# 26 わたしのコツ – 最終回 –
2020年 3月 24日
2019年 5月 28日
うーん、イスがほしいな。キッチンに。
休憩中、近くのカフェに行くと職場の上司のふかみどりさんがいた。歳はわたしの二回りくらい上の人で、よくためになる言葉をくれるから、わたしはいつもこっそり手帳にメモしてる。
コーヒーの香りに包まれた店内で、お店自慢のカツサンドを食べているふかみどりさんに、「イスを買おうと思ってるんです」と相談してみた。
「イスを買うって、特別なことだよ」
目をまるくして言ったふかみどりさん。つられてわたしも目がまるくなった。
「どうしてイスが欲しいの?」と聞かれて、
「キッチンにダイニングテーブルがあるんですけど、イスがないと立ちっぱなしで不便だし、あと上の戸棚に手が届かないので……」
と答えると、ふかみどりさんは腕組みをしてうーんと唸った。
「イスは、生活の質感を決めてしまうからね。部屋を選ぶことと同じくらい、空気や時間を変えてしまうんだ」
そうなのか。頷くわたしにふかみどりさんはニッと笑ってこう言った。
「なんのためにイスを買うか、もう一度ゆっくり考えてみた方がいいよ」
昨日ふかみどりさんと話してから、イスのことばかり考えて暮らしてる。
なんのためにイスを買うのか。どうしてイスが欲しいのか。
床でのゆるりとした生活を気に入っているけど、イスに座って机に向かう時間も大切にしたいと思う。少し背筋を伸ばして、本を読んだり勉強したり、集中してえんどう豆の筋を取ったり、だれかと真面目な話をしたり、そういうきりっとした時間があるからこそ、床でだらーんとくつろぐ時間がより愛おしく思えたりするんじゃないかな。
あともうひとつ、イスがほしいと思う理由がある。実家のダイニングテーブルのイスは家族でそれぞれ席が決まっていた。わたしはお母さんのとなり。ごはんを食べるときも家族会議のときも、わたしの場所は変わらずそこで、それが嫌なときもあったし、泣けるくらいうれしいときもあった。
わたしの家にもわたしの場所がほしい。ここにいていいよって言う、友だちみたいなイス。永く使える良いイスを、一脚買おうと決めた。
「イスを買うときはぜっったいに座って買ったほうが良い!」というのは、おなじみしろちゃんからのアドバイス。見た目が気に入るものをネットで探そうとしていたわたしに、「イスはね、見た目よりも座り心地やで。うちの店においで。一緒に選ぼう」と言ってくれたので、お言葉に甘えてしろちゃんの働く無印良品イオンモール堺北花田へ。
無印良品にあるすべてのイスを代わる代わる座ってみて、その中で一番座り心地がしっくりきたラウンドチェア・オーク材に決めた。
イスは空気や時間を変えてしまう。ふかみどりさんの言葉を思い出しながら、背もたれのカーブや座ったときの景色、木の色まで丁寧に吟味して、レジでお会計するときにはすこし手汗をかいた。
一脚良いイスを買ったから、人を招くときは家にある軽いスツールや頑丈ボックスに座ってもらおう。ばらばらでも、無理して買い揃えるよりずっと良い。
家に帰って、窓辺に置いてみる。イスに座って、日記を書いてみる。
どうぞよろしく。仲良くしようね。
この前きいちゃんと堺北花田の無印良品に行ったとき、週末マルシェをやっていた。
そういえば、去年の夏と今年の初めもつながる市のマルシェをしていたなぁ。いつもの無印良品が市場みたいに活気づいていて、歩いてるだけで楽しくなる感じ。「安いよ、新鮮だよ!」と、声を張り上げて野菜を売っている農家さんたちの笑顔につられて、かなり買い込んでしまった。
大阪府立大学で太陽と土を使わず育ったレタス。葉のすみずみまでいきいきとした、中島さんのクレソンとリーフミックス。おしりがキュッと尖ったハート型の中前さんのトマトベリー。泉州の大家族農家、三浦さんのカラフルにんじん・新たまねぎ・水なす。森田さんの生きくらげは、ここのお店で初めて知った。農家さんと話をしながら、試食して買い物できるのがうれしかったなぁ。
三浦農園の麻衣さんに、ずっとなんとなくだった玉ねぎと水なすの保存方法を聞いてみた。
「玉ねぎは風通しの良い場所に保存するか、皮をむいてからジッパー付きの保存袋に入れ、冷蔵庫で保存してください。水なすはパックのまま常温か、冷蔵庫で保管する場合は新聞紙に包んでから。水なすはデリケートなので、暑くなりすぎても冷やしすぎもダメなのです。新聞紙がない場合はキッチンペーパーなどでも大丈夫です。どちらもできるだけ早く、おいしく食べてくださいね!」
聞けば麻衣さんは野菜ソムリエの資格も持ってるんだって。自分がつくった野菜の一番おいしい扱い方を、自分の口で伝えられるなんて素敵だな。「農家にも武器が必要なんです」と笑う麻衣さん、かっこよかった。
今日はお休み。今週のつくり置きをするつもり。マルシェで買った野菜たち、今から愛をこめて料理するからね。
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自然溢れる大阪府富田林市のUR金剛団地を舞台に、無印良品のスタッフが実際に一年間住んで感じた「団地ぐらしの魅力」や「感じ良いくらしのコツ」について、無印良品イオンモール堺北花田が全面サポートしてお届けする日記形式の回想レポートです。
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