【団地ちょっとレポート】MUJI×URの設計者と歩く「南港しらなみ/わかぎの/ひかりの」

MUJI×UR団地レポート | 2024.10.17

第三回ゲスト:UMA design/farm代表 原田 祐馬さん

2月の冬晴れの日、3回目のお散歩レポートもとても良い天気に恵まれました。
MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトに関わって10年余り、全国70団地ほどでリノベーションに関わってきたMUJI HOUSEの松本と、大阪を拠点に活動されているUMA design/farm代表の原田祐馬さんで、大阪北部と大阪湾に位置する団地のお散歩の様子をレポートします。


写真左から、ゲストのUMA design/farm代表の原田 祐馬さん、MUJI HOUSE 松本。

今回ご紹介する団地情報(南港ポートタウン内)
南港しらなみ:大阪市住之江区 約890戸の小規模団地。最寄り駅から徒歩3~6分ほど。
南港わかぎの:大阪市住之江区 約750戸の小規模団地。最寄り駅から徒歩3~5分ほど。
南港ひかりの:大阪市住之江区 約1500戸の中規模団地。最寄り駅から徒歩8~13分ほど。

松本
さて、アルビス五月ヶ丘がある池田市から南港の3団地がある大阪市住之江区に近づいてきましたね。

原田
ちょうど右側に見えてきた建物が、今回お散歩する南港の団地群のあたりです。

松本
すごい団地群ですね。高層棟だけあって高速道路からも存在感がすごい。

原田
あの建物の色分けは「南港わかぎの」ですね。
あの団地もUMAで色彩計画を行なっているので後ほど見にいきましょう。

松本
楽しみです。私は大阪の阿倍野出身なんですけど南港は比較的近くて、小学生の頃は自転車でよく南港野鳥園に遊びにきていたのを思い出しました。笑
でもあまり人が住んでいる印象がなくて・・・どんな環境なのかとか気になりますね。

原田
確かに工業地域に隣接しているのでコンテナ置き場や大型トラックが通行しているイメージを持ってしまいがちですが、実は、団地がある一帯は、周りをグリーンベルトのような植栽で完全に囲われていて、車で中に入るには特別なゲートをくぐらないとその地域にも入れないように整備されています。

UR
原田さんのおっしゃるとおり、このあたりは「南港ポートタウン」と言って大阪湾に作られた人工島「咲洲」の中央部に位置する緑の豊かな住宅地になります。そして歩車道分離(ノーカーゾーン)になっているので、騒音や排ガス、交通事故から住民を守り、緑豊かな環境を作り出しています。

松本
すごいですね。この規模で完全に外周と隔離された歩車分離地域を見るのは初めてです。大学、小中学や公園に病院、スーパーなど街全体が、近隣の工業地域から守られているんですね・・・南港にこのような街があるとは・・・全然知りませんでした。

原田
ではまず最初に「南港しらなみ」からお散歩していきましょうか。

松本
はい、お願いします。ちょうどポートタウン西駅の前からスタートですね。

原田
駅を降りてすぐ、このサイン看板が見えてきます。

松本
団地で縦書きのサインが新鮮ですね。

原田
この縦書きのサインは、UMAで手掛けた3団地に共通するフォーマットになっていて、
南港しらなみ」の他、「南港わかぎの」「南港ひかりの」でも同じデザインになっています。

松本
こうやって見上げると、「しらなみ」らしく海のブルーを感じる配色になっていますね。そしてブルーの配色が空に溶け込んでいくようなデザインにも感じますが、この一見ランダムに感じる配色は、グラフィックデザイナーならではのセンスを感じます。

原田
ありがとうございます。このスケール感の配色は本当に紙の上だけでは把握できないスケール感です。結果南港しらなみが一番、現場に行く回数は少なかったのですが、これまでの経験が生きているのは間違いないと思います。

松本
それでは、続いて団地の敷地内に入っていきましょうか。

原田
駅から真っ直ぐ伸びる道の正面の住棟にもグラデーションが見えるように配置しています。


松本
この3層ごとに変わっていくブルーのグラデーションが印象的ですね。

原田
実は住棟内の渡り廊下も、3層ごとに繋がっていて、3層ごとの色分けとリンクしています。中に入って見てみましょう。

松本
おー、この吹き抜け空間かっこいいですね。階数表示がいいアクセントになっていますね、

原田
このフォントはオリジナルで制作しています。

松本
そうなんですね! ロゴの配置やサイズ感、ブルーの配色など、グラフィックデザインの要素がふんだんに垣間見れますね。

原田
元々色彩計画の仕事でしたので、こういったロゴも全部塗装で行っています。本来はサイン計画の仕事なんですけどね、笑。得意な領域に持ち込んだという感じです。

松本
ブルーのグラデーションがとても印象的な団地でした。

原田
それでは次の「南港わかぎの」に行ってみましょう。

松本
見えてきました。色の配色がまた絶妙ですね。かわいい笑

原田
若草色の水平ラインと紺色の縦軸が特徴的な配色になっています。

松本
このエントランスの庇に描かれた「URBAN RENAISSANCE」の文字は何かの意図を感じますね、略してURですが、あえてURとは記載しなかったんですね。

原田
当然URのロゴにはレギュレーションがあるので、そのルールの中で記載する必要があるのですが、実は、「URBAN RENAISSANCE」にはレギュレーションがなくて、笑。

松本
つまり、自由にデザインを行えるということですね。なるほど・・!

