【団地ちょっとレポート】MUJI×URの設計者と歩く「中宮第3団地・富田団地(後編)」

MUJI×UR団地レポート | 2023.12.27

第一回ゲスト:京都芸術大学 プロダクトデザイン学科教授 大江孝明さん

MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトに関わって10年余り、全国70団地ほどのリノベーションに関わってきたMUJI HOUSEの松本と、地元大阪府枚方市出身のクリエイター京都芸術大学教授 大江孝明さんと大阪北部に位置する中宮第3団地と富田団地の2つの団地のお散歩の様子をレポートします。

松本
さて、中宮第3団地から車で約30分のところにある富田団地にやってきました。実は私も富田団地は初めてきたので、ここからはURさんにナビゲーターをお願いしたいと思います。

UR
URです。富田団地へようこそ。
松本
早速ですが、富田団地は先ほどの中宮第3団地の倍の住戸数を管理されている大型の団地ですが、どんな特徴がある団地なのでしょうか。

UR
富田団地はセンター街区に商店街があり、敷地全体が大きな公園のように設計されていて、整備されたお散歩コースが特にお勧めです。それでは早速向かってみましょう。
松本
よろしくお願いします。お散歩案内サインがとても素敵なデザインですね。

大江
早速、最初のサインが見えてきましたね。めじろ通りの道標かな。先程のお散歩案内看板もそうでしたが、最近のデザインという感じがしますね。
UR
近年散歩コースとサインの改修を行いました。この先たくさんの動物が現れます。

大江
どんな動物が現れるんやろう。
UR
お散歩コースの改修と言っても全てを新しくしたわけではなく、元々あったお散歩道にわかりやすくラインを引いたり既存を生かしながら改修されています。

松本
団地の特徴でもある歩車分離がされていて子育て世代にも安心な設計になってますね。このお散歩コース沿いの石垣も当時のものをそのまま生かしている感じ。
大江
そもそもお散歩道というのが敷地内に存在していることが、豊かな暮らしですね。団地内は自然も豊かで、整備された公園みたい。お散歩道はその中を蛇行していて、団地内の自然をゆっくり楽しめるのもいいですね。

松本
おー現れた!動物たち。キリンは脚だけ?
UR
本物の動物の1/1サイズで表現されています。なのでキリンは脚だけ。
大江
自分との比較だから、動物の大きさ感覚が何気なく養われていく感じがします。

松本
続いて見えてきたのが、中宮第3団地と同じく、壁画です。
大江
先ほどにも増してファンシーな絵ですな。そして、広場の前に描かれるルールが適用されています。

松本
大江さん!あの象の絵、さっきの中宮第3団地と同じですよ・・!
大江
ほんまや!しかもさっきより若干ラフ!笑
UR
おそらく当時何かしらのテンプレートがあって各地で展開されているようなんですよね。ただしテンプレはあるけどニュアンスは現場の職人さんにまかせるという笑

大江
こっちはカニですね。この絵、団地遺産と勝手に名付けたのですが、今新しく壁画を描くと、こういう絵にはならないと思う。美しいパターンのようなグラフィックや、現代アート的な絵や、グラフィティになりそう。でも、URはこの絵を定期的に塗り直しているんですよね?
広場の前に必ず存在するという事も含め、団地の生活文化が生み出した、現代に残る貴重な遺産だと思います。研究して、写真集とか出せそうです笑

UR
こちらは自治会が運営しているシェアサイクルです。
松本
自治会さんも活動が活発なんですね。絵がかわいすぎる。
UR
自治会による夏祭りも開催されています。40年以上続く歴史あるお祭りで、近年は、新型コロナウイルスの影響で中止を余儀なくされていましたが、今年は3年ぶりの開催となり、大変盛況でした。

松本
こっち側の住棟のサインもすごくデザインが素敵。
UR
あとこの団地は棟の配列に微妙な変化を加えているところも特徴的ですね。
松本
確かに遠くの方に見える住棟がへの字に曲がっていたり、配置に変化がつけてあったりと、遠近感というか、飽きのこない風景を演出している感じがしますね。

大江
敷地案内図を見ると住棟の並びに変化をつけた上で、センター街を中心に左右対称のレイアウトにしているので、意図的にそうしているのがよく分かります。
効率だけを考えて住棟を建てたら、こうはならないはずです。もっと敷地内に人を詰め込めます。でも、ここは人が豊かに暮らすことの意味を考えて作られている、設計されたそんな設計者の意図が感じられます。

大江
私の大学の専門領域であるプロダクトデザインは利便性が特に優先されるのですが、私の研究テーマの一つはその利便性以外に道具が存在する意義は作れるのか?です。もう世の中は便利な物で溢れているので、そうではない視点から人間らしさを育める道具との付き合い方ができたらと良いなと考えています。この団地を歩いてみて、同じようなことを感じました。

松本
ここにもまた謎のオブジェがありますよ。何ですかねこれは・・?
大江
あっちの曲がり角にも同じものがあるからきっとサイン的なものなんでしょうね。
在るのと無いのとだったら、これも在る方が良さそうな感じがしますが。
UR
実は建設当初の写真にも載っているのですが、詳しいことはわからず・・。
松本
人間の作るものはよくわからないものが多いんですかね笑。
UR
おそらく当時は分かれ道などのポイントになっていたのではないかと思います。

松本
この東屋はいいですね。存在意義が明解。
大江 うん。座って休める。景色を眺められる。この広大な敷地と、自然と、休憩所も整備された散歩道。本当に素敵な暮らしの環境やと思います。

松本
富田団地のお散歩、本当に満喫できました。最初はかわいらしいイラストと共にサイン計画が素敵な団地だなという印象だったのですが、進むにつれて団地本来の持っているポテンシャルの高さに驚きました。建設当初に設計に関わった方々に同じ設計者として本当にリスペクトしたいと思います。こんな素敵な団地を残してくれてありがとうと。
大江
一見すると非効率と思えるようなデザインも、人間が暮らす場であるからこそ敢えて必要な事もあるのだと感じました。人が住む空間を効率良く配置し、高さ方向に伸びがちな現代のマンションとはアプローチが違っています。この団地のお散歩を通じて、団地のある意味非効率ともいえるデザインは自分のプロダクトデザインの研究テーマと重なる部分が多く、沢山の事を学ぶ機会となりました。本当にありがとうございました。
松本
それではまた次回、次の団地もお楽しみに。
団地ちょっとレポートでした。

<ゲスト プロフィール>
大江 孝明
京都芸術大学 プロダクトデザイン学科 教授
1979年 大阪府枚方市生まれ

道具と人との間に新しい関係性を構築する研究、
或る道具だからこそ果たせる役割の研究、
文化を持続するための道具の研究を3つの柱に、
暮らしの道具に関するデザインを研究している。
KONSTFACK(Sweden)など、海外の大学でも Guest Teacher を務める。
https://www.t-oe.info/