#1 心地よくて、働きやすい、あたたかな職員室へ

コラム

#1 心地よくて、働きやすい、あたたかな職員室へ

2026.01.09

【連載】デザイナーが選ぶ、無印良品の什器

コラム

#1 心地よくて、働きやすい、あたたかな職員室へ

園児たちが元気に走りまわり、たくさんの笑い声が響く蛍池文化幼稚園。今からおよそ100年前となる1929年(昭和4年)に創立され、これまでに7,400名を越える園児が巣立ちました。初代園長の野中とえ氏と二代目園長の泉潔氏の両氏ともに、公共分野での功績が評され藍綬褒章を受賞するなど、約1世紀にわたって教育に熱心に取り組み続けています。

2020年より三代目となる園長を務める泉恒さんは、100周年を目前に園全体の改修を決意しました。複数回のフェーズに分けて建物内外の改修を実施し、その中でもいち早く完成させたのが「幼稚園の先生方が快適に仕事ができて、心地よく過ごせる場所にしたかった」と泉園長が語る、無印良品の商材を取り入れた職員室でした。

『こどもがこどもらしくいられる園舎』の創出をコンセプトに活動する株式会社時設計の一級建築士 三木真帆さんと、良品計画営業本部大阪事業所の阪上由加里とともに、ワンチームになってプロジェクトは進行しました。新たな職員室にこめられた想いや、完成しての感想・効果などについて、園長の泉さんと設計デザインを手がけた三木さん、そして担当した当社の阪上に話を伺いました。

「無印良品を取り入れた職員室をつくる」という強い想い

―園の改修に無印良品を取り入れるきっかけを教えて下さい。

泉:かつて一人暮らしを始めた頃には無印良品の家具や収納を使用し、現在もさらに無印良品を取り入れた暮らしをしています…と、プライベートでもかなりのムジラーなんです(笑)。幼稚園は一年中イベントが多く、とにかくモノが多いんですね。たくさんのモノを整理するために、近年では無印良品の収納BOXなどを使い始め、すごく使い勝手が良いと評判でした。そのようなタイミングで目にしたのが、魅力的な仕事場を特集した雑誌でした。無印良品でオフィスが構築できることを知り、『無印良品の業務標準化委員会(良品計画著/誠文堂新光社刊)』や『無印良品は、仕組みが9割(松井忠三著/角川書店)』を読んで深く共感し、まずは無印良品で職員室をつくりたいと時設計の三木さんに相談しました。

―「無印良品で職員室をつくる」と泉園長から相談を受けた際の感想をお聞かせください。

三木:以前の職員室が手狭で使いにくかったこともあり、元々は倉庫として活用していた広い空間を改修して「職員室を広くて明るくて使いやすい空間にしたい」という泉園長の想いにとても共感しました。時設計は1984年の創業以来、国内外において数多くの園舎を手がけていますが、無印良品の商材を取り入れての空間づくりは初となる試みでした。職員室は若手からベテランまで先生たちどなたにとっても、働きやすくて、気持ちよく過ごせる空間になることが重要です。「シンプル」で「上品」、そして賑やかなスペースでありながらもきちんと「静けさ」も感じることができる、そんな無印良品のアイテムを活用した空間づくりを目指しました。

―泉園長はどのような職員室にしたいと考えましたか?

泉:先生方の気持ちまで明るくなるような、あたたかさと利便性を両立させた場にしたいと思いました。環境が良くなるとモチベーションも上がり、それは子どもたちにも伝わっていきます。その意味でも、先生一人ひとりが心地よく働き過ごせる空間にしたいと考えていました。

時設計 三木さん

蛍池文化幼稚園園長 泉さん

 

家具を主役に建築を調整していく!?

―空間づくりでこだわったポイントを教えてください。

泉:まずはワークデスクですね。日本の木を大切にするという無印良品のものづくりの考え方に深く共感しました。またそれだけでなく、質の良さや手触り感、見た目の美しさ、丁寧なデザインや仕上げ、さらには納得の価格感など、心地よい職場を考えた時にこのワークデスクを中心に据えたいと考えました。

三木:材質や色調・トーンなどを確認しに、無印良品 グランフロント大阪にあるショールームにも足を運びました。また良品計画の阪上さんの存在も大きかったですね。材質だけでなく、寸法の可不可や新たな提案などを打合せの中でいただけるので、毎回ワンチームになってプロジェクトを進行することができました。

阪上:木をムダにしないという私たちの想いに共感してくださり、とても嬉しい気持ちでした。ワークデスクを中心にしたシンプルで統一感のある空間づくりに寄り添わせていただきましたが、泉園長の想いやイメージがとても強くありましたので、何とか実現につなげたい気持ちで打合せに出席していました。ワークデスクはそのモノ自体の良さに加えて、先生方の作業のしやすさや、その周囲での動きやすさや動線・収納まで、泉園長の細部にまで至るこだわりがありました。そのため三木さんに、壁面を調整いただくこともありました。

三木:そうですね。改修ですが既存の空間の表面だけを変更するのではなく、一切の妥協をせずに、構造設計者も加えて家具に合わせて構造そのものを調整していったんですね。建築が家具に寄せていくという、ちょっと珍しい取り組みでした(笑)。

阪上:泉園長が大変気に入ってくださっている、無印良品のコンパクトキッチンや冷蔵庫の設置でも、それらのアイテムに合わせてハードの方を設定いただきましたね。

泉:この職員室は先生方が仕事をするだけでなく、リラックスする空間でもある訳です。仕事をするワークデスクが美しい木でできているので、とっても気持ちがあたたかくなります。その雰囲気を壊さないように、水まわりにもしっかりこだわりました。シンプルなデザインの無印良品の電子レンジと冷蔵庫を置くために、そのサイズにぴったりはまるスペースを三木さんに創出してもらいました。またコンパクトキッチンは、とにかくムダがなくてスッキリとしたデザインが気に入っていて、あたたかな空間の雰囲気にすごく溶け込んでいます。衛生面でも精神面でも、とても重要なポイントですね。

コンパクトキッチン

日本の木でできた家具

 

合い言葉は「シンデレラ・フィット」

―今回のプロジェクトでの苦労点とは?