原田
中の共用廊下の色分けも特徴的なのでぜひ中も見てみてください。

松本
ぜひぜひ。

松本
玄関ドアの紺、その脇の緑、天井の黄色に壁のグレー、この色使いはMUJIではできないですね、笑。そしてこの玄関ドアの横の住戸番号が縦書きになっていて、何かの記号のように見えますね・・

原田
そうなんです。記号のように見せたくて。一見すると住戸番号に見えないですよね。

松本
エレベーターホールも同様ですが、階段室もまたきれいですね。

原田
閉鎖的な階段室には特にこだわりました。陰湿な雰囲気にならないように、明るい黄色を天井に配置しつつ、広がりを感じれるように壁から少し下げた位置で色分けを行っています。

松本
この回り縁のような色分けの配置の仕方が、本当に効果的に作用していますね。

原田
1Fエントランスの袖壁には「南港しらなみ」と同様、縦書きのサインを配置しました。

松本
同じフォーマットの展開によって離れていても同じUR団地ということが認識できますね。

原田
それでは、最後「南港ひかりの」に行ってみましょう。今回の南港シリーズの中では最初に手掛けた団地で、色の配色のルールやサインのフォーマットができた団地なので、自分としても思い入れがあります。

松本
南港シリーズの始まりの団地ということですね、楽しみです。

UR
南港ひかりの」は、先ほどの2団地からは少し離れた北側に位置する団地です。3団地の中でも一番戸数が多く、約1500戸ほどある団地で、6つの住棟全てがツインコリドール型の高層棟で、それら高層棟に囲われた中央部分に、豊かな共用空間が広がっています。

松本
このスケール感は圧倒されますね。

原田
僕らは普段、平面の仕事をすることも多いので、このまま真っ正面に向き合うにはスケールが大きすぎると感じました。なので、まず5階までで一度線を引いて、5階より上は一度フェードアウトさせました。そうすることで普段よく目にする5階建ての団地のスケール感で向き合うことができました。

松本
確かに5階までだと、いつもの中層階段室型の団地のスケール感になりますね。一度、把握できるスケール感に落としてみるという手法は納得できますね。この5階までで色分けされているのはそういう事だったんですね。

原田
そこから細部に至るまでスケールを落として、繊細に色分けを行っています。
この腰壁も面取りの部分で色を塗り分けています。陰影をはっきり出すために。

松本
本当ですね!これは気づかなかったです・・!
住棟妻側の色分けもきれいですね。今度は縦方向に意識が向かいます。

原田
住棟の共用部の中もぜひ見てみてください。

松本
エレベーターホールから屋内階段に至る部分が本当にステキですね。色分けが絶妙です。このロゴも先ほどの2団地と同じオリジナルのフォントですね。

原田
はい、そうです。最初にこの「ひかりの」でフォントを開発して使用しました。そしてロゴは全て塗装で行っています。職人さんに頑張ってもらいました、笑。

松本
このツインコリダーの吹き抜け空間から覗む共用部もいいですね。各階ごとに丁寧に色分けされていて、住戸番号のサインは目立たないように奥まった玄関ドアの袖壁部分に描かれてますね。塗り分けも面取り部分を残して丁寧に塗り分けられています。

原田
1F部分のピロティのブレースも象徴的に見えるように塗り分けを行っています。

松本
かっこいいですね。特に11号棟は「11」のサインも含めシンメトリーでかっこいい。

UR
ちなみに「南港ひかりの」のダストシュートは今も現役です。

松本
現役なんですね!初めてみました。しかもなんか近未来的・・!

UR
ダストシュートは、現行も稼働しており、家庭ゴミは投入口から地下のタンクに貯留し、定期的に専用車で吸い上げて処理場へ運び、処理されています。

松本
やっぱり近未来ですね、笑。

松本
エントランスの脇にあるサインはまさにあのフォーマットのサインですね。オリジナルの住棟サインのフォントと、縦書きの団地サインは、ここで生まれたんですね。

原田
元々は色彩計画の仕事でしたが、しっかりサイン計画まで行えたのはよかったです。

松本
このまま屋外空間に行ってみましょうか。住棟に囲われた中央部分は公園のようになっていますね。

原田
この起伏がまたいいですよね。子供たちが遊ぶにはちょうどいい丘になっていますね。

松本
最後に改めて感じるのは、まずMUJI×URでも、前半の「アルビス五月ヶ丘」で見たように、賃貸住宅の内装の仕上げであっても、壁紙ではなく塗装にこだわってリノベーションを行うことで、デザイン性の高いこれまでにない住空間を生み出してきました。
そしてUMAで行っている外壁の色彩計画における塗装の色分けは、住棟一つ一つが店舗に並んでいるパッケージ化された商品の箱のように美しくデザインされていて、そのクオリティの高さに感動と凄味を感じました。
普通に一ファンのような感想になってしまいましたが笑、今日は本当にいいものを見させて頂きました。ありがとうございました。

原田
こちらこそ、楽しかったです笑。
実物のMUJI×URの住戸も拝見することができてよかったです。
ありがとうございました。

<ゲスト プロフィール>
原田 祐馬
1979年大阪生まれ。デザイナー
UMA/design farm代表。

大阪府吹田市出身。京都精華大学芸術学部デザイン学科建築専攻卒業後、インターメディウム研究所7期生として入学。2005年まで在籍。アーティストの椿昇に師事し、UMAdesign farmを設立。どく社共同代表。名古屋芸術大学特別客員教授、グッドデザイン賞審査委員、花園近鉄ライナーズコミュニケーションディレクター、Expo Outcome Design Committeeメンバー、DESIGNEAST実行委員会など。たんぽぽの家の播磨靖夫理事長から「領域を横断してプロジェクトを横串にし、ガラガラぽんするデザイナー」と言われたことがきっかけでその意識を持ち活動を続けている。フィールドワークと現場を大切にし日本中を移動する。愛犬の名前はわかめ。
https://umamu.jp/