地域資源の循環を目指して 木造店舗の推進

コラム

地域資源の循環を目指して 木造店舗の推進

2024.09.02

インタビュー

コラム

地域資源の循環を目指して 木造店舗の推進

2024 年9 月にオープンした「無印良品 唐津」(佐賀県唐津市)と「無印良品 日田」(大分県日田市)の2 店舗は無印良品初の「木造店舗」であり、株式会社MUJI HOUSE が設計・施工を手がけています。
1980 年に「無印良品」が誕生して以来、良品計画では地球環境に配慮した素材選びやものづくりを続け、中期経営計画においては「ESG のトップランナーを目指す」ことを掲げています。これは、お客様に手に取っていただく商品やサービスだけでなく、店舗(建物)にもESG の要素を積極的に取り入れていくということも意味しています。
今後5 年間で25 棟を目標に木造店舗化の推進を担う、株式会社MUJI HOUSE 法人事業部 部長の篠塚 正博に話を聞きました。

木造店舗を推進する理由

──なぜ良品計画は木造店舗の建設に力を入れているのでしょうか。

篠塚:無印良品の思想は、私たちが関係する建築設計の分野においても自然と反映されています。また、20年以上にわたって木造住宅を作る中で培ってきた、木造建築物の技術と経験もあり、木造店舗の推進を進めることになりました。

──木造にこだわる理由はありますか。

篠塚:日本は国土の2/3 を森林が占める、世界有数の森林国です。森林資源には、伐る・使う・植える・育てるというサイクルを繰り返すことで、循環利用できるという特長があります。健全な森林を育むためには、この循環利用が欠かせません。木を使うことは、この循環を促し森林を守ることにもつながるのです。さらに、木材は自然素材であり、炭素を多く含みます。そのため建築材料として利用することで、CO2の吸収と貯蔵に貢献できます。

──木造の建築物は鉄骨造などと比較しても、CO2の排出量にも期待できるのでしょうか。

篠塚:材料製造、加工を行う過程で、炭素排出量が鉄やアルミニウムと比べると少ないため、木造の建築物は鉄骨や鉄筋コンクリート造の建物と比較してCO2 排出量が少ないんです。実際、唐津と日田では、シミュレーション上、鉄骨造店舗に比べて資材の製造におけるCO2排出量を44%※抑えることができると試算しています。また、資材製造から施工、修繕、廃棄・リサイクルまで含めたライフサイクル全体(使用段階除く)では、従来の鉄骨造店舗よりも35%※抑えることができると試算できました。
※CO2 算定ソフト「One Click LCA」を用いた、(株)エヌ・シー・エヌによる簡易算定結果。暫定値であり、今後修正される可能性があります。削減率は建築物1㎡ あたり。
また、『ZEB』認証の取得もしています。ZEB とは、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略で、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロかマイナスにすることを目指した建物を指します。唐津と日田では、3 段階ある定義のうち一番エネルギー消費が少ない『ZEB』(カギゼブ)認証を取得しています。床面積2,000m° を超える大規模木造建築かつ最高ランクの『ZEB』認証を取得した物件は、国内初です。

高い耐震性で大空間を実現する

──唐津、日田ともに大空間が印象的ですが、木造店舗で気になるのは耐震性です。

篠塚:MUJI HOUSE では、2003年より「無印良品の家」を中心とした建築事業を行っており、これまで約3,000 棟以上の木造住宅の実績があります。木の温もりを生かした設計/デザインと、耐震性の高い木造建築物を建築する技術「SE 構法」を採用してきました。

──SE 構法とは、どういったものなのでしょうか。

篠塚:SE構法とは、強度が高く品質の安定した構造用集成材を耐久性の高い金物で接合することで、耐震性の高い空間を設計できる構法です。従来の木造住宅の工法とは異なり、木造ラーメン構造(柱と梁で構成された構造)のため、開放的で自由度の高い空間を実現できます。壁ではなく柱で建物を支える構造のため、たとえば体育館やコンサートホールのような、木造在来工法では難しい大きな空間を木造でつくることも可能です。

地域への土着化─社会の公器としての店舗のあり方─

──唐津も日田も、入店した瞬間の心地よさが印象的で、五感が喜んでいる感覚がありました。木材は国産材を利用しているのでしょうか。

篠塚:構造材は、流通量や強度の観点から、外国産材を利用していますが、内外装には国産材を使用しています。地域の産業支援や、物流コストの低減などを目的とし、地域材の活用にも取り組んでいます。唐津と日田では、外壁材に地域材(佐賀県佐賀市、神埼市、大分県日田市)を合計36㎥使用しています。また店内の什器や休憩用のベンチや椅子にも、地域材を採用していますね。

──有事の際には、地域の拠点となるように災害対策にも力を入れていると伺いました。

篠塚:まず、省エネの観点からは、高性能断熱材、Low-e ガラス、高性能な換気、空調システム、BEMS(Building Energy Management System)を導入しています。BEMS は、人や温度、 CO2 濃度を感知するセンサーと、空調、照明等に付加した制御装置との組み合わせによって、建物全体のエネルギー使用を計測・管理し、自動で最適なエネルギー管理を行います。創エネルギーの要素としては、太陽光発電と蓄電池を活用し、施設内で使用するエネルギーを創り出していますから、有事の際にも利用が可能です。

──建物の高い耐震性やエネルギー創出の機能によって被災者支援が可能なんですね。

篠塚:このほかにも、太陽光発電とバッテリーを稼働させ、携帯電話などの充電が可能なステーションを開設できる設備を持っていたり、下水道と直結されたマンホールトイレや、平時にはベンチ、災害時には炊き出し用のかまどとして使用できる、かまどベンチも設置しています。
こうした取り組みを地域の方達と一緒に作り上げているのも特徴ですね。日田店では、防災教育、木育教育の観点から、「かまどベンチ」を日田市立日隈小学校6 年生と一緒に製作しました。また、外壁材に「日田杉」を使用していることもあり、地元で林業を学ぶ大分県立日田林工高等学校林業科・建築土木科の皆さんを対象に「建築現場見学会」も実施しました。いずれも、地域貢献の観点や木育、開店後に愛着を持っていただきたい思いがあり実施していますが、今後もこういった取り組みは積極的に続けていく予定です。

──ここまでお話を伺っていて、木造店舗の推進はESG の実践と地域貢献を融合させた取り組みだと理解しました。今後はどういった展開を描かれていますか。

篠塚:ありがとうございます。持続可能な社会の実現と地域の活性化に貢献していくことが木造店舗建築の意義だと考えています。唐津や日田の店舗ではオープン後に、その気持ちよさや安心感のあるデザインに、お喜びいただいていると聞いています。
「5 年間で25 棟」という目標を掲げている中で、ここ数年の木造建築に関する法改正も追い風になっていますから、私たち良品計画グループが取り組んでいる地元木材の積極的な活用を強みとして、地元の木で作る什器や家具のご提案もセットに、行政や民間企業様へも積極的に提案を加速させていきたいですね。

無印良品 日田の建築時の様子(構造段階)。耐震性の高いSE構法を採用している。

日田市立日隈小学校6年生と行った「かまどベンチ」製作ワークショップ。