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宿泊・滞在施設リノベーション事業 リーベルホテル大阪 [宿泊施設]
コラム
2022.05.02
対談
コラム
スターライト工業(株)栗東事業所は、自然豊かな環境の中に立地し、常時約300名が働いています。今回は、およそ30年間、ただ食事をするスペースとなっていた社員食堂を「人々が集いつながりあい、新しい価値観を生み出す場所」にするためにリノベーションしました。施工の段階から従業員参加型のDIYワークショップを開催し、その後もイベントやワークショップを通じて、多くのコミュニティを生み出しています。
対談のメンバーは、今回のプロジェクトの企画から運営までを行っているスターライト工業(株) 総務部の若山 修大さん、松原 禎さん、永井 真椰さん。全体の進行と空間デザインを担当した良品計画 空間設計部の森下 雅裕です。
若山:食堂全体が冷たく感じる空間で、昼食時にしか使われず、以前から改修工事をしたいという話はありました。コロナで食堂の利用者が激減したことを機に、本格的に改修工事を決断したんです。
松原:社内で1 年かけて検討し、「人々が集い、枠を超えてつながりあい、新しい価値を生みだす場」を作りたいと方向性を固めました。食事に限らず会議や休憩など幅広く利用され、社員同士のつながりが育まれる場所にしたいと思ったんです。サステナブルやBCPの観点も大切にしたいと思っていましたね。
森下:コンセプトを見た時に、場づくりのビジョンが明確で、当社でも大切にしている考え方でもある「共創」をスターライト工業様も掲げていることもあり、リニューアルの方向性に共感できた状態でスタートできました。みんなで空間を作り上げるにはどうしたらいいのか、ここが焦点でしたね。そういえば、私たちにお声がけいただいたきっかけは何だったんですか。
若山:食堂は親しみやすさが大切ですから、温かみのある場作りを一緒にしてくださる企業さんを探していました。普段から無印良品の店舗デザインに親しみやすさを感じていたのでお声がけしたんです。無印良品のブランド力は、社員にも喜ばれるだろうという期待もありました。
森下:コロナ禍でオンラインの打ち合わせが中心でしたが、動線や使い勝手、今後どうしていきたいかなど現場の方の意見も伺いながら、お話を重ねていきました。
こうして提案したコンセプトが「みんなの食堂」です。食事をきっかけに仲良くなる空間を目指しました。ただ食事をするのではなく、打ち合わせや休憩など、用途に応じて利用してもらえる場所を提案したんです。
若山:このコンセプトを聞いた時に、自分たちの想いとピッタリだと実感しましたね。昼食以外でも気軽に来てもらうためには、あたたかい家のような雰囲気が大切だと思っていたので、「みんなの」という言葉がそれを表していますよね。
森下:そう思っていただいて嬉しいです。
このほかにも、観葉植物を入れること、国産材の木材はもちろん、ソファの生地は再生PETからつくられたカバー、廃棄された衣料品の繊維からつくられたボード、そして、地産地消とサステナブルを意識して食堂の壁には地元の土を使った土壁を提案しています。この土は近隣の道路工事で事業所の敷地の一部を切り取った際にでた残土を使用しています。土壁は脱臭吸湿に優れているので、食堂という場所の特性を考えると理にかなっています。
森下:空間を作るだけでは“人がつながりあう場所”は作れません。そこで、コミュニケーションのきっかけづくりや、場所への愛着を育むために土壁づくりのワークショップを行いました。延べ230 名ほどの方にお集まりいただいたんですよね。
若山:そうですね。食堂のイントラネットに日々の作業風景をアップしていて、土壁のワークショップもそこで参加を呼びかけました。
永井:土壁の材料である土をふるいにかける作業は2週間で約180 名が、土壁を塗る作業には1日で約50名の社員が業務の合間をぬって参加してくれました。そのうち効率的な方法を考える社員が出てきたり、初体験の社員にレクチャーする社員が自然と出てきたりで、普段話さない部署との交流もあったようです。
若山:土壁の提案を受けた際は、「壁が落ちるのでは?」や「剥がれた時の補修は?」等の意見が出ました。綿密に計画してくれたこともありますし、DIY をして補修の仕方もわかったので、不安は特にありません。今後も愛着を持ってこの場所を使っていきたい私たちにとってDIY は、大切なプロセスだったと思います。
森下:計画段階から、グループエリア・おひとり向けの高回転エリア、長時間エリアとゾーニング分けをしていたので、それがうまく機能しているのを実際に確認できてよかったです。
永井:おかげで一人でも周りを気にせずゆったりと過ごせるようになりましたね。食堂の利用者が増え、利用率も上がっています。食堂での会議も当たり前になりました。
若山:敷地内にいる別の企業さんが休憩に利用してくださるようになった、というのもわかりやすい変化ですね。
永井:私は食堂で行うイベントの企画・運営を担当しています。食堂のオープン以降は、納涼祭や社のOB/OG 会、ヨガ教室、オリジナルブレンドコーヒーの調合イベントなどを開催しています。また、地域の方向けに事業所の自然環境を活かしたいきもの観察会も行っています。
以前の私たちだったら、社内のつながりでイベントを開催していたと思いますが、あえて地域に飛び込んで、自分たちでつながりを作ることから始めるようになり、いきもの観察会もコーヒー豆の調合イベントも地域の方に講師になっていただきました。食堂を作ったことが私たちの自信になって、次の活動へと背中を押してくれます。
若山:「人々が集い、枠を超えてつながりあい、新しい価値を生みだす場」を作るために、私たちの活動はまだ始まったばかりです。良品計画さんとはお手洗いのリノベーションやイベントの開催など、一緒に取り組みを続ける予定なので楽しみです。
延べ230名が参加したワークショップ。食堂への愛着へとつながっている。