「捨てられていたもの」から考える暮らしの知恵

団地から考える暮らしの知恵100 | 2023.4.28

第三十六回
「捨てられていたもの」から考える暮らしの知恵

今年に入ってから1,2,3月と「団地の可変性」をテーマにアイデアを考えて来ましたが、今回からは「今まで捨てられていたもの」シリーズとして、これまで捨てられていたものを使ったアイデアを考えて、団地暮らしが豊かになる「もの」や「こと」を考えたいと思います。第一回目は「短いい草の使い方」をテーマにアイデアを考えてみたいと思います。

団地と言えば建設当初の50年前から和室が多いのが特徴の間取りで、その和室に欠かせない「畳」は、多くが「い草」を編んで作られており、「い草畳」は日本人に長く親しまれてきた床材です。そして、「い草」は工業製品ではなく、農作物であるということをご存知でしょうか。

現在の「畳表(たたみおもて)」の市場においては50%は中国産の「天然のい草」、30%は化学製品と言われていますが、残りの20%は国産の「天然い草」が伝統的に生産が続けられています。国内ではかつては岡山、広島で盛んに生産されていましたが、現在では熊本県の八代地方での生産が実に90%以上を占めています。

そんな熊本県でさえも30年前に5,500戸弱あった「い草農家」は現在ではその約5%の300戸弱まで減少していると言われています。

農作物である「い草」は、約一年半をかけて収穫されます。そして収穫の際に最も重要になるのが「長さ」になります。「畳表」になるのは「い草」の中央部分の緑色の部分で、その長さが1mに満たないものは、「畳表」として製作することができずその価値は激減します。収穫後、長さによって仕分けされた1mに満たないものは、廃棄するか、別の用途として使うしかありません。一つのい草田んぼから取れる価値の高い「畳表」になれるのは、全体の75%程度と言われています。

左から丈の長いい草が高品質とされ、1番草、2番草、3番草、4番草、と仕分けされる。
畳になる「畳表(たたみおもて)」は1m以上の長さが必要で、それ以外は「畳表」にはならない。

<暮らしの知恵 捨てられていたもの – 短いい草の使い方 ->

「短いい草」を使って、「細長い草畳」を生産し、和室にフローリングのように敷くことができる

そんな「短いい草」ですが、ただ短いだけで手間暇かけて作られてきた「天然のい草」としての価値は同じなので、「畳表」として活用できれば、一つのい草田んぼから生産される価値の高い「畳表」を100%に近づけることができるのではないでしょうか。

そもそもなぜ1m以上の長さが必要かと言うと、畳のサイズは1畳(じょう)が、W=90cm(3尺)、D=180cm(6尺)の3×6(サブロク)サイズが基本となっており、これが6枚で「6畳」、4枚とその半分の大きさ(3×3)の1枚で「4畳半」となっています。

なので、常にW=90cm(3尺)を満たすためには、い草の長さは緑色の部分が1m以上ないと、織ることはできないのです。

では、緑色の部分が1mに満たない場合でも、「細長い草畳」を作ることができたとしたらどうでしょうか。ほとんどの「い草」が「畳表」として活用することができます。
和室であっても「細長い草畳」を使ってフローリングのように敷くこともできそうです。

<暮らしの知恵 捨てられていたもの – 短いい草畳の敷き方 ->

では次に、その「細長い草畳」の敷き方の可能性を検証してみたいと思います。

通常の3×6サイズの畳に対して、3×3サイズの正方形を並べた、「半畳サイズ」は、敷き方としては一般的ですが、通常の倍の数の畳が必要になってきます。

・6畳・・・通常6枚 → 半畳サイズ12枚
・4.5畳・・・通常4枚+半畳1枚 → 半畳サイズ9枚

そこで今回の「細長い草畳」を使うことによって、

・6畳・・・半畳サイズ12枚 → 細長いサイズ8枚、または10枚
・4.5畳・・・半畳サイズ9枚 → 細長いサイズ8枚

と減らすこともできます。

また、数は増えてしまいますが、よりデザイン性のあるバリエーションを考えると、
6畳、4.5畳共に、風車のようなデザインで畳を敷き詰めることも可能です。

様々なパターンで可能性が広がる「細長い草畳」ですが、やっぱり和室であってもフローリングのように敷けるのが一番のメリットかもしれませんね。

いかがでしょうか? このようなちょっとした知恵で素敵な暮らしが実現する「団地から考える暮らしの知恵」を随時発信していきます。みなさんのご意見をお待ちしております。