「はがせる壁紙」から考える暮らしの知恵
団地から考える暮らしの知恵100 | 2021.8.31
第十七回
「はがせる壁紙」から考える暮らしの知恵
団地の壁はどのように仕上がっているのでしょうか。
一般的な団地の住棟はRC造(鉄筋コンクリート造)で、そのなかでも中層階段室型の住棟は壁式構造でできているものが多く、またその仕上げの多くは「壁紙」で仕上がっています。もともと、建設当初は、「漆喰(しっくい)」や「塗装」が多かったようですが、時代とともに壁紙が増えていったと考えられます。
その理由として賃貸住宅の場合、空き家になるたびに水まわりや床、壁の汚れや傷を補修する必要があります。そのためキッチン、洗面、トイレなどの設備機器は耐久性の高いもの、また床、壁、天井の仕上げ材はコストが比較的安価でメンテナンス性の高い素材が好まれます。
そんな賃貸住宅の壁で多く使われる仕上げ材の「壁紙」ですが、安価でメンテナンス性が高いこと以外に、住んでいる人の暮らしを豊かにする良いアイデアはないものでしょうか。
<暮らしの知恵(1) あったらいいな – 付箋(ふせん)のように「はがせる壁紙」 ->
「貼ってはがせるノリ」を使用して何層にも貼り合わせる。落書きをしてもはがすと綺麗な壁紙に
「壁紙」を使用した住戸の改修では、まず、駆体の壁に貼られた古い「壁紙」をはがすのですが、ノリが駆体の壁にしっかりと貼られているので、簡単にははがれません。スクレイパーというヘラで擦りとるようにはがします。そしてあらかたはがせたところで、今度は新しい「壁紙」にノリをつけて貼ります。このように駆体の壁の表面だけを何度もキレイにしていくことができます。しかし空き家になるたびに、貼ってははがすというこの行為が、少し効率的ではない気がします。
どうせはがしてもまた貼るのであれば、はじめからたくさん「壁紙」を重ねて貼っておくのはどうでしょうか。窓枠や建具枠の出っ貼りはおよそ1cmなので、そのなかに納まるように貼り合わせるとすると、壁紙の厚さは1mm程なので10枚までは重ねて貼ることができそうです。
そうすると、住んでいるときから汚してしまったり、子供が落書きをしてしまっても表面の1枚だけをはがすと、次の新しい「壁紙」が出てきて新品の壁になります。「貼ってもはがせるノリ」を使用することで実現できそうです。
<暮らしの知恵(2) ちょっとした工夫 – 「はがせる壁紙」の応用編 ->
コンクリートの壁に「壁紙」を貼っただけでは、ピンはさせないが、積層して貼ることで、コンクリートの壁でもピンを刺すことができるようになる
もともとコンクリートの壁に薄く貼っていた「壁紙」では、画鋲(がびょう)などのピンを壁に刺すことができません。しかし、この積層された「はがせる壁紙」は、1cmほどの厚みまで積層されているので、画鋲(がびょう)などのピンを刺すことができるようになります。
またこの厚みは、ほかの性能を持ち合わせる可能性もあります。使用する素材を検証することで、少なくともコンクリートの壁に薄く貼っていた「壁紙」に比べ、音の反響を抑える吸音性能や、結露などを防止する断熱性能を、実現できるかもしれません。
このように「はがせる壁紙」の可能性は広がりますが、そもそも「壁紙」を使用した住戸の改修では、古い「壁紙」をはがさずに表面をキレイにするという選択肢もあります。それは、「壁紙」の上から塗装を行うという方法です。
MUJI×URでは、そのような方法を使って改修をしたプランもあります。下記の写真のように、色を途中で変化させることで、ただのキレイな壁紙ではなく、塗装を行っていることを表現しています。「はがせる壁紙」の場合、住みながらお客さん自身で好きな色に塗装できればさらに楽しく暮らすことができそうです。気に入らなければ、またすぐはがせば良いのですから。笑
いかがでしょうか? このようなちょっとした知恵で素敵な暮らしが実現する「団地から考える暮らしの知恵」を随時発信していきます。みなさんのご意見お待ちしております。