三木:先生方の動きやすさや、全体のお洒落な雰囲気やあたたかな空気感を維持することに注力しました。アルミ製の扉も木目のシートを貼り、美しさと機能を両立させたいという泉園長の想いに応えるよう努めました。

強いて苦労点と言えば、泉園長が特にこだわられた可能な限りの隙間を排除した「シンデレラ・フィット」です。オフィスや特に職員室などの場は、機能性を優先してある程度の所で妥協することもあるのですが、デザインや見た感じにこだわる泉園長は無理なことは無理としつつも、でき得ることには一切の妥協をしません。施工会社の(株)上原工務店の上原さんも先生のご要望にこたえるため、いろいろな提案をして下さり、先ほどの家電類の他、収納棚やロッカーも壁とすき間のない「シンデレラ・フィット」を追求しての仕上がりとなりました。

泉:三木さんや阪上さんと一緒に、その「シンデレラ・フィット」にはこだわりましたね。これは個人的な経験から来ているのですが、以前施工中だった自宅バスルームを目にした際に、タイルがイメージと違うと感じたんです。工務店に正直にその旨を伝えると「コストもスケジュールもかかる」と難色を示されたのですが、現場の職人さんは違ったんです。「ここは毎日使用する場所で、これから何年も過ごすことになる。だからこそ、納得のいくものにするべきだ」と。その言葉が胸に響いて、すぐに変更しました。今もバスルームを使用する度に、あの時の職人さんの言葉を思い出し、良かったなと噛みしめているんです。

そういったこともあり、先生方が毎日過ごす場だからこそ、三木さんと阪上さんの力を借りながら、できることは納得のいくまで全部やろうと決めて進めたのです。

家具に合わせて建具の雰囲気にもこだわった

 

いろんな“良さを育む”空間に

―職員室が完成しての感想をお聞かせください。

泉:先生方が働きやすく、過ごしやすい環境を創出することができたと本当に感謝しています。すでにたくさんの喜びの声が届いています。「お洒落な環境で仕事ができて嬉しい」「広くて、とにかく使いやすい」「仕事がスムーズに進んで早く帰宅できるようになった」など、良い意見ばかりです。また私から見たメリットもいくつか挙げることができます。

一人ひとりの作業のしやすさに加えて、先生同士のコミュニケーションが活発になりました。それは仕事のミーティングだったり、ちょっとしたティータイムだったり、以前の職員室ではなかった光景ですが、お洒落であたたかな空間になったことで、先生同士のつながりがさらに育まれているように思います。それから、掃除や整理整頓が自律的に行われていることも実感しています。環境が人をつくるではありませんが、キレイな環境だからこそ、みんながキレイに使おうと思い行動にもつながるのですね。そういった、いろんな良さを育むことにつながったと実感しています。

三木:職員室は、先生方だけでなく、保護者の方や見学の方などの目に触れる場でもあります。アットホームであたたかな雰囲気でありながら、都会的なお洒落さが感じられる点も、皆さまにすごくお喜びいただいています。100年の歴史を持つ蛍池文化幼稚園でも、特に現在の想いやブランドを表す象徴的な空間になっていると思いますね。

日本の木でできた家具を中心に全体を調和

 

無印良品の空間には、可能性がある

―無印良品の商材を取り入れたデザインを手がけ感じたことを教えてください。

三木:商業系の空間などは一般的に、目を惹くために目立つデザインが施されます。しかし無印良品のアイテムも空間もその逆と言いますか、すごく少ない要素でシンプルに構築していくことが特徴です。そのようなプロセスを通じて、モジュールの考え方なども含め、無印良品の商材はとても日本的と言いますか、日本建築のようなエッセンスがあると感じました。

―この職員室を今後どう活用していきますか?

泉:シンプルで上質で、使い勝手が良い。だからこそ長く便利に使っていける。実際にこの空間で過ごして、そう感じています。やはり先生方が心地良く仕事をしてプライベートも仕事も充実していることが、子どもたちの笑顔にも直結していきます。それを実現するための環境をつくることができたので、これからもみんなで工夫を重ねながら、上手に活用して行けたらと思っています。

三木:無印良品の空間デザインには、とても可能性を感じています。今回、幼稚園や職員室でも素敵な空間ができると示すことができたと思います。実際に蛍池文化幼稚園の事例から、すでに他の園でも実現したいという相談が複数届いています。

デザイン性の高い家具や家電などを揃え並べても、逆に雑多になり落ち着かない空間になるケースが多くあります。無印良品の自己主張の少ないシンプルで上質なアイテムは、飽きない空間づくりに適し、時間の長さに耐えられるものと改めて実感しています。

さまざまな場で叶えることができ、そこで仕事をする人にとって心地良くて働きやすい環境をつくることができる。そういった点で、無印良品とつくる空間には、すごく可能性を感じています。

左から大阪事業所阪上、三木さん、泉園長