# 26 わたしのコツ – 最終回 –
2020年 3月 24日
2020年 3月 10日
春の雨がしっとり金剛団地を濡らして、ちょっと落ち込んでるようにも見えるのは、予報通りのこの雨で、楽しみにしていたキナリちゃんとのお出かけを断念したからなのかもしれない。行こうと思ってたマルシェが雨で中止になっちゃったから、とりあえずいつも通り、わたしの家で集まることに。
「雨じゃあしかたないですよねー」と、傘をくるくる回すキナリちゃん。
「だねー。今日は家の中でなにしようか」と、水たまりを避けながらわたし。
「どうせなら、思いっきり時間がかかることしたいですよね」と、キナリちゃん。
「……餃子包むとか?」と、わたし。
「あおさん、それは……大賛成ですっ!」
と、いうわけで。
「彼が風邪ひいてデートの予定がなくなっちゃった!」というきいちゃんと、「雨の日は庭の世話せんでいいから、ひまなんよね」というしろちゃんも、連絡を取り合ってうちに集合することになった。急に集まることになるの、みんなで鍋を囲んだあのときみたい! みんながいると、どんな日もすぐにわくわくする一日になる。
「あおちゃんち、また行きたくなるんよね」「広いし、きれいだし。駅からも良い距離だしねー」とみんなが褒めてくれるから、団地ぐらしがまた好きになっちゃうなー。
キャベツを刻んでひき肉をこねて、間違って買っちゃった牛挽き肉もチーズや大葉を混ぜてみて、海老とホタテは包丁で叩いて、大餃子大会。みんなで餃子を包みながら、おしゃべりは包み隠さずね。
しろちゃんは餃子を包むのがとっても上手で、なんかもう無意識で手が動いてるみたいだった。キナリちゃんは横でしろちゃんの手さばきにひたすら感動して、手よりも口が動いてた。
きいちゃんが「変わり種もつくろうよ」と言ってバナナとかあんことかいろいろ甘いものも持ってきてくれたから、それもせっせと皮に包んでいく。
最初は不格好でも、慣れてくるとかたちになるものだね。わいわいみんなでいろんな包み方に挑戦しながら、あっという間に200個の餃子ができたよ。……つくりすぎたかな?
ぱりっとした焼き餃子、むちむちの蒸し餃子、ちゅるんと喉越しのいい水餃子、ざくざくお菓子みたいな揚げ餃子、ぜんぶの調理法でつくっておいしいおいしいって言いながらぱくぱく食べた。ぱんぱんになったお腹をさすりながら時計を見るともうお昼をとっくに過ぎていて、いやあ食べすぎたな、いやわたしまだいけるよ、うっそお、なんて笑い声。
後片付けも終わって食後のお茶で一息ついていたら、「これやらへん?」と、しろちゃんがかばんからおもむろにトランプを出してくれた。
「私、トランプ大好きなんよね。どこでやっても楽しいからね」
ふんふんと鼻歌を歌いながらみんなにトランプを配りはじめるしろちゃん。トランプそんなに好きだったんだ。なんか素朴でいいな。
でもたしかに、記憶の中のトランプは親戚との集まりとか修学旅行、4人席の電車とか、楽しい思い出ばっかりだな。トランプって実はすごいパワーを持っているのかもしれない。
ババ抜き、七ならべ、一休さん。なつかしいトランプ遊びはびっくりするぐらい盛り上がって、もうなにがおかしいのか分からなくなるくらいケラケラ笑った。
気づいたら雨なんか忘れるくらい家の中で楽しんだから、雨の日もいいなって思えた1日だった。みんなが帰ったあと日記を書いていたら、もう雨が止んだみたい。たくさん降ったあとだから、今日は空気が澄んで星がきれいだろうなあ。
楽しかった休日があると、そのあとの日常も頑張れる。いつだって今日はあの日の続きだもんね。
今日のお仕事は昼からだから、朝目が覚めてしばらくはベッドの上でぼーっと雨の音を聴いた。しとしと、ぱらぱら、さらさら。自然の音を聴いていると、しんとした森の中にいるみたいだった。
お昼ごはんまで時間があるから、雨の日の話をしようかな。
まず、散歩の話。
雨の日はつい家にこもりたくなるけど、きんと凍える冬の雨や蒸し暑い夏の雨に比べると、春の雨はさわやかなものだと思う。そんな日は無印良品のレインコートを着て、ちょっと早めに家を出て、ゆっくり歩きながら仕事に向かう。
ちょっとでも服やかばんが濡れたら落ち込んじゃうから、レインコートに傘っていう完全防備がわたしの雨スタイル。
この葉っぱ、濡れたらこんな色になるんだ。とか、雨のにおいとか、五感を景色に集中させてみる。スマホの中にはない、自然で、豊かな時間。心を休める、ってこういうことを言うのかもしれないね。
それから、傘の話。
昔、ビニール傘を使ってたころ。突然の雨に降られたらまずコンビニで、とりあえずのビニール傘を買う。それの積み重ねで、家には使わないビニール傘があふれてた。大切にされない、その場しのぎの傘。そのうちどこかでなくしたり、お店の外に置いてると間違って持っていかれたり、壊れたときには捨てる場所に困ったりしてたこともあったな。駅の忘れ物センターは傘であふれてるって聞いたことがある。きっとみんな、わたしも含めて、「わたしのだよ」って気持ちで傘を持っていないからだと思った。
そんなときに買ってみたのが無印良品の「しるしのつけられる傘」。わたしは、ひとつひとつ職人さんの手縫いでつくられている大槌刺し子のキーホルダーをつけたよ。すこしの工夫で愛おしさが生まれるのって、団地ぐらしと同じだなって、ふと思ったり。
家の中、ひとりですごす雨の日の話。
雨の日は絶好のそうじ日和でもあるよね! 時間があるから、ひとつひとつの動作を、ゆっくりするように意識してみる。ひとりだったら好きな曲をかけて歌いながらほうきをかけたりね。毎日忙しいけれど、こういう一日があるから立て直せて、また明日からも落ち着いてすごせる。大事だ、だいじ。ていねいにコーヒーを淹れて、本でも読もうかな。
雨の日のしあわせは、団地に住みはじめてから味わえるようになったこと。
ゆったりとしたこの景色は、いろんなことを教えてくれるなあ。
団地に引っ越してもう、まる1年。はやいものだな。
気が付いたら日記帳があと1ページになっていた。
(つぎは最終話です。)
# 26 わたしのコツ – 最終回 –
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