「木の家」もツギハギの感覚で住まいたい/杉本貴志(インテリアデザイナー)

寄稿・インタビュー | 2005.10.1

「木の家」もツギハギの感覚で住まいたい。

いま家に対する考え方が大きく変わりはじめています。昔いい家といえば、百年以上もつ家のことでしたよね。みんなで代々受け継いでいけるような家に憧れた。
しかしもう子どもが必ず家を継ぐという時代ではなくなってますよね。家は20~30年間住めばいい。洋服と同じで、昔だとカシミアのコートとかいい服を買ったら大事に手入れして長持ちさせた。和服もそうですよね。
今はうちの子どももそうなんですが、どんどん古着屋に持っていってしまう。苦労してネットで探して買ったのに執着しないで売ってしまう。

この「木の家」はそうした時代にどう住まうかを問う家です。
僕なら自分のコレクションを目一杯置くような使い方をしますね。インテリアデザインの仕事をしていると、コレクションが貯まっていくんです。そのため僕は横浜に倉庫をひとつ持っています。べつに高価な芸術作品を集めているわけじゃないですよ。インドネシアのトラジャ人の家を解体した部材だとか、田舎でひと山いくらで買ってきた古い布きれとか。椅子は50~60脚。オートバイは5、6台かな。
人に見せるためのものではありません。デザインのエネルギーをもらうんです。コレクションは僕の生きる痕跡のようなものなんです。

最近古い布でシャツをつくってみたんです。ただ貯めとくのもなんだから。とても好評なんですが、売って商売しようなどと思ってません。趣味ですから。
自宅で使っているお椀は、もう何十年も前、旅館なんかで使われて歪んで色褪せた漆器に新たに漆を塗り直したものです。とてもいいものができるんですよ。

昔は知性といえば、何冊本を読んだの、英語ができるの、数学が得意だということだったけれど、今は自分が認めたものを自分の手元に引き寄せる力、つまり考えることと生き方をなるべく一致させることが、知性だと思うんです。
ガタピシのテーブルや椅子や古いホーローのお皿やポットを全部自分で集めて、若い女の子がカフェをつくって話題になる時代でしょ。みんな時代の突き抜け方を考えている。

「木の家」も住み手が知的生産を行うベーシックな箱のように使いたいですね。料理を好きな人ならプロ用調理器具を入れて全館キッチンのような家をつくればいい。
本が好きなら全館書斎にしてもいい。

最近こんな言葉を考えたんです。ツギハギ。いまデザインを進めているレストランの名前の一部です。ひじょうに大きなレストランで、デザインをひとつ固定してしまうのでなく、いろんなデザインの要素を情報として多元的に積み重ねていく試みをしています。

「木の家」もツギハギの感覚で住まいたいですよね。陶器でもアートでも、古い材木や鉄板、タイルでもいい。どんどん自分の気になる”かけら”をツギハギして、自分なりの知性を成長させていけばいい。
人生は変わることが魅力的だし、みんな変わることを前提に人生を考えている。ツギハギというのは「固定しないこと」「変わること」なんです。「木の家」はその土台になれる家だと思います。

杉本貴志
インテンリアデザイナー。国内外の商業空間のデザインを数多く手がけ、「無印良品」の店舗設計、「グランドハイアット東京」などのホテルの内装設計、新宿駅「SHUN KAN」の環境計画総合プロデュースなどがある。
近作の「パークハイアットソウル」ではホテル全館のデザインを担当し、海外への活動の場を広げている。

2005年10月発行 無印良品の家カタログより