【団地ちょっとレポート】MUJI×URの設計者と歩く「中宮第3団地・富田団地(前編)」
MUJI×UR団地レポート | 2023.12.27
第一回ゲスト:京都芸術大学 プロダクトデザイン学科教授 大江孝明さん
11月、秋が深まってきたこの時期は、団地をお散歩するにはとても良い季節です。
MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトに関わって10年余り、全国70団地ほどのリノベーションに関わってきたMUJI HOUSEの松本と、地元大阪府枚方市出身のクリエイター京都芸術大学教授 大江孝明さんと大阪北部に位置する2つの団地のお散歩の様子をレポートします。
今回ご紹介する団地情報
・中宮第3団地:大阪枚方市 約1,200戸の中規模の団地。最寄り駅から徒歩7~15分ほど。
- 松本
- 今日はほんまにいい天気やね、まさに秋晴れ。団地お散歩日和です。
まず中宮第3団地からスタートしますが、最初に出迎えてくれるのが、広い空にそびえ立つ給水塔とプール跡地です。実はこの中宮第3団地は「団地まるごとリノベーション」の舞台でもあり、今このプール跡地や周辺を使ったイベントなどを通してのリノベーションを少しずつ進めています。大江さんは、地元枚方出身ですが、中宮第3団地に来たことは?
- 大江
- 最寄りの御殿山駅には何度も来たことがあるけれど、中宮第3団地は初めて来たなあ。私の地元はもう少し南のひらパー(ひらかたパーク)の方なのです。
- 松本
- 団地との関わりはどう?
- 大江
- 大学の研究はプロダクトが中心で、団地には仕事で関わったことが殆どないけど、とても興味深いね。今、目の前にプールがあるのも凄く意外。浅いプールなのは、こどもを中心として、団地に住む人がコミュニティを築くための場だったのかな?
- 松本
- これまでたくさんの団地を見てきたけど意外と多いよ。ただ現役で使用されているプールは少ないかも。でも建設当時はこのプールが住民のコミュニティの中心にあったのは間違いないよね。団地のリノベーションに関わる仕事をしていると、こういう団地の財産を再びコミュニティの中心の場所に再生するということが、現在の我々の使命のように感じることがあるよ。
- 大江
- そうなんやね。プール付きの集合住宅って、現代の感覚で考えると全然違う意味に捉えられるね。リゾート的であったり、高級マンションだったり。
- 松本
- まさに。でも50年前の団地の位置づけは今の高級マンションと結構近いかもね。
- 大江
- この藤棚も立派やね。建設当初からあったのかな。
- 松本
- プールと団地ピロティと集会所の位置づけからして、明らかにこの藤棚ありきで設計されているよね。日差しも遮ってくれるだろし素敵やね。
- 松本
- 中宮第3団地を語る上で欠かせないのがこの土塁で、明らかに団地のランドスケープの中で異質な存在やね。
- 大江
- 土塁の上に随分と木が生い茂っているけれど、これってどの団地にもあるわけじゃないよね?
- 松本
- さすがにこれはないね。元々戦時中に大規模な火薬倉庫があった場所で、過去に2度爆発事故があってそれら爆風を防ぐために作られたのがこの土塁だそうです。
- 大江
- その爆発事故は、枚方の歴史では有名な出来事なんよ。まさにここがそれなんやね。
- 松本
- そして記念碑として土塁を残したままこの団地が造成された歴史があるそうです。
- 大江
- 土塁にあるこのトンネルも残したんやね。更地にせず、人の歴史を形として残すのは大切な事だと思う。戦跡という事を忘れれば、遊び心も感じるトンネルやね。壁には落書きもあるし。
- 松本
- この車止めなんかもすごい綺麗やね。鮮やかなモザイクタイルで覆われてるし。
- 大江
- ただ在るだけではない何かを感じるね。オブジェ的というか。他のファシリティでも感じるけど、画一的な物にならないようデザインされた意図がちゃんとありそう。
- 松本
- そしてたどり着きました。もう1つの特徴である住棟に描かれた壁画です。
- 大江
- すごい大きくて、ファンシーな絵やね。広場に面する壁面に描かれていることに目的があって、遊び場がより楽しい雰囲気になるようこどもを意識した絵柄なんやろうね。
- 松本
- そやね、この象の首の位置とか明らかにおかしいけどね笑。
- 大江
- なんかストーリーがありそうやけど読み解けない笑。こっちの公園の住棟にもかわいい鳥が描かれている。やっぱり広場に面する壁には壁画というルールが守られているね。
- 松本
- 逆にこの壁画がなかったらどうだろう。やっぱり成り立たない?
- 大江
- 今、公園を作る時にわざわざこんなに大きな壁面を作って、絵を描くようなことはしないやろうね。やけど、在る方がきっと楽しい雰囲気になる。そう考えると、団地には無くてもいいけど在る方が良いよね~というデザインが沢山ある。さっきの車止めや土塁もそう。今なら、効率が悪いから実施しないことだと思う。
- 松本
- こっちのエリアには他とは違った形状の住棟もあるよ。ポイントハウスと呼ばれている全戸が3面採光のパッシブな住棟で、明らかに団地敷地空間の中でアクセントになっている。
- 大江
- これはいいね~。いやほんとにいいなあ~、住みたい 笑。
- 松本
- この仕事に関わった当初、何でこんな住棟があるのか分からなかったんだけど、今はすごくよく分かる気がしていて、団地という居住空間を豊かにするために無くてはならない住棟なんだよね。
- 大江
- 人間が住む場所やからね。私達が「住む」ということについて考えるための大事なデザインやと思う。人間はいろんなことを感じて、思って、考えて生きているから。
- 松本
- 最後にURさんが最近取り組んでいるリノベーションのモデルルームを見てみましょう。リビングの壁面にある木軸がD I Yを行いやすくなっていたり、洗濯機置き場専用のランドリールームがあったりします。
- 松本
- 特に洗濯機置場は団地のリノベーションを行う上で常に悩まされる部分なんだけどこの住戸ではキッチン排水に洗濯排水を合流させることで解決している。そのために洗濯機置き場をお風呂の近くではなく、キッチン背面のお部屋に置いて一室丸々ランドリールームにしている。一人暮らしのワンルームとしてはとても有効なアイデアやね。
- 大江
- 建設当初は洗濯機がまだ一般的じゃなかったので、リノベーションだからこそ生まれたアイデアやね。ウォークインクローゼット兼ランドリールーム兼家事室という感じがして、豊かな空間使いやね。それぞれの部屋の広さと近さのバランスが程良く、住み易そうな空間やと思う。
- 松本
- こうしてみると団地の中はたくさんの気づきがあるね。実はこの団地の中で一番好きなのはこの抜け道で。ちゃんと途中の側溝に蓋がしてあって、明からに誰かが置いていて誰でも通りやすいようになってる。
- 大江
- オフィシャルな抜け道ってことやね~。人がいなくても人の気配と配慮を感じる。
- 松本
- では次の富田に行ってみましょう。