# 26 わたしのコツ – 最終回 –
2020年 3月 24日
2019年 4月 2日
団地って古着だ、と思う。どういうところがって聞かれたらたとえば、ちょっと昔の流行のもの、けれど丁寧につくられた質の良いものが、そんなに高くない値段で手に入るところとか。70年代や80年代、そのあたりに流行ったデザインや設えが、いまとてもかわいく見えているのは、きっとわたしだけじゃない。古着や団地には、昔の丁寧なものづくりの痕跡や、流行だったものの中にある本質だけが残ってる。だから、じぶんの目を持っているひとにとっては、宝物のようなものなんだ。
そもそも家って服みたいなもので、同じ家(服)でも、住む人(着る人)によってコーディネートがぜんぜん違って、その人の個性や考え方みたいなものが顕著に出て、それが楽しいっていうところがある。自分らしい家を。自分らしい服を。
これは古着を楽しむように団地暮らしを愛す、わたしの日記。
ちょうど4年住んだワンルームを引き払って、団地に越してきてから1ヶ月と少し。桜は五分咲きといったところ。日記の書き出しはいつもちょっと緊張するな。
日記を書き始めたきっかけは、内覧から引越しまでずっと手伝ってくれた、友人のしろちゃんのひとこと。
「引越しの日々と、今の暮らし、絶対また思い出したくなるよ」
わたしもそう思った! ただ引っ越しただけじゃなくて、いろんなドラマがあって、気持ちがあって、工夫もして、いろんな人に助けてもらって。そんなキラキラした日々をいつか思い出す日のために、ここに記すことにしたんだよ。
大好きな窓の外の景色を眺めながら、引越し前のことを思い出した。
「部屋をえらぶとき、いちばん始めにすることは、“自分にとって大切なことを3つ書き出すこと”。あおちゃんが新しい部屋で大切にしたいものって、なに?」
しろちゃんは無印良品のインテリアアドバイザー。同じく無印良品で働くわたしとは昔ながらの友人。仕事でいろんな家や引越しを見てきたから、わたしの引越しや部屋づくりも、たくさんのコツを教えてくれた。この日記はしろちゃん語録と言っても過言じゃないと思う。
わたしが大切にしたい3つ。ひとつ、洋服をたっぷり収納できる場所がほしい。ふたつ、料理を思いっきり楽しみたい。みっつ、人をたくさん招きたい。ほかにも風通しや陽当たり、水周りの感じ良さももちろん大事だけど、この3つが叶えられなきゃ始まらない。いくつかの部屋を内覧して見比べて、3つすべてを叶えられると確信したのがこの金剛団地だった。
団地への憧れは前からあった。電車の窓から見える景色に、段々になって並ぶ団地が映ると、なんだか心が躍る。デザインが好きなんだと思う。今の建築物には無い古着のジーンズのような風合いや、レトロな模様の擦りガラス、シンプルだけど無機質じゃない棟番号のフォントなんかが、無性にわたしの好みに突き刺さった。
「住む部屋に、自分が好きになれる場所があるかも重要やと思う」
これは部屋探し中のわたしへの、しろちゃんの言葉。この部屋でお気に入りの場所はもう見つけた。リビングの床に座ったところから見上げるとちょうど空が綺麗に見える、大きすぎない窓辺。下半分が擦りガラスになっていて、それがまたかわいい。
「毎日使う水周りもきちんとチェックしてね」と言われたから、キッチンを見比べて部屋を選んだりもした。白いタイルのキッチンは、無印良品のステンレスバスケットの大も置ける広さがうれしい。お気に入りのキッチンに立つだけで気分が上がって、歌いながら料理してる。
しろちゃんに教えてもらった部屋選びのコツのおかげで、毎日が心地良い。実際に住み始めるともっとたくさん団地の魅力を見つけてしまったわけだけど、それはまた追い追い。
今日は仕事はお休みで、できるならずっと寝ていたかったけど、泣く泣くベッドにお別れをして買い物に出た。お昼ごはんは駅前のうどん屋さんで、うどんすき鍋を。
「部屋をえらぶときは、近くの店やスーパーに入ってみること。そこでの暮らしを想像して、その土地を好きになれるかも大事やよ」
内覧のとき、しろちゃんがここのうどんをすすりながらそんなことも言ってたなぁ。
自然がいっぱいで、ほどよく便利で、空が広く感じる金剛団地。団地全体がひとつの街みたいで、すれ違うご近所さんにあいさつをしたり、道端に知らない花が咲いていたり。毎日の買い物は関西スーパー。ケロちゃんのぬいぐるみとかたこ焼き器とか、こんなものまで売ってるのっていう商品も並んでたりして、けっこうおもしろい。
わたし、この街のくらしがすでにかなり好きかもしれない。これから、もっともっと好きになっていくんだろうな。
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