#3 “ちょうどいい”田舎暮らしができる移住体験住宅

コラム

#3 “ちょうどいい”田舎暮らしができる移住体験住宅

2026.01.21

【連載】無印良品とつくるオフィス

コラム

#3 “ちょうどいい”田舎暮らしができる移住体験住宅

長野県南部に位置する人口9000人弱の宮田村で移住体験住宅の空間デザイン・家具コーディネートを手がけました。移住体験住宅とは、移住を考えている他地域の方がその地“ならでは”の暮らしを体験できる拠点で、多くは自治体が中心となり運用されています。

宮田村はそのほとんどが「中央アルプス国定公園」をはじめとした豊かな自然エリアで、生活圏はなんと半径2.5キロ圏内。そのコンパクトな暮らしやすさが「住みたい田舎ベストランキング 村の部」(宝島社発行)全国1位に選ばれる所以かもしれません。このような地域での移住体験住宅とあって、来訪者が宮田村ならではの”田舎”暮らしを体験できることを一番に考え空間デザインを行っていきました。

今回は宮田村役場みらい創造課長保科さん、同じくみらい創造課の企画係長池上さんに、当社担当の阪井、喜多見とともにお話を伺いました。

光が差し込む、明るい玄関

―まずは、今回「移住体験住宅」を新たにもうけることになった経緯をおしえてください

保科:すでにひとつある移住体験住宅は位置的に少し不便なところにあって、生活圏のコンパクトさを訴求するにはもう少し中心部にあった方が、という話をしていました。そんな時、偶然本物件の持ち主の方が村の施設として使ってほしいという意思をお持ちで、建物を寄付してくださったんです。それがきっかけとなりました。もともと移住体験住宅の需要は高まっていて、たまたまもう 1つ増やしたいねっていうタイミングでもありました。ここはちょうど街に近いし、体験住宅としてはいい場所だと、活用することになりました。それが2022年頃ですね。

収納スペースももとからあったもの

スチールパイプキッチン

 

地域の想いが形になり始める

―その後、当社にご相談いただいたきっかけを教えてください

保科:最初に「諸国良品*」での地域産品の取り扱い等を軸にした地域づくりの話を別部署としている中で、無印良品 グランフロント大阪でのイベント開催等で関わりを持ち、良品計画さんが住宅や空間の領域にも対応できることを知りました。2022年の終わりころから移住促進の話題にも触れることになりましたね。

*諸国良品・・・お客さまが生産者や生産現場に思いをはせ、自身との関係を再度見つめなおすきっかけとなることを目指し、運営する、地域の生産者とお客さまをつなぐ無印良品の産地直送サービス

池上:無印良品には、老若男女のファンがいることを村の小中生の子供たちの反応を見て、感じましたね。行政が実施するキャリア教育等の授業で、体験住宅のことを話した時に子供たちの反応もとてもよく、期待感を持ってくれていました。

保科:体験住宅を新築で、という希望もありましたが、改修することになり、結果的には地域の人への空き家活用のPRにもなり、とてもよかったと感じています。

宮田村役場の保科さんと池上さん

もともとあった設えはそのままに

昔ながらのガラス窓

 

あるものを生かしたプランニング

―担当として、空間デザインするにあたり1番心がけたこと

喜多見:昔ながらの日本家屋の間取りである「田の字プラン」を生かしたいと思いました。改修前、ふさがれてしまっていた一部屋を、田の字型の良さを生かすため再び戻し、来訪者に昔ながらの間取りを味わってもらいたいというのが1番でしたね。仕切っても、広くつなげても、どちらでも過ごせる形をめざしたり、以前からあるしつらえを残したり、あるものを生かすことを心がけました。

阪井:空間の解放感と可変性ですね。来訪者によって多様な使い方ができるように心がけました。

田の字型の空間を生かした

ちょうどいい、安心できる空間とは 

―実際に空間になってみてどうですか

保科:空間の明るさや広がりにまずは驚きましたね。壁の色合いからも落ち着ける雰囲気になりました。行政側では、こういった個人邸のような拠点の改修をすることはほぼないので、デザインするにあたり、私たちからは細かなリクエスト等はしませんでした。提案いただいた内容がそのままイメージ通りに着地して安心感があります。ふだん過ごされる家のような安心感と“田舎らしさ”もあって、ここなら来訪者が想像する田舎暮らしができると思います。

喜多見:デザインする側としては、きれいにピカピカな体験住宅にするのは違うと思っていました。暮らし方とデザイン、来訪者の3つがマッチする空間にすることを心がけていく中で、都会的にも田舎的にもなりすぎないような空間づくりが大切だと感じましたね。

保科:都会からこの体験住宅に泊まる方からは、ふだんから慣れ親しんだ無印良品のイメージに安心を感じてもらえるのではないかと思います。

建具はダンボールふすまを採用

ふすまを外して開放感のある空間に

 

愛着で育てていく場所

―地域の方の声や今後の活用イメージはありますか

保科:まだ、正式オープンはこれからですが、9月に「塗装体験会」というイベントを実施しています。公募により参加した12組16名のみなさんに、3か所の壁を塗ってもらいました。募集は広報誌やWEBで行ったのですが、半日で定員に達する等、近隣市町村の方からも関心の深さが垣間見えました。それに、参加者のみなさんはそういったプロセスを経て、この拠点に愛着を持ってくださっていると思いますね。現時点では大規模なイベントの計画はないですが、空き家相談会・セミナー等のテーマを限定した催しは可能性があるかもしれません。

喜多見:実は拠点の改修にあたっては、勝手にお祭りの際の炊き出し等が行われる“公民館のような”公的なスペースとして、地域に活用されるイメージを思い浮かべていました(笑)

ワークショップの様子

五感で感じられる地域の拠点として

池上:移住体験住宅という機能を持っていると同時に、空き家活用にも結び付いているこのような施設は全国的に見ても珍しいと思います。そこに無印良品の空間デザインの要素が加わることで社会的なインパクトは大きいですね。宮田村に住む潜在的なオーナーさんに、実際にこの拠点を五感で感じてもらって、活用にネガティブだった人も前向きに考えられるきっかけになると大きな可能性を感じています。空き家のビフォーアフターを体感できるのは大きいですね。

喜多見:完成に至るまで、役場のみなさんはもちろん、地元の工務店の方々とも密にコミュニケーションを重ねました。あらゆる立場のひとに感謝しかないです。

左から宮田村役場保科さん、池上さん、良品計画喜多見、阪井