vol.13 春秋の家
「無印良品の家」で暮らしている方を訪ねて奈良?平群谷へ。 映画監督の河瀨直美さんが、大きな桜の樹に寄り添う「窓の家」に会いに行きました。

施工例 | 2013.7.9

プロローグ

たからもの

住まいには花が必要だ。どんなものでもいい。生きているもの。だからわたしは必ずそれらをかかさない。やがて、できれば庭が欲しいと想い始める。地面に根差して空に向かって伸びゆく木々が大きな窓から見えるのなら、そしてそれらが風に揺れている姿があるのなら、そんな場所に暮らしたい。夕日が好きだ。夕暮れの、夕飯の匂いの、あの場所へ帰りたくなる。西に沈む太陽の、赤い、オレンジの、黄色い、記憶の中の太陽たちは、それぞれにみな温かい。それらはふいにわたしの脳裏をかすめ、そこへ帰りたい衝動にかられる。大人になって、新しい家族ができて、子どもが生まれ、育んで、そんな記憶の断片のような日常が繰り返されてゆくのなら、わたしはそれを幸せと呼ぶだろう。きっといつか、それらが過ぎ去り、その家がもう誰も暮らさない場所になったとしても、そこは誰かの記憶の奥底に刻まれて色褪せず、永遠という名のもとにあり続ける「宝物」なのだから。

河瀨直美|かわせなおみ
映画監督
奈良生まれ。1997年『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭カメラドールを最年少で受賞。07年『殯の森』で同映画祭グランプリ受賞、09年には「黄金の馬車賞」を女性、アジア人として初受賞する。
第66回カンヌ国際映画祭ではコンペティション部門の審査委員に。
地元奈良で映画制作を続けながら「なら国際映画祭」のディレクターも務める。