚園もとても近くにあり、ママさんやパパさんがお子さまといっしょに遊んでいる風景も見られます。
最近、外壁を塗り直しまして、モスグリーンを使ったおしゃれな外観に変わりました。最近URの団地では、外壁をなるべくおしゃれにしようとしていて、いろいろな色やデザインで塗装しています。
藤野
棟によって外壁の色が違うところもありますよね。
井上
はい。棟によって色を変えたり、同じ棟の上と下で色を変えたりすることもあります。外壁に描く団地名のフォントにもこだわっています。外壁を塗り直して新しくすることで、昔の羊羹のようなイメージから、団地のイメージを変えていこうとしています。
松枝
藤野先生が住もうとしていたというこの神代団地ですが、次の写真は『団地メシ!』に出てくる喫茶店の写真ですね。

藤野
ここが本当に素敵なんです。カフェを運営されている会社さんが行っている京王閣の紙とイラストを愛する人のイベントに伺ったり、柴崎にあるショップに行ったりしていたんですけど、神代団地に行ったらそちらの社名が書いてある建物があって。
ここに何があるんだろう?と思っていたら、そこが本社だったっていう。
そこにカフェもあったので入ったらすごく素敵で。外観もいいし、料理もおいしいし、本もいっぱい置いてあったりして。それもあって神代団地に住みたいと思ったんです。
井上
こちらはとても人気のカフェで、12月にはカフェを運営されている会社さんが中心になって蚤の市・クリスマスマーケットというイベントを団地で開催されています。団地の外からも、地域の方などが来てくださって、5,000人くらいの方が集まる大きなイベントになっています。
また、カフェのお隣にある牛乳店さんのアイスラテもとてもおいしいので、ぜひハシゴしていただきたいです。
松枝
松本さんも神代団地は行ったことがありますか?
松本
はい。MUJI×URでは団地の住戸だけでなく、こういう共用部のリノベーションもやっているんですけれども、千葉市にある花見川団地のリノベーションをするとき、参考にするために神代団地に何度も通いました。
一つキーになるお店ができると、どんどんお店が増えていく状況などを参考にさせていただきました。

藤野
それから、こちらの豊洲四丁目団地も『団地メシ!』で登場する団地です。

この団地の商業棟の中に、おすすめのお寿司屋さんがあります。銀座のお寿司屋さんの名店ののれん分けで、毎日限定15食のサービスランチがあり、今はもう少し値段が上がっているそうですが、取材時には1,800円で食べることができました。ここのアナゴはとてもおいしいですよ。

井上
豊洲四丁目団地は東京都江東区にあり、豊洲駅や大型の商業施設にも歩いて行ける、とても便利な立地の団地です。先程の滝山団地や神代団地のような5階建ての中層団地ではなく、14階建ての高層団地で、住戸数は827戸です。
団地に詳しい方はご存じかと思いますが、建てるときの効率の観点から、高層の団地はだいたい14階建てになっているんですよ。
豊洲四丁目団地も少し前に外壁を塗り直しまして、周辺の分譲マンションにちょっと近づいた外観になっています。
また、照明にこだわっていて、団地の入口から住棟のエントランスまでが、光の通路になります。エントランスにもガラスのブロックがあって、夜になると照明で照らされます。ぜひ、夜の団地も見ていただきたいです。『団地メシ!』でゆりさんと花ちゃんも歩いた「潮風の散歩道」という、心地よく歩ける遊歩道が団地を囲む運河沿いにあります。

松枝
ありがとうございます。藤野先生は今も団地の取材を続けていらっしゃるんですか?
藤野
実は今続編を書き始めていて、ひばりが丘団地と三鷹台団地に行ってきました。どちらも建て替えが済んでいるところでしたが、かつての団地らしさを残しつつ建て替えていて「こういう形の生かし方をされているんだなあ」と感激していたところです。
井上
団地は建てられてから長い時間が経つにつれて、木々がとても大きくなり、緑豊かになっていきます。団地を建て替えるときは、その緑や広場をなるべく残すようにしています。先程も藤野先生とお話していまして、「最初は建て替えられた団地だと思わなかった」と言っていただいて、とてもうれしい気持ちになりました。
松枝
ありがとうございます。
ここまで藤野先生のお話を聞いて、井上さんと松本さんから感想や質問などあれば聞かせていただけますか?

井上
藤野先生の団地に対する知識と愛がとても深くて、大変ありがたいです。
先生とお話しした際、「団地に住んで運気が上がった」ともおっしゃっていただきました。団地のお部屋から見える緑が、先生の毎日の暮らしにプラスになっているとしたらとてもうれしく思います。
藤野
本当に団地が好きで、毎日部屋でうれしいなあと思って笑っていたりするので。ちょっと自分でもおかしいのかなと思ったりもしますが、多幸感に包まれています。
松本
MUJI×URは高齢化や空き家の問題に対してどう解決していくか?というところからスタートして十何年も経ったんですけど、今は若い方に限らずいろいろな世代の方に団地の暮らしの魅力を知ってもらうことが重要になっています。その中で、先生のお力というのがとても大きいなと感じています。

松枝
今松本さんからMUJI×URの話もあったので、この後は松本さんからMUJI×URのプロジェクトと新しいモデルルームの概要をご紹介いただければと思います。
藤野千夜先生と語る、団地の魅力と未来(後編)につづく



