家づくりはどうしてこんなに難しいのだろう。
無印良品の家づくり | 2026.3.30
家は3回建てて、ようやく理想が完成する?
日本では、家は人生で最も大きな買い物だと言われます。
多くの人が三十年近い住宅ローンを組み、長い時間をかけてその代金を支払っていきます。
でありながら、「家は3回建てなければ満足できない。」などと、よく言われます。
しかし、実際に3回も家を建てられる人はほとんど居ないので、誰も満足する家づくりはできない、ということになってしまいます。
家づくりにはどんな方法があって、どこに頼めば良いのか?という根本的な問題から、例えば、コンセントはどこに付ければ良いのか?という詳細設計内容まで、初めて家を建てようとするときには、いえ、初めてでなくても、わからないことだらけかもしれません。
コンセントの位置などは一見「細かいこと」に思えますが、その積み重ねで、家への不満はどんどんつのっていくというところが、家づくりの厄介なところです。
それなのに、家のつくり方は、誰も教えてくれません。
例えば、2022年4月から「資産形成」教育が高校家庭科で必修化され、大切な資産のひとつである家については、ライフプランニング上の購入時期やリスク管理については教えられるようになりました。しかし、「家そのもののつくり方」については、誰も教えてはくれないのが現状です。
そんな中、よくわからないまま建てられてしまった家は、住むほどに満足度が低下してしまうのではないでしょうか。結果、日本の家は、使い捨てのように短命で建て替えられるか、誰にも使われなくなって「空き家」となってしまう確率が、海外に比べて高いように思います。

なぜ、無印良品が家をつくるのか
本来生活雑貨を中心に、日常のくらしを少しでも感じ良く豊かにするための商品開発をしてきた「無印良品」が、住宅事業を始めたのは、その生活雑貨の延長線上に「家」が必ずあるからです。
そして、生活雑貨でさえ、永く使える工夫を凝らしているのに、「家」がまるで消費財のように使い捨てられることの多い現状から、日本の家づくりをもう一度見つめ直してみたいと思ったからでした。
そして、いざ「家」の開発を始めると、何世代にも渡って住み継がれる、個人にも社会にも真に価値のある家づくりについて、誰も教えてくれないという壁にぶつかります。
無印良品の家の商品開発は、家のかたち・デザイン以前に、この大問題の解決策を考えに考えて、ある解答にたどり着きました。
家を難しくしているのは、「世界でたった一つの私のためだけの家をつくろうとするから」ではないか?
間取りは3LDK?4LDK? デザインは憧れのスパニッシュ風?
本来、家は個人の持ち物であると同時に、社会資産でもあります。好むと好まざるとに関わらず、少なくとも街の景観を担っているからです。
家は、建てる人の満足感ももちろん大切ですが、消費財のように使い捨てられるものではなく、永く住み継がれるべきものではないでしょうか。
そうなって、初めて個人にとって資産価値が生じ、街にとって社会インフラとして機能するのでしょう。


無印良品の家が行き着いた答えは意外なものでした。
「世界に一つだけのあなたの家」をつくらないこと。
世の中の家づくりとはむしろ逆です。
誰にとっても無理がなく、誰が住んでも破綻しない。特別ではないけれど、永く使える。
そんな懐の広い家こそ、世代を超えてあらゆる暮らしを受け入れ抱擁してくれる。
無印良品は、「感じ良いくらし」の器としてのそんな家を、少しずつでも世に出したい、と決意して、家づくり事業を始めています。
無印良品が考える「これでいい」という家はどのような家なのか。
ハウスメーカーでもない、工務店でも設計事務所でもない。既存の住宅産業の枠組みにとらわれない家づくりとは、どのようなものなのか。
この連載では、2004年に「木の家」の販売を開始して、20余年経った今、改めて無印良品が考える真に価値ある家づくりとは何かについて、整理していきたいと思います。

株式会社MUJI HOUSE元取締役商品開発部長。
「無印良品の家」の開発を統括し、ブランドの基盤を築く。
現在はフェローとして、開発者としての専門知見を生かし、豊かな暮らしのヒントや住まいの魅力を、コラムや動画を通じて住まい手へ発信している。
